第12話 敗北
「……ん?」
天井が見える。知らないわけじゃない。ここは確か……。
「兄さん起きた!?」
「っ!?」
急に大声を出され驚いてしまう。出した奴はさっきまで僕と戦っていた僕の妹のルエールだった。
「……うるさい」
「あ、ご、ごめん」
「……いいよ、別に」
気まずい雰囲気が流れる。僕はそれが気に入らなかったので話をする。
「ここ、冒険者ギルドの医務室だよね?なんでここに……って、ああ、僕が口から血を出したからか」
さっきの忌々しい記憶が甦るってくる。あんな醜態を晒すなんて本当に最悪な気分だ。
「そうだよ兄さん。あのあとティナが治してくれたからよかったけど」
「そ。なら一応お礼でも言っておこうかな」
「……それ、違う意味が含まれてないよね?」
「……僕はそこまで性根が曲がってないよ」
僕が不機嫌になるとルーエルがごめんごめんと謝ってくる。なんだか久しぶりだ。こんな会話も。
「ねえ」
「なに」
「いつも、あんな薬飲んでるの?」
声のトーンが下がり真面目な表情になる。まあ、そりゃ聞くよね。
「いや。いつもはもっと副作用がない奴。さっき薬のために耐性をつけようとして飲んでたんだけど、まさかここまで酷いとはね」
驚いたと言うとルーエルがベッドに寝っ転がっている僕の胸ぐらを掴み顔を近づけてきた。
「そういう薬は、もう二度と飲まないでね」
「……なんでお前にそんなこと命令されなきゃならないんだよ」
「っ!僕は兄さんを心配して!」
「お取り込み中のところ失礼いたします」
言い争いを始めようとしているとドアの外からヴァルの声が聞こえる。
「ルエール様の命令通りお連れしました。入室しても?」
「……うん。入ってきて」
「は」
ルエールが胸ぐらを離す。お連れした?いったい誰を。そんなことを思っているとヴァルと僕の見知った奴らが入ってくる。
「失礼しまーす。あ、先輩!マジでボロボロじゃないっすか!てか勝手にヴァルさん呼び出すのやめてくれません?」
そう軽薄なようすで近づいてくるのは僕の1つ下で褐色の肌をし、赤い瞳と髪を持つ男だった。
服装は黒いロングコートを着ており少々威圧感がある。
「そうだよ!私たち歩いてここまで帰ってきたんだからね!疲れたから謝ってよ!」
もう1人は10歳ぐらいの少女で赤いローブを着ており、白髪で赤い目をしている奴だ。
「ヴァルは僕の執事だ。いつどう使おうが勝手だろ」
「出たっすね!先輩の貴族的な価値観!クロフちゃんどうします?」
「うーん。今のジェロアお兄ちゃんなら私とフラムが協力すれば痛い目見せられるかも?」
「はっ。寝言は寝て言えよ」
というかなんでこいつらがルエールに呼ばれたんだ?
「おいフラム。説明」
「え?何のっすか?」
「お前らが来た理由」
「ん?ああ。それはっすね」
「それはボクが説明するよ」
そう言いルエールが説明を中断してくる。するとフラムは媚びた笑顔を見せた。
「いやー代わりに説明してくれるなんて優しいっすね!貴方みたいな人が先輩の妹なんて信じられませんよ!てかルエールさんって公爵家を継ぐ人だって先輩から聞いてますよ凄いっすね!あ、そういや自己紹介がまだでしたね。俺はフラムって言って冒険者やってます!」
どうぞよろしく!と握手を求めるがルエールは真顔になり、一向に反応が返ってこない。
「?どうしたんすか?」
「……ボクは女の子と家族以外とは身体的に触れ合わないって決めてるから」
「あっ。そうなんすねー!やっぱあんた先輩の妹っすね!兄に似てヤバいっすわ!」
「は?それどういう意味?」
「え?あ、あはは。さあ?」
兄に似てヤバい?聞き捨てならないぞお前。
「ジェロアお兄ちゃん!フラムのお仕置きはあとにして早くこのお姉ちゃんのお話し聞こうよ!私ここにいるの飽きちゃった!」
「え?俺このあと酷い目にあわされるの確定なんすか?」
フラムが絶望した表情をしている間にルーエルがクロフの言葉を聞いたのか膝まずき、その小さな手を取っていた。
「ごめんね。君のような可愛らしい子猫ちゃんを飽きさせてしまうなんていう罪な行為をしてしまった、ボクを許してくれ」
「あはは!お姉ちゃんなに言ってるの?おもしろーい!」
「その気持ちの悪い浮ついた言葉を吐くのを今すぐやめてくれない。気分がが悪くなる」
ボクは久しぶりに聞いたルエールの口説き文句を聞いて心底嫌な気持ちになる。ほんと、よくすぐそんな言葉が出るもんだ。
「ひ、酷くないかい兄さん?まあ、いいや。じゃあボクたちがここに来て、この2人が集められた理由を説明するよ」
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