第3話 過去から未来への手紙

お題:「電車」「手紙」「影」


 ここは地下110階、時空貨物列車「クロノトレイン」の駅だ。ここでは過去・未来に手紙や荷物を配達するために、毎日たくさんの列車が運行している。僕は今から荷物に扮してこの列車に乗り込む。そして過去に行って本当の人生を歩むんだ!


 僕は今の日常が嫌いだった。単純作業は機械化され、高度な仕事や創作は人工知能が行っている。人間はその間を埋めるように退屈で面倒くさい仕事をやらされている。僕はそんな人生で一生を終えたくない。歴史の教科書では昔の人は多くの仕事を自分たちの手で行って。僕もそうやって、自らの手で何かを成し遂げてやるんだ。


 列車への侵入は拍子抜けするほどうまくいった。「2000年8月1日 ◯◯行き」と書かれた大きめのスーツケースに息を殺して隠れた僕は、予定通り列車内部へと運ばれ、しばらくすると駆動音と振動が伝わってきた。どうやら列車が動き出したようだ。後はこのスーツケースが目的地に運ばれるのを待つだけだ。どうやって現地に運ばれるかは知らないけど、まさか中にいる僕が怪我をするような運ばれ方はしないだろう。


 ついに2000年に来たみたいだ!誰かがスーツケースを運び出し、すぐにゴロゴロとタイヤが回る音が聞こえる。どうやら手で運ぶみたいだ。

「そろそろ開けていいかい?」

急に声が聞こえたので抑えていた息が一気に漏れた。答える前にスーツケースが開かれた。その瞬間視界が真っ白になり、目に痛みが走る。目だけじゃない。肌も火の前にいるみたいに熱い。

「ああ、そうだったね。ごめんごめん」

と声の主はケースを閉じ、また移動を始めた。再びケースが開かれた時、やはり眩しかったがなんとか目を開くことができた。

「これをかけるといいよ」

それは奇妙な黒っぽい、スマートグラスのようなものだった。かけると不思議と目の痛みは無くなった。

「何ですかこれは?」

涙目で聞きながら僕はようやく相手の姿を見ることができた。彼はクロノトレインの車掌だ。

「それはサングラスだよ。私達の時代は生まれたときから地下と人工光暮らしだからね。私は慣れているけど、君の目や皮膚は太陽の紫外線に耐えられないんだ」

「僕が乗っていたこと、気づいたんですか?」

「君みたいな子は珍しくないからね。わかっちゃうんだよ。...実は私もそうだったんだ」

彼はいたずらっ子のように笑った。

「それでどうする?君はこの日影でしか生きていけない時代に残るかい」

彼が上を見上げるのにつられて僕も上を見る。そこには大きな木があり、天井から降り注ぐ強烈な光を塞いでいるようだ。それでもその隙間から漏れる光は容赦なく目を焼いてくる。

「...帰ります。でも...」

「このまま帰るのは悔しい?」

ああ、本当にこの人は僕と同じだったんだ。彼は黙って頷いた。

「もし大人になっても生き方に納得できなかったら車掌になってみるといい。色々な時代を自分の目で見れば、自分の進みたい道が見えてくるかもよ?」

「車掌さんは答えを得たんですか?」

僕が聞くと彼は微笑んだだけだった。


 元の時代に戻って僕は未来へ手紙を出した。僕は車掌になったのだろうか。生き方を見つけたんだろうか。

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