掌編「強いヤツ出てこい!」


「俺は強い奴と戦いたいんだ……おらっ、強い奴、俺の前に出てきやがれッッ」


「いやおまえ、すっげえ弱いじゃん……」



 高身長だが細い男が腰を落として拳を構え、喧嘩を売っても、挑んでくる者はいないだろう。

 手を出したら、出した方が悪者に見えてしまう罠の感覚が強い。

 せめて、そのセリフを吐くなら最低限の筋肉はあってほしいし、贅沢を言うならムキムキであってほしかった……。


 彼の場合は、挑みにくい。

 もちろん、力ではなくテクニックで戦うタイプかもしれないが、そりゃ見た目では分からないものだ。


「ああ、弱いぞ。だからこそ強い奴と戦いたいんだ。俺に必要なのは経験だろう?」


「そうだけど、実戦じゃないだろう。今のおまえに必要なのは対人戦ではない経験だよ」

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