1-11.台風襲来!

 どんどん風雨が強くなってきた。台風が近づいている証拠だね。


 完全にボクの落ち度だった。天気予報は見ていたけど、『雨』『晴れ時々曇』とかだったので、この雨が台風によるものなのか普通の温帯低気圧によるものか判別できなかったんだよ···。


 ナナに言われて天気図を見たら、同心円状の等圧線が非常に込み合った熱帯低気圧、つまり台風がこっちに向かってきていたんだ!


 天気図には注釈で『大型で非常に強い台風ハリー・ケン』との表記がついてたよ。···この表記はどうなんだろう?台風の名称が『ハリー・ケン』なんだと思うんだけど、台風なのかハリケーンなのか···。元日本人としてはややこしすぎるわ!絶対にエレさんのお遊びだろうな···。


 通り過ぎるのは明後日か···。連泊手続きをこのあとしておこう。そこそこしっかりとした作りの建物だけど、油断はできないね。



「みんな。台風が過ぎ去るのは明後日みたいだから、ここで連泊するよ。ここの建物に被害がなければ···、だけどね」


「アキ?そんなに荒れそうなのか?」


「そうだね、レオ。風速50mぐらい吹きそうだからね。リオの高速魔法の2割ぐらいの速さの風と言えばわかりやすいかな?」


「そんな速い風が吹くのかー!?」


「そうだよ、リオ。だから、もしかすると屋根が飛んじゃったり、ヘタしたら建物ごと吹っ飛んでしまうかもしれないね」


「じゃあ、そうなったらあたいたちはここのみんなをたすけたらいいんだな!?」


「アトラちゃんの言う通りかな?ただ、何かが起こってから動こう。あくまでここの人の言うことに従うこと。いいね?」


「え〜〜!?せいぎのみかたできないのか〜!?」


「気持ちはわかるよ。けどね、アトラちゃん。助けるのは『押し付け』じゃあいけないんだ。逆に迷惑になってしまうことが多いからね。だから『向こうから助けを求めたら』助けるのが基本だよ。

 ここに泊まってる間はここの人の指示に従うこと。

 助けに動くときはここの人の許可を得てから指示に従うこと。

 ただし、命に関わることなら躊躇なくやっていいよ」


「なるほど···。アキじーちゃん!わかったぜ!」



 これが起こってフラグにならなきゃいいけどね···。


 夕食後に連泊の手続きをしておいた。天気が荒れてきたので、ボクたちがチェックインした以降は新規客は来てないそうだ。


 ついでに『嵐になるかもしれないけど、ここの建物は大丈夫か?』も聞いておいたよ。過去にも台風直撃はあったものの、深刻な被害まではいってないようだ。万が一の場合はボクたちも協力すると伝えておいたよ。


 さて···、大丈夫かな?


 部屋に戻ってのんびりくつろいだあとにボクはフーちゃんと寝ることになったよ。



「えへへ!じーじとねるのってはじめて〜」


「ははは。あんまり期待されてもなんにもないけどね」


「ばーばはおちつくっていってるんでしょ〜?フーもおちつくかなぁ〜?」


「フーちゃんはヨウくんやナツとは一緒に寝ないのかい?」


「ママはいつもパパといっしょにねてるから、じゃましちゃいけないの」



 ···そういう時は仲いいんだなぁ〜。しかし、ちゃんと気遣いできるなんて···。フーちゃん、偉い孫!



  グロー歴523年8月7日 暴風雨


 ほとんど寝れなかった···。フーちゃんに抱きつかれてるからじゃないよ。雨風の音がすごいんだよ···。建物もギシギシというきしむ音が結構響いているよ。よく窓ガラスが割れないなぁ〜。頑張ってくれてるみたいだね。


 この世界には電気、ガスがないので停電自体がないね。魔法の灯りがすぐに作れるから、その点は元の世界より心配いらないね。



「···アキ?起きてる?」


「おはよう、ハル。雨風がうるさくてほとんど寝てないけどね」


「···朝食食べに行く?」


「酒場が開いてそうならね。···もしかすると食料が足りなくなってるかもね」


「···じゃ、リオたちの様子を見てくるよ」


「よろしくね。さてと···、フーちゃん?そろそろボクから離れてほしいなぁ〜」


「ふわぁ〜〜。じーじ、おはよう。じーじといっしょにねたらフーもあんしんしてぐっすりだった〜」


「そう、それは良かったよ。朝食食べに行くから支度してね」


「ふわぁ〜い〜」



 そうか···。フーちゃんもハルと同様に安心しちゃったか〜。ボクってそんなに安心できるナニカがあるのかなぁ〜?こればっかりはわからんわ。


 ハルがリオ一家の部屋に行くと···、なんと!リオは早起きしていたよ!?どういう事だ!?


 ボクがリオ一家の部屋に行くと、リオとナナと言い合いになってたよ。



「失礼だなー!?オレだってちゃんとする時はちゃんとするぞー!」


「じゃあ、アンタはいつもちゃんとしてないって事よね!?」


「いやー?ちゃんとしてるぞー?」


「···アンタのちゃんとしてる基準がわからんわ···。もう20年近く一緒だけど」


「こんな大荒れな天気だから、何があっても対応できるようにはしてるぞー?」


「ナナ、リオはピンチの時は早起きになるんだよ。台風が来ていつ災害が起こるかわからない状況だから早起きしたんだよ」


「そう〜。···じゃあ、毎日ピンチになればいいのね?」


「···それはそれで物騒だけどね」



 みんな合流してから酒場に行くと、多くの宿泊客でかなり混んでたよ。すると···、



「悪い!食料庫の壁から雨漏りしてしまって使える食料の在庫が少なくなってるんだ!保存食に余裕があったら可能な限りそれで済ませてくれ!」


「「「「ええ〜〜!?」」」」



 あぁ~、そう来たか。天井から雨漏りを普通は警戒するけど、実際には壁のわずかな隙間から浸入することもあるんだよ。吹き込んだ雨で食材がダメになっちゃったかぁ〜。


 そう思ってると今度はボクたちの後ろの方で···



「お〜い!天井から雨漏りしてるぞ〜!部屋変えてくれ!」


「窓ガラス割れた〜!無事な部屋はあるか!?」



 もうフロントのおっちゃんはてんやわんやだ。ボクも工場の管理してた時は次々に来るトラブルの対応をやったもんだよ。


 その時だった!


 バリバリバリーーー!!!



「大変だーー!屋根が飛んじまったぞーー!!」


「2階のお客さんはここで待機して!階段を塞ぐぞ!」


「ちょっと待て!?俺らの荷物はどうすんだよ!?」


「諦めてくれ!一緒に飛ばされてる!」


「バカヤロー!!そんな簡単に諦められるか!」



 これはマズいね!2階のお客さんと宿のおっちゃんが揉めだした。すぐに対策しないと建物内に雨水が入り込んじゃうよ!ここはボクたちの出番かな?



「おっちゃん!ボクの魔法なら取りに行けるよ!階段はリオに魔法で塞いでもらうから!」


「そんな事が出来るのか!?ならやってくれ!」


「わかりました!荷物を取りに行く人は代表者だけにして下さい!多くの人にこの魔法はかけられないので!」



 そうして代表者に雨除けの魔法を施して、リオが一時的に張ったバリアを通り抜けて2階へ上がっていったよ。



「ハル!ナナ!ボクたちの荷物ってどうなってる?」


「···無限収納カバン」


「うちもよ!」


「よし!多分1階のボクたちの部屋も雨漏りするからここで待機しておこう!」



 うちの対策をしていたら2階のお客さんたちが戻ってきた。



「助かったよ!一部飛ばされてしまってたけど、キミたちのおかげで回収できたよ!」


「それは良かったです。リオ!土魔法で階段を封鎖して!」


「おう!任せておけー!」



 さてと···、これでしばらくは時間が稼げるかな···?

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