第6話

「それでは、最初の謎の前に皆様をお連れします」

綺羽が歩き出したので、水樹もハッとなってついて行く。そうして、通された廊下は、先ほどと違う出口に繋がっていた。

綺羽が開けたドアの先には、何も植物のない、雑草すら一本も生えていない庭があった。ただ、茶色い地面の一部に白いコンクリートが打ってあり、その上に巨大な日時計が置かれている。

兎に角文字盤が白く、眩しい。文字盤には文字がないが、針の位置で大凡の時刻を知ることが出来そうだ。今は午前十一時を過ぎたところだろう。

「この時計は……」

 理人が吸い込まれるように寄って行き、背中を丸めて覗き込むと、綺羽が横に立って手を前に揃えて述べた。

「文字盤には白いムーンストーンが使用されています。その石の中でも、影が濃く出やすいものを、作成者本人が選定して作成されました。時針、分針、秒針はいずれも黒翡翠で、特徴的な模様は全て手で彫られています」

滔々とした口調に、しっかりとこの時計について学び、何度も同じ内容を説明して来た苦労が滲んでいる。

水樹も近づいて、改めて黒翡翠だという、その針を眺めた。その三つの針のそれぞれに見たことのない模様が掘られている。見れば見るほど目を惹かれる模様だ。

文字盤は穢れない純白である。と、思って見過ごしそうになったが、一部に汚れがある。じっと顔を近づけると、わざとつけた傷にも見え、その形をメモしようと手帳を開いた。

そこへ、時計と水樹の間に入るように、明美子もそれを覗き込んだ。

「成る程ね、分かったわ」

 したり顔だ。水樹は文字盤が彼女の髪で見えなくなり、たしなめるように告げた。

「あの……大変失礼ですが、僕も今丁度、此方を観察していたところで。よく見ないと推理も出来ませんから、貴女が見終わりましたら、少し脇に避けてくださると有難いのですが」

「邪魔なのは其方でしょう」

 尖った声が、ぴしゃりとその場に叩きつけられる。水樹は思わずよろめき、たじろいでしまった。他の視線も一気に明美子に向く。それは温かいものでは決してなかったため、明美子は腕組みと咳払いをした後、話しを続けた。

「まぁ、もう、貴方達は推理なさらなくて結構。私はもう答えが分かったの」

「……答えが分かった!? もう、ですか」

旭がひっくり返った声を上げるのとほぼ同時に、辺りもざわついた。明美子は歌うように言葉を続ける。

「ええ。十六時五十分頃に、また此処に来れば分かります。そう致しましょう――……このミステリー会で最初に謎を解けば、Vincent Horologeの時計が全て手に入る。ぼんやりなんてしていられませんわ」

 呆然と立ち尽くす水樹たちの中で、綺羽だけが、じっと明美子の背を目で追っていた。

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