キツネの教訓

第1話

　　キツネの教訓

あまりにも

目が慣れすぎて

そこにあるのに

気がつかないもの

僕たちは

あのキツネの教訓を

すっかり

忘れてはいないか

大切なものは

目には見えない

あるいは見えているのに

誰も見ようとしない

われわれは

それを失うまで

見て見ぬフリを

するつもりだろうか

たとえばそれが

いま消えたとしたら

僕らがどんなに

淋しい思いをするか

考えてみるがいい

たとえば空気

たとえば時間

たとえば自分を取り巻く確かな愛

きっと

われわれを甘やかすものは

のほほんとした

想像力の欠如

そしてわれわれを

滅ぼすものも

同じく

想像力の欠如……

反対に

自由な空想を

たくましくすれば

どうだろう

見えないものが

急に目の前に

現れたりは

しないだろうか

いままで

そこにあったものが

急に輝きを増したり

しないだろうか

たとえば愛

たとえば孤独

たとえば絶望という名の

未来への希望

たとえば夢

たとえばしくじり

たとえば憎悪という名の

互いへの共感

僕たちは

あのキツネの忠告を

今こそ思い出そう

夕日が落ちる前に

あのキツネが

こんな他愛もない

われわれに

さよならを言う前に……

　　　　　　　　　　（了）