第4話 葵姫独白

 あわわ、自分から男の人にキスをするなんて、私はなんという大胆で恥知らずなことをしてしまったんだろう。舌を噛んで死んでしまいたい。(試しにやってみたが、全然噛み切れなかった。)


 男の子って、粗暴で野蛮で、私は物心がついた時から男子という存在そのものが大嫌いだった。

 子どもの世界は子どものルールで動いている。私が国王の娘だからって容赦ない。大きな声を出されたり、スカートをまくられたり、そのたびに私は震えながら泣きべそをかいていた。


 その時のトラウマからか、今でもうまく同世代の男性と話ができない。

 これでは結婚など及びもつかない。このまま王族として、独身のまま年老いていくのだろうと覚悟を決めていた。


 そんな時に降ってわいてきた王位継承者の青年の話、当然結婚相手の第一候補は国王の一人娘であるこの私だ。

 自分で相手を探す必要もない。男の子は怖いけど、それを我慢して流れに乗っていれば、自分は一生王族でいられる。そう思って、親の勧めるまま、添伏に臨んだ。


  閨≪ねや≫のことは冴島にレクチャーを受けた。

  男女の性行為のDVDを彼女の解説付きで見せられ、びっくりした。男の人の股間に、こんな大きなものがついているなんて、その大きなものが自分の身体の中に入ってくるなんて、とてもじゃないけど信じられなかった。


「怖いのは最初だけ。すぐに気持ちよくなって、姫様も『入れて、入れて、もっと、もっと』ってせがむようになりますよ」

 冴島がこともなげにそう言うのを半信半疑で聞いた。


 昨夜、実際に肌に触れた彼のものは、大きくて、硬くて、グロテスクで、私は思わず悲鳴を上げて飛びのいてしまった。

 

 それでも、冴島に励まされ、怖いのを我慢して足を開いた。

 

 でも、翔太様は私の気持ちを察して、冴島に促されても、無理にしようとはしなかった。

 子供の頃に体験したの粗暴な男の子とは全く違う。優しい人。

 

 この人は神様が私にめぐり合わせてくれた白馬の王子様だ。私はそう確信した。


 国王の娘というこの上ない身分に生まれ、物心がついた時からずっと周囲に気づかわれてきた。おかげで私には愛嬌などまるでない。相手の気持ちを慮≪おもんばか≫ることも苦手だ。


「お互いに分かり合ってから」彼はそういってくれたが、どうやったら分かり合えるというのか。私には全く分からない。


 昨夜、ベッドに並んで横になると、彼は自分の生い立ちや今の大学生活のことを話してくれた。私の全く知らない世界の話で、話も面白くて、興味深く聞いた。

 

 同時に、彼が私に気を付かってくれていることが伝わってきた。

 私も何か話さなければいけない、そう思うのだけど、でも何を話したらよいのか、考えが全くまとまらず、結局寝たふりをしてしまった。


 やがて彼の健やかな寝息が聞こえて来た。私はというと、いろんなことが頭の中をぐるぐるして眠るどころではない。


「私の気も知らないで…」

 寝返りを打って間近で彼の寝顔を見ていると、彼のことが少し憎たらしくなって、そっと彼の頬をつんつんしてみた。

 

 結局一睡もできないまま朝を迎えてしまった。

 

 彼が起きだして身支度を始めた。


 寝たふりを続ける私に、彼が顔を寄せ、言葉をかけて来た。

 何もせずに、このまま彼を返してしまってはいけない。勇気を出して、せめて私が感謝をしているということを、彼に伝えたい。

 でも、言葉が出てこなくて、どうしていいかわからずに、とっさに、あんなことをしてしまった。


 正真正銘の私のファーストキス、私の本当の気持ち。

 でも、彼はどう思ったろうか? って、あきれたに決まっているよね?

 ああ、今度、どんな顔をして彼に会えばいいのだろうか。


「翔太さまっ」

 彼のことを考えていると、身体の芯がじんわりとしてきた。  

 湿って熱くなったその部分に指を這わせると、すごく気持ちが良かった。








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