掌編「魔法使いvsスマホ使い」


「私は魔法使い……。見なさい、魔法で浮かせたマグカップをそのまま傾ければ、中身を飲み干すことができるのだよ――手で触れずともね。魔法とは、とても便利なものではないかね?」

「魔法いらなくない? 手でやれや」


「これだけじゃあない。圏外でも電波が届くようにすることもできるし、遅い通信速度を速くすることもできるのだよ。4Gを5Gに上げることも魔法で可能だということだ!」


 そして他人のスマホの通信速度を3Gに落とすこともできる、と魔法使いは言った。


 迷惑な男だった。



 現代人への一番のダメージは、実はスマホの通信速度を上げたり下げたりすることではないか?

 片時もスマホを離さない現代人は、スマホが本体のようにも思える。


 魔法使いから見れば、スマホはまるで、魔法のようだった。



「魔法使いって、やっぱりまだ胡散臭いんだよなあ」


「こちらからすればスマホ使いも胡散臭いがね。まあ、全ての悪意をその小さな箱の中に収めてしまえるというのは良いのかもしれないが……」


 それを全世界に公開してしまっては、小さな箱を経由しただけで表へ出ていっているのと同じようなことかもしれないが……、口で直接言うよりはマシなのかもしれない。


 スマホという小さな箱に呟く行為を挟むことで、悪意はマイルドになっているのかも……?

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