第3話 葵≪あおい≫姫Ⅱ
「もう少し、膝を立てて、足をお開きになって、それでようございます。それでは、翔太さま、よろしくお願いいたします」
えっ、冴島さんの見てる前で? 王室の初夜って、そういうものなの?
俎板≪まないた≫の鯉というか、マグロというか、無言で、冴島さんに言われるがままに仰臥する葵姫。冴島さんに促され、俺はおずおずとベッドに歩を進めた。
やはり彼女も浴衣の下には何も着けていない。開かれた足の間から、茂みと、女性の大事な部分が目に入って、俺は大いに動揺した。
「ちょ、ちょっと待ってよ、冴島さん、いくら何でも、こんなのって!」
そう言ったそばから、自分の意志に反して、俺の分身は徐々にその鎌首をもたげ始めていた。
「それでこそ私の見込んだ翔太様、さあ!」
冴島さんに見込まれていたとはちっとも知らなかったが、自分の身体の変化を指摘された気恥ずかしさから、俺は彼女の言葉に従い、おずおずとベッドに上った。
膝立ちで姫様ににじり寄り、彼女の膝に片手をかけたその時だった。
「ひっ」
葵姫が小さな声を上げて、身体を捩った。
バランスを崩した俺は、彼女に覆いかぶさる形となり、俺の硬く、大きくなっていたものが、葵姫の太腿に直に触れた。
「きゃっ」
葵姫は、今度ははっきりとした悲鳴を上げて、俺を突き飛ばし、後ずさった。
「そ、それっ!」
姫様が俺の股間のものを指さしながら言った。これが俺の聞いた姫様の第一声だった。
「姫様も今夜のことは十分に納得されていたではないですか。お覚悟をなさいませ!」
冴島さんの叱咤を受けた葵姫は、いよいよ覚悟を決めたのか、唇をかみしめ、再び仰臥した。
半べそをかいた顔を両の手で顔を覆い、俺を迎え入れるべくさらに足を開いた。
これはいくらなんでも…俺はようやく葵姫に声をかけた。
「姫様は、男の人と、その、こういうことするの、初めてですよね」
俺は、冴島さんにお願いした。
「冴島さん、ここからは、俺と姫様の二人っきりにしてくれませんか」
「ちっ」
小さな舌打ちをした冴島さんは、それでも恭しく頭を下げると、
「それでは、私は隣の部屋で控えておりますので、何かありましたらお声がけください」と部屋から退出していった。
俺は、姫様から少し距離を取って、並んでベッドに仰向けになると、彼女に話しかけた。
「姫様は本当にこれでいんですか、初対面の俺といきなりこういうことになって」
しばしの沈黙の後、姫様がようやく言葉を絞り出した。
「と、年上のくせにって、ば、馬鹿にしているでしょ」
「そんなことないですよ」
「今まで、男の人と接することなんて、全然なかったんだから」
それなのになぜ、父王に言われるがまま、俺を受け入れることにしたのかと問うと、
「し、仕方ないじゃない。王家の、そしてこの国の安寧のためよ」
「俺は嫌だな。国のためとか、誰のためとか、そういうんじゃなくて」
俺は姫様に精一杯優しい声で語り掛けた。
「こういうことは、『この人としたい』って思った時にするものですよ」
俺は返事のない姫様にさらに声をかけ続けた。
「あせることなんてないですよ。時間ををかけて、まずはお互いのことをもっと知り合いましょう」
「まずは私の話を聴いてください」
俺は自分の生い立ちについて、大学生活について、そして突然こんなことになった経緯を(冴島さんとエッチしてしまったことを除いて)彼女に話した。
相変わらず彼女からは返事も、相槌もない。俺に背中を向けて、狸寝入りを決め込んでいる。
俺の話ばかりじゃなくて、姫様の話も聞きたかったけど、この調子ではかないそうにない。俺も語りかけるのを諦め、目をつぶった。
いつの間にか眠ってしまったようで、俺は姫様の隣で朝を迎えた。
姫様も目を覚ましているようだが、ベッドの中で俺に背を向け、どうやら昨夜に続き狸寝入り中のようだ。
俺はクローゼットの中にたたまれていた自分の衣服を身に着けると、姫様の耳元に唇を寄せた。
「それでは、失礼します。でも、またお会いできますよね」
と、突然姫様が動いた。
こちらを振り向くと俺の首筋に腕を回し、俺の唇に、ぎこちなくも自分の唇を重ねた。
姫様は、キスをし終わるとまたすぐに布団をかぶってしまい、俺が部屋を後にするまで、再び顔を見せることはなかった。
(続く)
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