第2話 デイルームでのカフェオレ

「ごめん、ごめん。

あのさ、アサコやポンにはまだ言わないで。

ちゃんと私から連絡するから。」


「え、、、。わかった。」

私はヨリコの顔がいつものおふざけと違ってたから理由を問い詰めたりできなかった。


「あのね、デイルームに行こうか。

ちょっと手伝ってくれる?」


「うん。わかった。」

ヨリコは酸素の器械に鼻のチューブの先を付け替えて点滴スタンドに寄り掛かるように立ち上がった。

ふらっとしたから驚いて体を支えた。

そこから、ヨリコの体を抱きしめて歩いたわ。

痩せたわね、、、。


デイルームには誰もいなかった。

「アズ、私ね。次の新月の日に死ぬわ。」


「何言ってんの?意味がわからないわよ!

ちゃんと説明して、お願いだから。」


「わかった、わかった。直ぐに熱くなるんだな。アズは。

まあまあ、何か飲みながら話そ。

そこにさ、自販機があるから、、。

私はカフェ・オ・レね。」


私は何でもいいからヨリコと同じのカフェ・オ・レにした。とにかく、早くヨリコの話が聞きたかったから。

ヨリコはペットボトルの蓋をあける事もできないようだった。

急に悲しくなって、それの感情を否定したくて

ペットボトルをわざとぞんざいに取り上げて

開けて渡した。


「ありがとよー。さすが握力すごっ!」

そう言うとコクっと一口を力を振り絞るように飲んだ。


「何かあったの?」


「うん。そだね。

癌になったのね。わかってたの。そうなる事はね。治療はしないと決めたの。

それでね、家で暮らしてたのよ。

普通にね、暮らしたかったの、、。

ノゾミの事も心配だったからね。」


「ねぇ、癌になって治療しないって?

治療できたのにしなかったって事?

どういう意味なの?全然わかんない。

それとノゾミちゃんの為ならヨリコは生きなきゃなんないでしょう?」


「そうだね。

アズ、、。

ノゾミの方が先に癌になったんだよね。

あの子にはまだ小さな子供がいるからね。

何としても生きて欲しいって、治療費なんか

家を売っても作るって思ったの。

去年、肺転移が見たかってね。きつい治療をねしてるあの子を見てるともう、いつまで続くんだろと思ったわ。

親だもの、変わってやりたいと思うじゃない。

そうじゃない?」


「そうだったの、、。ノゾミちゃん、再発してたの、、。」


ヨリコの娘のノゾミちゃんは三十路も過ぎて結婚した。不妊症の治療をして何度かでやっと

双子ちゃんを授かった。

喜びも束の間、ノゾミちゃんに卵巣癌が見たかった。

転移は無いから手術になり、そのあと抗がん剤治療してた。ヨリコは小さな双子の孫とヨリコちゃんのお世話に一生懸命だった。

やっと治療が終わって寛解って言われたと

話してたのに、、。

一年くらいで再発だったなんて。


「ヨリコ、ごめん。本当にごめん。

何もできなくてさ。辛かったね。」


「そんな事ないよ。アズやアサコやポンは

私が疲れてるのわかってて、おかずを差し入れてくれたり、双子と遊んでくれたりさ、

たまには、お茶しておいでって留守番してくれたり感謝してる。あん時、それが無かったら潰れてたもん。」


ヨリコは泣いてる。

私も泣いてた。

いい歳したおばさんがわんわん泣いてるなんて

周りからしたらぎょっとする光景だったと思う。





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