第40話 ビトがクズ男なわけないよね?
部屋に戻る途中で、パッとマイページを出す。
今はまだビトと一緒にいるけど、この文字は私にしか見えていないらしいので問題はない。
『好感度
エリオット……17%
ディラン……30%
レオン……17%
ビト……45%』
エリオット……17%?
あれ? 前は12%だったよね?
…………5%も上がってる!?
選択肢を2つ言ってしまったけど、問題ないどころか正解だったらしい。
好感度の振り幅が大きいエリオットだけに、一気に5%上がったのはとても助かる。……とはいえ、まだたったの17%だけど。
最後に嘘がバレたから心配だったけど、なんとか大丈夫そう?
変わり者のエリオットだ。
嘘をつかれたことを、『おもしろい女』認定したのかもしれない。
……エリオットって変態なのかな。
ディランもだけど、好感度の上がるポイントがイマイチよくわかんないわ……。
さすがクソゲーの攻略対象者……と思いながら文字を消そうとしたとき、ビトの好感度が地味に下がっていることに気がついた。
なぜか前回より2%下がっている。
待って!?
なんで会話に混ざってないビトの好感度が下がってるの!?
まだまだ45%もあるし、下がったとはいえ2%だけだ。
それでも、その原因がわからないと今後同じようなミスをしてしまうかもしれない。
なんで好感度が下がったのか、ちゃんと確認しなきゃ!
私は自分の少し後ろを歩いているビトを振り返った。
心なしか、エリオットのところへ行く前よりも真顔になっている気がする。
「あの、ビト」
「なんでしょう?」
「さっきの私とエリオット様のやり取り、どう思った?」
「……どう思った、とは?」
私の突然の質問に、ビトが目を細める。
「だから、その……ルカ様の説明とか、わかりにくくなかったかな? って」
「大丈夫だったと思いますよ。エリオット様もすぐに納得されていたみたいですし。……もっとルカ様について聞かれるかと思ってましたが」
……ん?
最後だけ聞き取りにくい声でボソッと呟かれる。
どこか不満そうな言い方に聞こえたが、私が何か言う前にビトがこの話を終わりにしてしまった。
「では、自分は騎士寮に戻ります。失礼します」
「あっ。う、うん」
スタスタと去っていくビトの後ろ姿を、静かに見送る。
堂々としたたくましい背中なのに、なぜかガッカリしているように見えるのは……私の気のせいなのか。
ルカ様についてもっと聞かれると思ってた……って言った?
なんだか不満そうだったけど、それが好感度下がった原因? なんで?
たしかに、私ももっとルーカスについて聞かれるかと思っていた。
でも途中から孤児院に行きだした理由について聞かれたせいで、思っていたよりあっさりルーカスの話が終わって安心した。
まあ、その後の質問でエリーゼのことを言ってしまい、さらに焦ったわけだけど。
でもなんでビトがそれに不満そうなわけ?
ビトの言葉をそのまま受け取るなら、ビトはエリオットにもっとルーカスについて聞いてきてほしかったということになる。
しかも、少し残念程度の話ではない。
好感度が2%も落ちるほど、ガッカリしているということだ。
なんで?
そんなのビトになんのメリットもなくない?
ルーカスの件について聞かれたら、私が困るだけだ。
ビトにとったらメリットもデメリットもない。
むしろ、今日より前に会っていたことを報告していないとバレてた可能性もあるし、どちらかといえばデメリットのほうがありそうだ。
それなのに、聞かれなかったことにガッカリしているのであれば……。
「私が困る姿を見たかった……?」
ボソッと自分の口から呟かれた言葉。
ふと思いついたことをそのまま口にしてしまったけど、ハッとしてすぐに小さく首を振る。
いやいや! 何言ってんの!
それこそ意味わかんないよ。性格最悪のエリオットじゃあるまいし……!
隠しキャラのビトは、ゲームで攻略したことがない。
だから本当の性格は知らないけど、実際に話してみた限り『人の困った姿を見て楽しむようなクズな男』とは思えない。
もしあのビトがそんなクズ男で、普段から私の不幸を望んでいるような男だったら怖すぎるって!
ないない! うん!
でも、このクソゲーならそんな性格だったとしてもおかしくない──そんな恐ろしい事実に気づかないフリをして、私は部屋に向かって歩きだした。
こっそりと、『やっぱり一刻も早くこの家を出ていかなきゃ……!』と胸に誓って。
***
「えーーっと……あれ? アラジンって魔人に何をお願いしたんだっけ?」
部屋に戻った私は、先ほどの絵本の続きを書いていた。
レオンの好感度を上げるためにも、定期的に書いていかなくてはいけないのだ。
正確な物語が浮かばないんだけど、その辺は私が考えちゃっていいかな? いいよね?
覚えてる内容とオリジナルを混ぜながらスラスラ書いていると、突然部屋のドアがバタン! と勢いよく開いた。
ビクーーッと肩が上がり、思わず慌てて椅子から立ち上がる。
ななな何!?!?
爆発!?
「おい!!」
「!」
吹き飛ばされたかと思ったドアの前には、ディランが立っていた。
こんなに乱暴に、そしてこんなに怒鳴りながら部屋に入ってきたのは初めてだ。
ディランの恐ろしい形相に、私の手はカタカタと震えてしまっている。
以前、首を絞められそうになったときのことを思い出したからだ。
こわい……!!
何? なんでディランはこんなに怒ってるの?
ペンをギュッと握ってディランを見つめると、なぜかディランはハッとしたように視線を下に向けた。
表情やオーラが急に緩んだような気がする。
少しだけ間を置いたあと、ディランが気まずそうにボソッと呟いた。
「あ。いや、その、いきなり悪かった」
「…………え?」
悪かった……?
今、悪かったって言った? 聞き間違いじゃない……よね?
……え?
もしかして、私……あのディランに謝られたの!?
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