第19話 迷宮
早朝、まだ日も昇らぬうちから、父子は密かに準備を整えていた。
「荷物は確認したか?」
マクシミリアンが小声で。
「はい!回復薬に解毒薬、それと非常食も」
「魔法具の調整は?」
「完璧です!」
(ゲーム知識を総動員して準備した。これなら...!)
「さて、こっそり出発と行こうか」
「どこへ?」
背後から突然の声に、父子が凍りつく。
「母上!?」
振り向くと、エレノアが腕を組んで立っていた。
「ふふ、廃棄迷宮ね?」
「なっ...!」
父子が同時に声を上げる。
「エレノア、いや、これは...」
「母上、違うんです、その...!」
必死の言い訳に、エレノアはクスリと笑う。
「アレクサンダーが廃棄迷宮の資料を探していたのを見たわ」
「えっ」
「それに、あなたも」
マクシミリアンを見つめる。
「最近、武具の手入れを丹念にしてたでしょう?」
「く...見抜かれていたか」
エレノアは二人に近づき、小さな布袋を差し出す。
「これ、持っていって」
「母上...?」
開いてみると、手作りの風干し肉と、特製の魔力回復菓子。
そして、三つの首飾りに似た、新しい護符。
「私も研究を進めていたの」
エレノアが優しく微笑む。
「いつか、あなたたちにこんな冒険が必要になると思って」
「エレノア...」
「母上...!」
「約束よ?必ず、二人で帰ってくること」
父子は顔を見合わせる。
「ああ、約束だ」
「はい!絶対に!」
エレノアは二人を抱きしめる。
「研究者として言わせてもらえば」
意地悪な笑みを浮かべて。
「帰ってきたら、迷宮の詳細なレポートを期待してるわ」
「えっ」
「なんと」
「特に重力の共鳴については、細かいデータが必要ね」
完全に研究者モードに入るエレノア。
父子は苦笑いしながらも、その優しさに胸が熱くなる。
「行ってらっしゃい、私の大切な—」
その時、エリカが現れる。
「お待ちを」
「エリカまで!?」
「シエラも」
眠そうなシエラが、にこりと微笑む。
「シエラ...ありがとう」
「にぱー」
眠い目をこすりながら、シエラは満面の笑顔。
「さて」
マクシミリアンが誇らしげに言う。
「我らが—」
「重力無双の旅、ここに開幕せん!」
思わず厨二病全開の掛け声。
父も今回は、まんざらでもない様子。
(ゲームじゃ無理だった100層。父上と一緒なら、絶対に...!)
「行ってきます!」
朝もやの中、父子の背中を、家族の優しい視線が見送っていた。
そして、青い首飾りが三つ、確かな光を放っている。
「重力の舞!」
第一層の魔物の群れが、父の一撃で宙を舞う。
「我もここで見せてやろう!重力渦動!」
(うわ...ついに父上の前で厨二病全開に...!)
しかしマクシミリアンは、むしろ楽しげだ。
「ほう、その技の名は悪くない。では私も...」
重力の渦が交差し、魔物たちが次々と消滅していく。
1層:スライムの大群
「なんという圧倒的」
「これが父子の重力よ!」
5層:ゴブリンキング
「グオォォ!」
「ふん、先日の奴らより弱いな」
10層ボス:古代魔導兵器
「父上、この機械、弱点は...!」
「ああ、中枢部への重力圧だな!」
(さすが父上...ゲームの攻略知識いらないくらいの読みの深さ!)
「アレクサンダー、20層の守護者は何だ?」
「はい!デュアルヘッドドラゴンです!」
「なに?二つ首か?」
「左首は炎、右首は氷を...」
「なるほど、では—」
二人の重力が、完璧に同調する。
「重力共鳴、父子の型!」
「重力の刃!」
ドラゴンの両首が、同時に地面に叩きつけられる。
「見事!」
「父上との連携、バッチリです!」
歓声を上げる二人。
レベルも順調に上がっていく。
「このペースなら、100層まで...!」
「ふむ、だが油断は禁物だ」
そして—30層。
大きな扉の前で、誠は足を止める。
「どうした?」
「この先は...」
(ゲーム本編で、レイが初めて撤退した相手...!)
扉の奥から、轟音が響く。
「重力を操る者か」
低く響く声。
「久しいな...同族よ」
扉が開かれ、巨大な影が現れる。
古代の重力使い、朽ちた鎧に宿る亡霊「グラビティ・リーパー」。
「父上、この敵は!」
「ほう、重力対決というわけか」
亡霊の鎧が、不気味な音を立てて軋む。
「我が重力を破れるか...試すがよい」
巨大な大鎌が振り上げられる。
父子は互いを見つめ、頷き合う。
「行きますよ、父上!」
「ああ、見せてやろう」
「我らが—」
「重力無双を!」
巨大な円形の戦闘場。
「グラビティ・リーパー」の朽ちた鎧が、不気味な光を放つ。
「まずは、貴様らの重力を見せよ」
大鎌が一閃される。
空間そのものが歪み、床が波打つように盛り上がる。
「くっ!」
父子は咄嗟に跳躍。重力を纏って空中に留まる。
(これは...本編でレイが苦戦したパターン!)
・第一形態:重力波動
・第二形態:重力圧縮
・そして最終形態で空間歪曲...!
「どうした?それが重力使いの力か?」
嘲笑うような声。
大鎌が再び振るわれ、今度は上空の空間が潰れ始める。
「父上、上!」
二人は咄嗟に重力を展開。
押し寄せる力の波を、何とか押し返す。
「ほう...」
リーパーが興味を示す。
「親子の重力か。面白い」
「アレクサンダー、奴の動きは?」
「はい!大鎌を振るう前に、必ず鎧の隙間から青い光が...!」
(ゲームでの観察が活きる!)
「見たな。では—」
父子の意思が通じ合う。
「重力の檻!」
「空間固定!」
リーパーの周囲に、重力の壁が形成される。
しかし。
「ふん、重力使い同士で、そのような戦法が」
鎌が蒼く輝き、檻が粉砕される。
「あり得ぬ!」
「な...これは!」
マクシミリアンが驚きの声を上げる。
「重力を、増幅している?」
(そう、アレは自分の鎧を"重り"にして...!)
「父上!ヤツの鎧は重力増幅器なんです!」
「なるほど。だからあれほどの威力が」
リーパーの動きが止まる。
「よく見抜いた、若き重力使いよ」
その声に、かすかな誇りが混じる。
「では—本来の力を見せよう」
鎧が、より強く蒼く輝き始める。
「来ます!最終形態です!」
「なに!?まだ本気ではなかったと?」
空間が大きく歪み始める。
重力の奔流が、竜巻のように渦を巻く。
「我が重力(グラビティ)の前に平伏すがいい!」
「父上、一緒に!」
「ああ!」
親子の重力が、完全に共鳴する。
まるで、かつての修行の成果が、全て此処に—。
「重力乱舞!」
「重力波動!」
二つの力が交差する。
しかしリーパーは、その全てを跳ね返す。
「まだだ!」
「我らの重力は—!」
その時、誠の首飾りが温かく光る。
そうだ、これは母の—。
「父上!エレノア印の護符を!」
マクシミリアンも気付く。
二人は同時に護符を掲げる。
「この光は...」
リーパーが、その輝きに惹かれるように。
「懐かしき祝福...」
その隙を逃さず。
「重力共鳴...!」
「父子の型!」
護符の光と、二つの重力が溶け合う。
「貴様ら...確かな継承者よ...」
大鎌が地に落ち、朽ちた鎧が光の粒子となって消えていく。
「我が重力を...受け継ぐがよい」
最後の言葉と共に、小さな青い結晶が残される。
「これは...」
「古の重力使いの加護、ですね」
父子は顔を見合わせ、小さく笑む。
(やった...!ゲーム本編ではレイの光の力が拒絶して、絶対に手に入らないアイテム!)
「さて」
マクシミリアンが、より深い階層への扉を指さす。
「次は何が待っているのかな?」
「はい!40層は確か...」
厨二病全開の解説が始まる誠。
父は、そんな息子の姿を誇らしげに見つめていた。
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