第18話 ブラッドストーン男爵
儀式の後片付けの中、誠は突然の悟りに震えていた。
(待てよ...ブルーメンタール?黒幕はブラッドストーン男爵?この時代から...?)
『The Divine Light』第5章。
17歳のレイが、「改革同盟」の首魁との決戦に挑む。
その真相は、誰もが予想だにしなかったものだった。
(始祖の吸血鬼...!しかも、古の重力使いの血を求めて...)
ゲーム本編での記憶が蘇る。
「グラヴィティアス家の血統こそ、私が求め続けた究極の力...!」
漆黒の城でのボス戦。
血統を喰らい続けてきた男の告白。
そして、その圧倒的な力—。
(でも、この展開は原作にない。まさか、あの男がこんな早くから...)
「アレクサンダー?」
エレノアの声に我に返る。
「どうしたの?」
「母上...ブラッドストーン男爵という人物を、ご存知ですか?」
「ええ、新興貴族の総帥ね。最近、評議会でも発言力を増してきた人物だけど...」
(やっぱり。第5章より前から暗躍してた)
本来なら、まだ十年近く先の敵のはずだった。
しかも、その正体は恐るべきものだ。
「なぜ、急に?」
「いえ...その」
言うべきか迷う。
ゲーム本編での知識を。
始祖の吸血鬼の存在を。
そして、その男の弱点を。
「太陽の光は効かぬ。銀も通じぬ。
だが、『重力』と『光』の同時展開のみは—」
しかし今、未来は完全に変わりつつあった。
その証拠に、儀式は成功。
母は無事。
ローゼンクランツ宰相も生存。
(もう...ゲームの展開は当てにならない)
「アレクサンダー様」
エリカが近寄ってくる。
「ブラッドストーン男爵といえば...血盟騎士団の噂を」
「血盟騎士団?この時期から!?」
思わず声が上ずる。
(これは...完全に予想外)
「若様?」
「あ、いや...これは...」
厨二病で誤魔化そうとするも、焦りは隠せない。
(本来なら、血盟騎士団が動き出すのは数年後のはず。なのに、もう...)
確実に、歯車は狂い始めている。
しかし—それは良いことかもしれない。
(前世の記憶に頼りすぎてた...けど、これは新しいチャンスだ!)
誠は密かに拳を握る。
(始祖の吸血鬼か...なら、『我が重力(グラビティ)の前にひれ伏すがいい』って展開にしてやる!)
完全に厨二病全開だが、その瞳には確かな決意が宿っていた。
これは誰も知らない物語。
そして、それはより良い結末への可能性—
(そうだった...あの展開は...)
誠の脳裏に、嫌な記憶が蘇る。
『The Divine Light』第5章中盤。
避けられない敗北イベント。
どんなに準備しても、どんな戦術を取っても—。
「レイよ、その光など...所詮は模倣に過ぎん!」
ブラッドストーン男爵の圧倒的な力。
吸収された仲間の血統。
そして、主人公の無力な撤退。
攻略本にも明記されていた。
「この戦いは負けるイベントです。
回避や勝利の可能性はありません」
(三十周プレイしても、あの戦いだけは...!)
冷や汗が滲む。
レベル上げを重ねても、アイテムを揃えても、戦術を工夫しても。
結果は常に同じだった。
「アレクサンダー?顔色が悪いわ」
母の声に我に返る。
(そうだ...でも、今は違う)
儀式は成功。
両親は無事。
未来は、既に大きく変わっている。
(なら...あの『敗北イベント』だって、変えられるはず!)
「父上、提案があります」
儀式から三日後、誠はマクシミリアンに切り出した。
「廃棄迷宮に、行きたいのです」
「なに?あの危険な...?」
「はい。レベルキャップも解放されましたし、今なら...」
(そうだ、本編では第5章後半。レイは師匠のヴァルガス様の力を借りて50層まで...)
ゲーム本編での記憶が蘇る。
「よく聞け、レイ。この『聖なる光輝の結晶』なくして、
始祖の血統に対抗する術はない」
そして、拡張DLCでの衝撃的な展開。
フロストマルク公国の将軍、始祖王という存在。
より強大な吸血鬼の影。
「アレクサンダー?」
「父上との無双...じゃなくっ!二人の重力があれば、100層まで!」
マクシミリアンが興味深そうに眉を上げる。
「ほう、最深部を目指すというのか」
「はい。それに...」
誠は慎重に言葉を選ぶ。
「儀式へ介入してきた組織が、気になるのです」
「奴か...確かに、最近の動きは不自然だな」
(そうじゃない。黒幕は始祖の吸血鬼で、その後ろには始祖王が...!)
言いたくても言えない情報。
しかし、準備は必要だった。
「面白い」
マクシミリアンが立ち上がる。
「私も久しく本気の戦いをしていなかったしな」
「父上!」
「だが、母上には内緒だぞ?」
「もちろんです!」
(これで...!ブラッドストーンと、その後ろにいる始祖王にも...!)
「重力無双の親子、ここに見せてやろうじゃないか!」
思わず父の厨二病に感化される誠。
「我らが重力(グラビティ)に、地下迷宮も平伏すであろう!」
「...どこでそんな口調を覚えた?」
「あ、いえ、これは...」
マクシミリアンは苦笑しながらも、どこか楽しそうだ。
迷宮攻略。
そして、その先にある始祖たちとの戦い。
誠は密かに決意を固める。
(今度は、未来を変えてみせる)
父子の新たな冒険が、始まろうとしていた。
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