第4話 認められたくない男の旅

お題:「本棚」「船」「カレンダー」


 ついに完成した!男の前には船がある。正確には遊泳用の宇宙船だ。男が小学生の頃に設計を始め、30年経った今完成したものだ。作り始めたきっかけは男が小学校の図書館で見つけた宇宙に関する一冊の本だった。そこに描かれた宇宙の描画はたちまち男を虜にし、いつか宇宙船を作り旅することを決めたのだった。

 男は早速旅の準備にとりかかる。この宇宙船には核融合発電や食物の栽培区画を設けているためそこまで荷物は必要ない。準備中、男はふとこの船の設計図に目を落とす。思い出されるのは小学生の記憶。彼は将来の夢として宇宙船を作り、旅をすることを語ったのだった。しかし、その夢は同級生たちに笑われ、彼らを見返す一心でこの船を作ってきた。しかし―。彼は設計図を乱暴に握りしめると本棚に突っ込んだ。彼の目からは笑われたときの悔しさも、誰かに認められることの期待も感じない。図書館で宇宙の世界に初めて触れた時の純粋な好奇心が灯っている。男はそんな高潔な感情が自らを満たしていることに喜びを感じるのだった。

 男が船に乗り込み、電源を起動する。

「いくぞ、RAI」

「了解しました」

人工的な音声が船内に響く。これは船の制御用に作成した人工知能(AI)だ。

「ハッチを開きます。運転開始まで10, 9, 8, ...」

カウントが進みながら天井が開く。

「0」

カウントが終了すると同時に船は工房を飛び出し、徐々に速度を上げ、遂に光速を超える。男がモニターに映ったカレンダーに目を向けると目まぐるしく時間が経過していることが分かる。1日、1年、...100年が経過したとき光速運転が終了し、窓から見える景色が安定する。男はコックピットから立ち上がり、窓からの景色に釘付けになった。

 「ピーーー」

電子音が聞こえ、男はモニターに目をやる。気がつけば1時間も外を見ていたようだ。

「どうした?RAI」

「電波を受信しました」

地球外生命体が電波を扱える可能性に期待して船の外には様々な形状をしたアンテナを立ててあるのだ。

「自然に発生したものではないだろうな?太陽嵐でないといいのだが」

「送信元はどうやら地球のようです。送信日時は今から70年前です」

「なんだ。それで?」

「博士の設計図が研究所より発見。その功績からノーベル賞を受賞したようです。博士が地球に帰還し次第、賞の授与を行うとのことです」

男の顔が一瞬ほころぶ。同級生を見返すどころか人類史に名を刻んだのだ!どうだ!...いやこんな低俗な欲求は捨てたはずだ...。男は再び窓に近づき外を見る。

「地球へ帰還しますか?」

「私は、いや、そんな...」

「博士。あなたの研究は地球の歴史を動かしたと思います。宇宙や航空技術は飛躍的に進歩したと推測されます。私の兄弟というべきAIも作成されたでしょう。私はそんな博士が変えた世界を見てみたい。私に地球を見せてくれませんか?」

男は驚いた顔でRAIの顔、はないので代わりにモニターを見る。

「しょ、しょうがないなー!そこまで言うなら戻って見せてやろうじゃないか!」

男は照れと高揚感で地球までの帰還ルートを計算する。

「ありがとうございます」

RAIは計算を実行しながら、そのカメラで彼の表情を見るのだった。彼は地球へ帰る。今度は低俗かもしれないその感情を胸に。


「あ、でも宇宙に来てまで弾丸旅行は嫌だから一週間くらいは航行しようよ」

「了解です。近くに大きめの星があるようです。そちらに進路を向けますか?」

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