ドーナツ

高本 顕杜

ドーナツ

 ドーナツがしゃべった!

 

 みちるは、皿にのったドーナツを前に固まった。

 小さな椅子から跳び立ち、パタパタと母親の元に走る。

「ままー! ドーナツしゃべったの!」

 しかし母親は信じず「はいはい、すごいすごい」と家事をしながら流されてしまった。

 しょうがない――みちるは意を決し座り直し、再び不思議なドーナツに向き合う。

「ひでぇじゃねぇか、俺をおいてくなんて」

 外見に似合わず怖そうなドーナツだ。

「……生きてるの?」

「おう、ぴんぴんでぃ」

 みちるは目を細めドーナツを凝視した。

 怖そうなドーナツといえど、こんがりのきつね色に、粉砂糖がまぶされた美しい見た目だった。

 と、ぐぅー、低い音がなる。

 みちるは咄嗟にお腹を押さえた。

 しかし、その目はドーナツを離さない。

「いたいの?」

「えっ……?」


 次の瞬間ドーナツの悲鳴がリビングに響いた――かもしれない。

 その後、みちるは、何もなくなった皿を前に、とろけるような笑顔を浮かべるのだった。

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ドーナツ 高本 顕杜 @KanKento

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