第16話 謁見

 着替えたり、身だしなみを整える部屋だとは思えない豪華なところで僕は準備をしていた。

 なんの準備か。それはこのイセン王国の最高権力者である国王に会うためのだ。


 そんなことを急に言ったルーエルにいつか勝ってボロボロにしてやると思いながら鏡を見る。

 映るのは目付きが悪い緑色の目をした金髪の男だ。ボロボロだった緑色の貴族服は新品同様になっている。

 まあ、これなら大丈夫だろう。


 そう思い僕はドアまで歩き、開ける。外に出ると執事のヴァルが立っていた。


「お似合いです」

「いつもと変わらな、いや変わるか。ま、いいや。早く行こ」

「はい」


 僕たちは広い城の中を歩き、ついには国王と謁見する場所であるところの前まで来た。

 そこはこれまた豪華な門で閉ざされていて、そこを槍を上に持っている兵士2人が守っていた。

 そして他にも人はいる。それはドレスコードをしているフラムとクロフで、僕を見つけた途端に近づいてくる。


「先輩!俺怖いっす!なにか無礼を働いて不敬罪で殺されそうで!」

「バカ。国王陛下がいるところの前でそんなことを口走りるほうがよっぽどの不敬でしょ」

「あ」

「あはは!フラムの顔色コロコロ変わって面白ーい!」


 確かに急に顔色が青くなるのは面白い。そんなことを思っていると足音が聞こえ近づいてくる。あいつらも準備が終わった……ん?


「どう?兄さん似合ってる?」

「いつもと変わらないじゃん」

「……そこは似合ってるって言うところ。そんな塩対応じゃ女の子にモテないよ」

「ふん。そんな下らない言葉で好感が変わるバカ女になんてモテたくないね。そんなことよりお前以外のやつらは?」

「皆は他の部屋で待機中。前々に色々な説明は済んでるしね」


 そんなことを言いルエールが兵士に話をかける。すると門を開けてくれた。


「ついて来てください」


 そう言い僕たちは先導する。門の中はこれまた長い道が続いていた。そこを全員が緊張感を出しながら無言で通る。

 少し歩くとまた門が見える。それを兵士がトントンと叩いた。


「国王陛下!勇者さまご一行をお連れいたしました!」

「うむ。入れ」

「はっ」


 兵士がまた門を開け、そこを通る。するとそこは城とは比べ物にならないほど豪華な場所で、数十人はいる兵士が槍を持って僕たちが通る道の両横に配置されている。

 少し前に王座がある場所で止まり、跪き頭を下げた。


「こうべを上げよ」

『はっ』


 そう言われ頭を上げ、王座を見る。座っているのは王冠と豪華な服を着て、威厳を醸し出している30代後半の男。

 この人が国の国王だ。会うのは何年ぶりだろうか。


「息災か。女神アレルに選ばれし勇者よ」

「はっ。国王陛下のご統治のおかげで」

「そうか。ではジェロア、お前はどうだ?」


 国王が僕に目を向けた。普通の人間なら萎縮してしまうだろうが僕は多少は人となりを知っているので冷静に答える。


「はい。少々フェクシオ家での問題があり、2年ほど辺境都市セシニュスで暮らしておりましたが問題はなく」

「それだ。ジェロア、貴様の気持ちを全て理解することはできないが、人間、諦めというのも肝心だぞ」

「……肝に銘じておきます」

「そうしろ」


 僕の考えを見透かしたような発言をする。ごもっともだ。分かっている。だがやっぱり諦めきれない。


「そして、その他のものたち。よく私の前に来てくれた。感謝する」


 一息置き、また喋り始める。


「お前たちを呼んだのはただ1つ。それは」

「お待ちくださいシュテル様!」


 聞き覚えのある名前が門の前で呼ばれ嫌な予感がし、後ろを見る。するとバン!と大きな音を立てるながら門が開かれた。


「ジェロアー!」


 ここには相応しくない元気な声が聞こえる。その声を出した奴はピンク色の髪をし、黒色の瞳を持っている同年代の女だ。

 そして体系はスタイルのいい程度では言い表せられなく、ルエールにはない大きな胸を持ち、それを揺らしながら近づいてくる。

 服装は露出度が高い黒いドレスを着て、これまた黒い長手袋を付けている。普通に歩いていたなら有象無象どもの目を引くだろう。


「うぐっ!」

「会いたかったわぁ!」


 そんな奴が僕に抱きついてくるのでつい倒れてしまう。


「バカ娘が……!」


 国王が顔を手で覆い、怒りを込めた声で言う。そう。こいつ国王の娘。この王国の第一王女様だ。


「うふふ!」

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