第8話 眷属魔法

 クリュスがそう言うと草原を凍りつかせながら僕の前まで巨大な氷の波が迫ってくる。このままでは僕を巻き込み人形の氷のオブジェができあがるだろう。ま、なにもしないけど。


「っ!正気ですの!?」

「さぁ?どうだろうねぇ?」


「……あは!どうやら正気じゃないみたいですわね。ならそのまま凍りなさい!」


 嫌な予感を誤魔化すようにクリュスが笑う。いつの間にか氷の波が目の前に迫りそのまま僕を。


「ギャッ!?」

「……はぁ?」


 凍りつかせなかった。その変わりにアンナと戦闘をしていた仮面メイドが氷のオブジェになり、しかも波そのものもがそこに移動している。

 その状況にクリュスは困惑の表情を浮かべた。


「ど、どういうことですの?ワタクシは確かに貴方を凍りつかせようと……」

「何でだろうねぇ?怖いねぇ?」

「っ!その舐めた態度を今すぐやめて説明なさい!これは一体どういうことですの!?」

「ハハっ!その顔最高だよ!」


 その錯乱した顔が気にいり、僕は理解力がない公爵令嬢さまに説明をしてやる。


「じゃ、特別にしてあげるから。ちゃんと聞きなよ?」

「早くしなさい!」

「はいはい。じゃあ、眷属魔法は自分が想像した生きたものを魔力に形と知能と意識を与えて、現実に作り出すっていうのは知ってるよね?」

「それぐらい知っていますわ!ワタクシはなぜ!」

「あー分かってる分かってる」


 言葉を遮り無駄な説明をやめ、本題に入る。


「何で消えたかでしょ?それは簡単な話だよ。仮面執事メイドたちに僕に攻撃が当たりそうになったら攻撃ごと移動して代わりに受けるっていう能力を付けただけ」

「……はぁ?」


 はは。驚いてる驚いてる。まあそういう反応するよね。


「あ、ありえませんわ!貴方の眷属魔法はそこまで異常ではありませんでした!それが可能ならもう、何でもありになりますわよ!」

「よく分かってるじゃん。そう、なんでもありだよ。もう昔の眷属魔法じゃない。僕だってさ、ここでただ遊んでた訳じゃない。死に物狂いで努力してたんだよ」


 そう努力した。どんなことでもした。ただ1つの目的のためだけに。


「だからさ。お前みたいな王都でくっだらない魔法学園に入って遊んでた奴が僕に勝てるはずがないんだよ」

「っ!そんなことがぁ!」


 またバカの1つ覚えのように同じことをする。だがまた氷ごと仮面の方へ移動してしまう。


「だから無駄だって。ま、いいや。そろそろお前と話すのも飽きてきたしさ、もう終わりにしてやるよ」


 そう宣告した僕は眷属魔法を使い、仮面執事メイドとは違う新しいもの作り始める。

 緑色のドロドロした魔力が現れうごめき、巨大なものに変形していく。それが終わり現れたのは。


「ギャオォォォ!」

「ど、ドラゴン……?」

「ははっ!その通りぃ!」


 緑色の鱗を持つドラゴンが咆哮し、自身の存在を誇示している。それにクリュスは恐怖の顔を見せた。


「あ、ありえませんわ。こんなことが……」

「残念だけど現実。というかいいの?氷魔法使わなくて。お前死んじゃうよ?」

「っ!」


 ドラゴンの口から緑色の火が溢れ出す。これはドラゴンが炎を吐く前に起こる現象だ。

 それに気がついたのかクリュスは氷魔法の準備をする。


「氷には炎をぶつけるのが鉄則だろ?ほら、耐えきってみな……」


 言葉が止まる。なぜか。それは2歳下の妹であるナタリーが雷を剣と体に纏いながら僕に接近し、斬ろうとしてきたからだ。


「今だくらえ!お兄、様……?」

「あのさぁ……」


 ナタリーは僕を斬ったのに何も変化がない状況に驚いているようだ。本当にバカだなこいつ。


「お前、僕の話聞いてた?攻撃は全部あいつらが肩代わりするんだよ?」


 そう言うと愚妹は気まずそうな顔をする。


「う、嘘かもしれないと思って……」

「こんな時に嘘つくかよ。てかお前ちょっと雷魔法の力上がった?やるじゃん」

「あ、分かる!?うん!私ものすごく頑張ったんだぁ!」

「そうなんだー。それじゃ」

「ん?」


 僕は笑顔になりながら指を鳴らし、眷属魔法で緑色の毛並みの狼を数百体作り出す。


「これぐらい相手できるよね?」

「む、無理です……」

「無理じゃないやれ」

「お兄様のそういうとこ本っ当に大っ嫌い!!!」


 狼共をナタリーにけしかけてクリュスの方を見る。すると前に分厚い氷の壁が出来上がっていた。


「準備ができたみたいだね。それじゃ、続きと行こうか。おい、やれ!」


 ドラゴンに声をかけると口から炎を吐き出す。すると氷の壁が一瞬で溶けて突き破り、草原が燃える。まるで地獄のような光景。

 その状況で様子を見るとクリュスは気を失っているようだ。


「魔力を纏って防御したか。ま、手加減はしたし消し炭にならなくてよかったね。それじゃ次は」

「そこまでだよ。兄さん」

「あ?」


 僕は突然聞こえた方を向くと敵意むき出しのルミールがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る