第9話 靴を求めて
一人で行動できるようになって最初の夜、誠は密かにメモを広げていた。
「よし、序盤最強装備の回収作戦、開始!」
手書きのメモには、ゲーム攻略時代の走り書きが並ぶ。
『序盤最強装備:
①風走りの靴(裏路地・黒猫イベント)
②月光の剣(魔法学院地下)
③大地の鎧(鉱山町)』
(蒼玉の大剣があるから月光の剣はいいとして...やっぱり最初は足回りからだよね!移動速度上昇は基本!)
誠は小さく微笑む。
『The Divine Light』の攻略本を100回は読み返した記憶が、今、現実で活きようとしていた。
「まずは王都の裏路地...か」
窓から月明かりが差し込む。
時計は深夜0時を指している。
(攻略本通りなら、この時間に裏路地で黒猫を3回撫でると...!)
誠は慎重に部屋を抜け出す。
夜の王都を知り尽くした体で、スムーズに裏路地へと向かう。
(一年の訓練のおかげで、夜間潜入とかもバッチリ...って、これ完全にゲーム主人公じゃなくて盗賊の動きだな)
裏路地に着くと、予想通り黒猫が佇んでいた。
「よし、攻略本通り...」
慎重に近づき、優しく猫を撫でる。
一回、二回...。
「にゃお?」
黒猫が不思議そうに誠を見つめる。
(うわ...ゲームより可愛い。これ絶対、何かの使い魔だよね...)
三回目を撫で終えると、黒猫はふわりと立ち上がり、路地の奥へと歩き始めた。
「よし、追いかけろってイベントだ!」
誠は猫の後を慎重について行く。
するとそこには...。
「宝箱...じゃなくて、なんだこれ」
古びた木箱が置かれていた。
その上には黒猫が座り、誇らしげに尻尾を振っている。
「これ、開けていいのかな...」
蓋を開けると、中には一足の靴が。
月明かりに照らされ、淡く光を放っている。
(本当にあった...!風走りの靴!でも、ゲームよりずっと綺麗...)
風の模様が刻まれた軽やかな靴。
手に取ると、不思議なほど軽い。
木箱から靴を取り出した時、誠は一瞬たじろいだ。
(あ...待て待て待て。これ、大人用サイズじゃね?)
月明かりの下、不安げに靴を見つめる。
確かに自分の足には大きすぎるように見える。
(そういえば...ゲームだと主人公のレイくんが17歳の時に使ってた装備だし...いや、でもスピンオフ小説の設定では"古の魔法靴"って書いてあったはず)
「にゃお?」
黒猫が首を傾げている。
まるで「早く履いてみろよ」と言わんばかりに。
「えっと...」
おそるおそる左足を入れる。
すると、不思議な光が靴を包み込んだ。
(おお...!)
まるで生きているかのように、靴が誠の足のサイズに合わせてフィットしていく。
右足も同様だ。
「なるほど...!これが魔法の装備ってやつか!」
履き心地は完璧で、まるで最初から自分用に作られていたかのよう。
それどころか、成長に合わせて大きくなっていきそうな気配すら感じる。
(やっぱり伝説の装備は違うぜ...!ゲームじゃこういう細かい描写なかったけど、リアルだとこういう仕組みになってるのか)
「にゃおん」
黒猫が誇らしげに尻尾を振る。
「ありがとう。これも運命の導きってやつかな」
誠は心の中で小さくガッツポーズ。
(いやぁ...ゲーム知識があってよかった。てっきりサイズ合わなくて、泣く泣く諦めるパターンかと...)
その時、靴から柔らかな風の気配が立ち上る。
まるで「安心して」と囁きかけるかのように。
(そっか...この靴、これから俺の冒険に付き合ってくれるんだ)
誠は密かに微笑んだ。
ためしに軽く跳んでみる。すると体が風に乗ったように、優雅に舞い上がった。
「すげぇ...!」
「にゃお」
黒猫が満足げに鳴く。
(待てよ...確かスピンオフ小説に、"風走りの靴は持ち主を選ぶ"って設定が...)
「ありがとう。大切に使わせていただきます」
丁寧にお辞儀をすると、黒猫は嬉しそうに尻尾を振った。
「にゃ~」
そして風のように消えていく。
その背中には、確かに小さな翼のような模様が...。
(やっぱり使い魔か!)
誠は新しい靴を眺めながら、密かに興奮を抑えきれずにいた。
「これで移動速度アップ...!」
歓喜に浸る暇もなく、遠くで衛兵の足音が。
「よし、テスト実戦!」
走ると軽い、靴だけでなく風車型のブローチが、誠の胸元でかすかに風を起こしている。
エリカから受け取ってから、不思議な効果に気づき始めていた。
(これ、すごい性能だ...!)
風車が回る度に、周囲の風の流れが感知できる。
危険が近づくと風の流れが乱れ、味方が近くにいると優しい風が漂う。
しかし最も重要な効果は—
(風走りの靴と相性抜群じゃないか!)
ブローチの加護により、風走りの靴の能力が更に高まっていた。
まるでシエラ一家の風の力が、自身の行動を後押ししてくれているかのよう。
「本編だと、大人のシエラ様が使ってた『風の導き』の原型...かな」
しかもエリカの説明によれば、ブローチには、もう一つ特別な効果があった。
シエラが近くにいる時、ブローチはより強く輝き、風車が活発に回る。
まるで赤ん坊のシエラの風の力と共鳴するかのように。
(そうか...だからゲーム本編で、レイくんとシエラ様の相性が抜群だったのか。シエラ様の血に流れる風遊戯士の力が...!)
具体的な能力:
- 危険察知(風の乱れで警告)
- 味方感知(穏やかな風の流れで存在を把握)
- 風属性装備との相性補正
- シエラの加護による体力回復補助
- 跳躍力と着地の制御補助
- 微弱な風の盾効果
「これは...完全に序盤最強アクセサリーの一つだ」
誠は密かにほくそ笑む。
スピンオフ小説でも語られなかった、風遊戯士一族の秘められた力。
それが今、自分の力となっている。
(シエラ、ありがとう。この力、必ず活かしてみせる)
胸元のブローチが、かすかに風を起こして応えた—。
軽やかに壁を蹴る。
すると体が風のように浮き上がり、屋根伝いに音もなく滑るように移動できた。
(うおお!これ予想以上に性能いいぞ!)
瞬く間に衛兵の視界から消え、優雅に自室の窓に飛び込む。
「ふぅ...」
誠は満足げに靴を撫でる。
(序盤最強装備その1、ゲット!これで明日からの活動範囲が格段に...!)
その夜、誠は次の装備の入手計画を練りながら、新しい靴を大切にしまったのだった。
明日からは、この靴と共に、より多くの冒険が待っている—。
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