第47話:西の大帝国・カラカラ君の話
以前、西の大陸にある大きな帝国から、カラカラ君が京国に遊びに来た事があった。その時に色々な話をしてくれた…。
主要都市と他の主要都市を石畳の道でつなぐ事で、軍隊の移動は早くなった。伝令の馬も、商隊の移動ももちろん早くスムースとなった。そして、『オン・ヴェスイ・ローマン・ドューカン(ラテン語・訳:すべての道はローマに通ず)』と言われる程に、道路の整備がされ、文字通りすべての道は帝都につながるのであった。
地方に点在する街では、信仰する神様の
その大陸の多くの土地をカラカラ君の国が制圧してはいたが、まだまだ抵抗する勢力や他民族がいた。特に北方からの騎兵による急な侵略を警戒し、アルビオン(ラテン語・訳:白い国)という土地では、ヘイドリアンの壁という騎馬の南下を足止めする防御壁を作った。それは、こちらの大陸で言う、春秋・戦国時代に北方の
また、コロッセオという武芸を競う場が彼の帝都にあり、皇帝や貴族、そして帝都市民の娯楽の場の1つであった。腕に自慢がある者同士の死をかけた戦いの場でもあり、時には猛獣を放って、戦わせた。戦う者の多くは帝都の市民ではなく、侵略していった先に住む住民を奴隷として帝都に持ち帰り、売買されるなどされ、その中で強そうな者をそこに送り込んでいたと彼は話した。彼ら剣闘士の事をグラディエーターと呼んだそうだ。香織はそこに出てみたいと言っていた。一方の豊は首を横に振った。
向こうでは、パニス(ラテン語・訳:パン)という小麦粉をこねて焼いたものが食卓に並ぶそうで、その作り方を教えてもらった。こちらの大陸では、小麦粉を練ってから蒸したり、湯で他の食材と煮たりする事が多かったので、小麦粉を焼くという発想は京国では珍しい食べ方であった。のちに大姉達は、その小麦粉に薬草(ハーブ)を少し加えたり、もらった油(オリーブオイル)やその実(オリーブ)を混ぜて焼いて食べたりもした。財力に余裕があるのか、カラカラ君は定期的にオリーブを含めた珍しいモノをこの京国に送ってくれる。東の島国にいるヒミタンと同様に、京国は遠方の国々と交流があった。
他に、帝都の市民には“市民権”があり、その身の自由を保証されていたが、侵略していった属州の人々にはその市民権はなかった。多くがほぼ奴隷扱いであったのだ。ゆえに、カラカラ君は、「オレが皇帝になったら、その属州に住む者にも、帝都の市民と同じ市民権を与えて自由を与えるんだ!」と言っていた。そこには、度々おこる属州での反政府運動や奴隷による蜂起を防ぐ目的と、何よりも国民化させて民を管理し、税収入を増やすというちゃっかりとした意図も含まれていた。
そして大浴場の話もしてくれた。大きな建物の中に温かい湯を溜めて、そこに人々が入る。冷たい水風呂もあれば、蒸気で身体を整える部屋があり、大勢の人が利用している。まさに社交の場であり、娯楽の一つでもあった。この話には、大姉、小姉、香織たち姉達は、大変興味深く聞いていた。
こういった、西の大陸の生活や文化を、カラカラ君は話してくれたのであった。
…というカラカラ君から聞いた話を、豊は蝶姫にしてあげた。
浴場については、この後宮にその規模のものは作れないが、非常に興味を持った姉達は小規模ながら真似をして
三人の姉達はそれぞれ香りの好みが異なり、また好きな湯の熱さも異なっていたので、やがて、湯船の数は姉の数だけ増設されていった。
それから数か月してから、後宮の奥地から、突然、熱い湯が大地から吹き上がった。その安全性を確かめてから、この大地からの恵みを風呂の湯として、後宮で使い始めた。その湯はまさに“湯水のように”湧き出しており、宮廷内の役人用に浴場を1つ設け、そして街まで届けて住民向けに大衆浴場を2か所作り、どれも無料で開放した。これにより、街の人々の衛生面も健康面も向上し、生活の質が高くなった。
蝶姫が蓮月殿に来たばかりの頃に、大姉は蝶姫に、「蝶と豊用に、湯浴みの場を蓮月殿の隣に作りましょう」と気を遣った。その時から工事は
蝶姫はその明日という“日”を心待ちにしたのであった。
愛しいあのヒトの子と、ふたりでゆっくりと入れるお風呂を、心待ちにする蝶の姫であった。
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