第14話 研究の真実と、忍び寄る影
グラヴィティアス家の書斎。
エレノアは研究の進捗を報告していた。
「ついに、理論の核心に近づいているわ」
机上に広げられた研究資料。
複雑な魔法陣の図面と、びっしりと書き込まれた計算式。
「これが実現すれば、重力の力は血統に依存せずとも—」
「待ちなさい、エレノア」
マクシミリアンが手を上げる。
誠も緊張して父の言葉に耳を傾けた。
「先程、ヴィルヘルム陛下から警告があった」
「陛下から...?」
「評議会で、お前の研究を危険視する声が高まっているそうだ」
書斎に重い空気が流れる。
「しかし、この研究は陛下も—」
「ああ、陛下は理解してくださっている。だが...」
マクシミリアンは窓際に立ち、夜の闇を見つめた。
「エレノア、この研究が成功すれば何が起こる?
我が公爵家の力である重力操作という、貴族の象徴たる力の一部が、万人のものとなる。
それは、つまり—」
「既存の秩序が、根底から覆される...」
誠は黙って両親の会話を聞いていた。
(そうか...母上の研究は、そこまで革新的な...!)
「アレクサンダー」
父の声に、誠は顔を上げる。
「最近、お前の噂も広まっているぞ」
「私の...ですか?」
「ああ。5歳にしてその力量。特に最近の成長は、評議会の一部から警戒されている」
エレノアが心配そうに誠を見つめる。
「まさか、アレクサンダーにまで...」
「昨日の晩餐会でも話題に上がっていた」
マクシミリアンは続ける。
「ブルーメンタール男爵などは、露骨な警戒心を示していたな」
「あの年齢であの力は異常だ」
「母親の研究と、息子の才能...これは放置できない」
「何か対策を講じねばならない」
貴族たちの会話を、マクシミリアンは冷静に引用する。
「父上...」
「アレクサンダー、お前は何も間違っていない。しかし、用心はしろ」
エレノアが誠の肩に手を置く。
「私の研究が、こんな形であなたにまで...」
「違います!」
誠は強く首を振る。
「母上の研究は、絶対に守るべきものです。そして、僕も—」
言葉を選びながら、慎重に続ける。
「僕も、この力を正しく使っていきたい。だから...」
マクシミリアンが静かに微笑む。
「よく言った。だが、これからは更に注意が必要だ」
「特に儀式までの期間ね」
エレノアが付け加える。
「はい。分かっています」
(そうか...これが、もう一つの理由だったんだ。母上が儀式で狙われる原因は、研究だけじゃない。僕の存在も...)
「とはいえ」
マクシミリアンが書斎を歩き回りながら続ける。
「陛下は我々の味方だ。アストリッド妃も、研究の価値を理解してくださっている」
「ヴィルヘルム陛下は...」
「ああ、こう仰っていた」
「エレノアの研究は、我が国の宝となろう。
だが、それ故に蠢く者たちもいる。
気をつけるように、と伝えてくれ」
誠は両親の会話を聞きながら、密かに情報を整理していた。
(母上の研究と僕の才能...二つの理由で、評議会は動き出す。
でも今度は、この情報を活かせる。絶対に、守ってみせる)
夜空に浮かぶ月が、書斎の影を長く伸ばしていた。
それはまるで、忍び寄る危機の予兆のように—。
「さて」
エレノアが明るく話題を変える。
「アレクサンダー、実験を見てみる?新しい理論の実証実験よ」
「はい!」
マクシミリアンも頷く。
「私も見せてもらおう。我が妻の天才的な理論を」
その夜、グラヴィティアス家の地下実験室では、新たな発見の喜びと、迫り来る危機への警戒が、奇妙な形で交錯していた。
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