第5話 約束そして評議会
パーティーの合間、エリザベスは誠の袖を引っ張った。
「ねぇアル、中庭に行こう!私の星の力、もっと見せたいの!」
(これは...!スピンオフ小説『The Fallen Duke』の重要イベント...!)
誠の心臓が高鳴る。
中庭に出ると、夜空には無数の星が瞬いていた。
「見てて!」
エリザベスが両手を上げる。
すると、夜空から星の光が優しく降り注いだ。
(うわ...ゲームのグラフィックより何倍も綺麗...!)
「凄いね、リザ!」
「でしょ?アルも見せて!重力の力!」
誠は一瞬、躊躇した。
脳裏に、ゲーム本編の最終決戦が蘇る。
世界を混沌に陥れようとするアレクサンダーと、それを止めようとするレイ。
そしてその傍らで悲しむエリザベスの姿。
(そうだ...あの時のリザ様は、泣いていた。アル様の暴走を止められず、ただ見守ることしかできないって...)
スピンオフ小説では、その悲しみが克明に描かれていた。
政略結婚で引き離され、再会した時には既に手遅れだった二人。
(でも、今は違う!)
誠は右手を上げた。
「重力(グラビティ)よ...!」
周囲の空気が歪み始める。
「わぁ!綺麗!」
エリザベスの星光と誠の重力が交わり、幻想的な光の渦を作り出す。
(無双ゲームの必殺技『スターライトグラビティ』...でも、これは比べ物にならないくらい美しい)
ふと、母エレノアの最期の場面が脳裏を過ぎる。
6歳の儀式での事故。
息子を守るために命を落とし、その死がアレクサンダーを絶望に導く。
(母上...あの時、アル様は全てを失って...)
しかし、目の前でエリザベスが無邪気に笑っている。
「アルの重力と私の星光、相性バッチリだね!」
純粋な喜びに満ちた笑顔。
まだ何も失われていない、大切な時間。
「ねぇアル、約束しよう?」
「え?」
「私たち、ずっとこうしてお互いの力を合わせていこう?」
エリザベスが小指を差し出す。
誠は、スピンオフ小説の一節を思い出していた。
『もし、あの時の約束を守れていれば—』
アレクサンダーの独白。
全てを失った後の、悔恨の言葉。
(今度は、絶対に...!)
「うん!約束する!」
小指を絡ませた瞬間、二人の力が完璧に共鳴した。
夜空に、まるで新しい星座が生まれたかのような光が描かれる。
「綺麗ね」
振り向くと、エレノアが立っていた。
その優雅な姿に、誠の目に涙が浮かぶ。
(母上...絶対に、今度は守ってみせます)
「母上!見ていてください!僕たちの...その...!」
言葉に詰まる誠。
しかしエレノアは、全てを理解したように微笑んだ。
「ええ、素敵な約束だったわ」
「エレノア様!私、もっと強くなって、アルと一緒に...!」
「ふふ、その時を楽しみにしているわ」
(ああ、だからアル様は強くなりたかったんだ。大切な人たちのために、なのに...結果は、真逆に...)
「若様」
「セバスチャン」
執事長が静かに近づいてきた。
「若き日の誓いは、時として運命をも変えうる...そう言われております」
「え?」
「大切な想いさえ忘れなければ、きっと...」
セバスチャンは、なぜかとても意味深な微笑みを浮かべていた。
中庭からの帰り際、大広間が静まり返った。
マクシミリアン・グラヴィティアス公爵の登場だ。
(うおお...!父上の正装姿!スピンオフ小説でしか描かれなかった、事故前の威厳ある姿...!)
まだ30代後半の公爵は、圧倒的な存在感を放っていた。
その背後には執行評議会の面々が続く。
(来た...運命の敵たち!いや、まだその時じゃない。今は...)
「我が息子の誕生日に、これほどの賓客の皆様にお集まりいただき、感謝申し上げます」
力強い声が響く。
誠は思わず背筋を伸ばした。
「おめでとう、アレクサンダー」
「は、はい!父上!」
(うわ、緊張する...!ゲーム本編じゃ、ほとんど出番なかったのに...!)
マクシミリアンは優しく息子の頭を撫でる。
その仕草に、誠は思わず目を潤ませそうになる。
「グラヴィティアス公爵、お子様の才能には目を見張るものがありますね」
声の主は、宰相のグスタフ・ローゼンクランツ。
まだ40代前半の彩やかな貴公子という風貌だ。
(第6章で黒幕として登場する宰相が、こんな若い...!しかも、この後公爵を...いや、父を裏切るのに...!)
「ご丁寧に、ローゼンクランツ殿」
マクシミリアンが応じる中、評議会の重鎮たちが次々と近づいてくる。
「これはこれは、若き才能の芽吹きを祝福せねば」
財務卿オットー・フォン・シュタインベルク。後にグラヴィティアス家の財産を横領する張本人だ。
(うわ、まだフサフサじゃないか...!本編では禿げてたのに...)
「エレノア様のご子息、大変な才能の持ち主とお見受けします」
アルブレヒト・アイゼンハルト王室法務官。表向きは中立を装いながら、実は王家の密偏。
(この人も...みんな若すぎて、設定資料集が脳内爆発する...!)
「まあ、アレクサンダー。立派なお姿」
ヘレナ・バートリー、先代王妃の元侍女長。
優雅な中年女性に見えるが、実は最も危険な諜報員の一人。
(うっ...この人の優しさ、全部演技なんだよな...)
「重力(グラビティ)の力、既に開花されたとか」
エドガー・ブルーメンタール、新興貴族の代表。
商人から貴族となった野心家で、後の悲劇の黒幕の一人。
(この人もまだ髭なしか...全員若返りすぎでは!?)
「これはまさに、時代を変える才能かもしれませんね」
マリア・ヴィンター学術評議員。
その言葉に、誠は内心で震える。
(ただの学者に見えて、実は最も非道な実験を...!)
評議会メンバーたちが次々と言葉を交わす中、エレノアが静かに誠の肩に手を置いた。
「アレクサンダー、ちゃんと挨拶できるかしら?」
「は、はい!」
誠は小さく深呼吸する。
この瞬間、幼いアレクサンダーに相応しい、しかし芯の通った挨拶をしなければ。
(よし...厨二病抑えて...!)
「本日は、わ、私の誕生日にお越しいただき...ありがとうございます」
「おお、しっかりとした物言いだ」
「さすがはグラヴィティアス家の後継者」
評議会メンバーたちが満足げに頷く。
その表情の裏に潜む打算を、誠は痛いほど理解していた。
(みんな演技うまいよな...でも、俺は知ってる。この後の展開を、全部...!)
マクシミリアンが再び前に進み出る。
「では、我が息子アレクサンダーの4歳の誕生日を、共に祝いたい」
グラスが掲げられ、祝福の言葉が響く。
しかしその中で、誠の心は固く決意に満ちていた。
(必ず...この未来は変えてみせる。アル教徒として、全てのルートを知る者として!)
エリザベスが再び誠の袖を引っ張る。
「アル、また中庭で遊ぼ?」
その無邪気な笑顔に、誠は心から微笑み返した。
「うん!」
運命の歯車は、確実に、しかし前とは違う方向に回り始めていた—。
その夜、誠は日記にこう記した。
『運命は変えられる。前世でアル教徒だった俺だからこそ、全ての結末を知っているから—必ず、理想のエンディングを掴み取ってみせる』
星型のペンダントが、静かに光を放っていた。まるで、その決意を祝福するように—。
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