第43話:王子「申し上げたき儀がございます」
小姉「…。(今日の豊は、走り回ったり、姉上に話しかけたりせずに、おとなしく私たちの話を聞いて…。!?って、寝ているのね。まあ、いいでしょう。朝議の進行を邪魔していないだけ幸い。ふう)」
すると、突然、
豊「あっ!思い出した!」
と、大声を出して、飛び起きた。
皆がビックリして豊を見る。
豊「あぁ、ごめん、ごめん。ボクまた邪魔をしちゃった…。ごめんなちゃい。てへっ」
小姉は豊を
豊「律香お姉ちゃん、ボク待つから、あとで数分間、発言する機会をちょうだいっ。姉上に相談したい事があるんだっ」
小姉「はいはい。ちょうど今、話に一区切りついたところです。では、ここからは、あなたから姉上にお話をする場にしましょう」
豊「うん、ありがとう」
と言って、蝶姫の膝からチョンとまた飛び上がって、大姉の前で正座する。
豊「姉上に申し上げたき
大姉「はい。何かしら?」
豊「4つあります」
小姉「…。(4つも!?…。くだらない話でなければいいけれど…。場合によっては途中で話を止めないと…)」
大姉&蝶姫「…。(ふふふ。4つも!?面白そうね。何かしら?)」
香織「…。(今日の弟くん、よくばるな~。がんばれ~)」
豊「1つ目。
そう言ってから、外で待機させていた
大姉「まあ、どれも立派ね。特に、紙は、かなり高級な仕上がり感があるわ。帝都でもここまでの質は、そう簡単には売っていないわよ。もう片方の組は…、あら、まあ…、普通よね…。悪くはないけれども、普段私たちが使っているものと同じくらいだわ」
豊「はい。そちらの方は、普通なのです。ただし、販売価格は今の1/30以下になります」
すると、広間にいる“オトナ達”が、「そんなバカなっ!」、「ウソだ!」、「大げさだ!」と騒ぎ始める。
豊「現時点での算出になりますが、材料費、人件費、設備投資や製造過程で使う費用、そして国内外での販売方法などの視点から考えるに、少なくても値段はそこまで下がります。もしかしたら、もっと下げられるかもしれません。この国に住む者であえば、誰でも気軽に買えて、使えるようになります。そうすれば、国の教育や文化の面でも、良い影響を与えます。それ以前に、国の
広間にいる“オトナ達”は、「おおぉ!」と言い、そして杏寧妃の様子を伺う。
杏寧妃「京香。豊が話している内容の通りよ。安定して製造できると私は判断しており、そして国益につながると考えております。ゆえに、
“オトナ達”は、豊が“パンダ・クマ案件”と、“十二区分法”で既に実績を積み上げており、そこに文官達の長でもある
大姉「ふふふっ。じゃあ、決まりね。(見事な下準備と根回しだわ)」
蝶姫が豊のこの話に聞き入っていたのを見た大姉は、
大姉「豊っ、この案件は、パンダ族とクマ族の協力なしでは達成できません。あなたと蝶姫で本案件を進めてくださいね」
と気を回した。
豊「はい、姉上」
そして、蝶姫は首を縦にふった。
大姉「特に、紙の需要はこれから増えそうね…。薄く、軽く、保存がきく。なによりも書きやすい。3種のうち、紙を優先にして頂戴ね。そして紙の製造が安定し、国内で十分に流通するようになるのでしたら、国内の事務で使う書き物は全て紙にし、竹簡、木簡は最小限、または廃止にしていきましょう」
一同「はっ!」
豊「2つ目のお話をしてもよいでしょうか?」
大姉「ええ、どうぞ。(次は何かしら、ふふふ、楽しみ)」
豊「2つ目は、『道路の整備』と『道路法』の導入です」
大姉「興味深いわね…。ふふふ。(前に豊が私に話してくれた内容かしら?)」
豊「主要道路である京北道、そして街中の北門に続く桜道と、西門に続く梅道、この3つの道路を石畳にします。これは、前に遊びに来てくれたカラカラ君の国のようにするのです。今の道は土や砂、石などでデコボコしています。馬車だと揺れてる為、気を付けて通っています。特に、雨の時には馬が脚を取られてしまったり、ボクたちですら歩き難くなります。雨が止んでも、数日は道を歩くと泥だらけになります。ですので、石を敷き詰めて、表面の凸凹を少なくし、道の両端に排水用の溝を少し掘るのです。そうすれば、雨天でも人も馬も今より安全に通行できるようになります」
小姉「カラカラ君とは、西の大陸のマルクス・アウレリクス・セウェルス・アントニヌスさまの事であるか?」
豊「うん。名前が長いし、よく名前を変える習慣があるって言っていたから、『カラカラって呼んで』って言われたんだ。だから、カラカラ君なんだ」
蝶姫「…。(ヒト族の名前。とても長い子もいるのね。名前を呼ぶのが大変そうだわ)」
大姉「私もあの子から道路が石畳で主要都市を結んでいるという話を聞いて興味を持ったわ。軍隊の進軍や、商隊の移動も速くなり、そして安全になったと聞いたわ…。さあ、続けて」
豊「はい。石畳で整備をする際に、京北道では、森側を馬車道、つまり車道とし、反対の農地側を歩行者用の道、つまり歩道にします。一方で、街中の桜道と梅道は、その道の中央を車道とし、その両脇を歩道にします。つまり、店が並ぶ側が歩道となるのです。そして、車道と歩道の間に先ほど申し上げた排水用の溝を作ります」
小姉「その石はどこから集めるの?大量に必要となりますよ(と、あえて聞いてみましょう…)」
豊「律香お姉ちゃんもご存知のとおり、京北関増築に伴い、採石作業をしています。その現場のおじさん達の話では、『まだまだ良質な石が採れる。京北関の増築が終わったら、これら石が、増築した分と同じかそれ以上に余る。もったいない、もったいない』という事でした。石は、そこからお裾分けしてもらえば良いのです。もしくは、京北道の左右は大きな岩山です。その山を削るのも手段の1つです」
小姉は、首を縦に振った。
大姉「石で道を整備する件、やってみましょう。これは、伯母上(杏寧妃)に任せます。豊は定期的に作業の計画・経過を見て、修正する必要があれば伯母上にお話しになるのですよ。よいですか?」
杏寧妃&豊「はい。かしこまりました」
豊「そして『道路法』ですが、姉上もご承知の通り、ボクは帝都で大怪我をしました。その原因は、速度を出して走っていた馬車同士がぶつかった事にあります。あの事故で近くの人が大勢怪我をしたり…、命を落としたりしたと聞きます。いくら今回の道路整備で馬と人を分けても、速度を出していたら同じような事が起こるかもしれません。そこで、人通りが多い桜道と梅道では、馬の速度を“
大姉「そうね。律香、あなたが主となり、豊からの考え、意見を吸い上げて、この『道路法』を国法に追加してくれない?」
小姉「はい、姉上。承知いたしました。今の豊の説明で、私は十分に理解いたしましたが、漏れがないように、このあとにまた豊と打ち合わせをいたします」
広間にいる“オトナ達”は、ぽか~んとする者もいたが、「うんうん」とうなずく者も数多くいた。
大姉「ねぇねぇ、今日の豊はいつもと違うけれど、大丈夫?疲れていない?」
と、小声で弟を気遣う。
豊は、「大丈夫だよ…」と答えた。
豊「3つ目は、
と言って、
大姉「
小姉も気になり、大姉の元に駆け寄り、その紙の内容に目を通す。
豊「長文先生が、この国を離れる時に、ボクに渡してくれました。そしてこう言いました、『きっとこの制度は国を
すると、広間の“オトナ達”は、「陳羣だって?名士と言われ、我が国にも居たが、結局は隣国へと旅に出て行ってしまったではないか?」、「あの裏切り者の案なのか?」、「何をいまさら…」と口々に言い始める。
そんな“オトナ達”に振り返り、そして立ち上がって豊は言う。
豊「この国を離れてしまった事は悲しいし、残念だよ。でも、国を去る時にこの手紙をボクに託したって事は、この国の事を思っていてくれているんじゃないのかな?もしこの国が嫌いだったら、こんなすごい知的な財産を置いていかないよね?子供のボクではまだ分からない、オトナの事情があったんだよ…きっと…」
続けて、「そうやって人の悪口や陰口を言うのは、良くないよ!オトナとして恥ずかしくないの?」と豊は言いたかったが、その場で言って良いのか悪いのか判断が出来ず、言わなかった。いや、言えなかったというべきか。
その“オトナ達”は、
豊「姉上っ、長文先生が『使っていいよ』と仰っていた以上、その九品の制度が、姉上達の視点で有益なものとなると判断されるのであれば、ぜひ、その制度を採用し、役職の身分を明文化されてはいかがでしょう?」
“オトナ達”は、「まあ、使う分にはいいのではないか?」、「陳羣は別に悪い奴じゃあなかったし」、「
豊「補足しますと、我が国では誰もが学舎で学び、その後、手に職を得ております。優秀な人材が埋もれていると思います。是非、身分に関係なく、その人を公平な物差しで評価し、適材適所となるよう、お願い申し上げます」
大姉「分かりました。九品中正制度、やりましょう。まずは既存の者達を評価・査定せねばなりません。伯母上には文官の人事査定をお願いします。武官は香織、あなたに任せるわね。そして律香、あなたにはこの二人に協力し、それぞれの評価基準が共に同じ判断材料や根拠に基づいているものであるかどうか、見極めて、最終的なまとめ役と決定権をお願いするわ。気を付けて欲しいのは、みなの実績、現在の役職、その者の持つ
杏寧妃&香織&小姉「ははっ!」
幼い少年は色々としゃべったから少し疲れた様子だった。
大姉「豊。九品中正制度の話を
と、やさしく弟に声をかける。
豊は、首を縦に振った。
色々と自由に言う“オトナ達”は、この時には「うんうん。よき案だ」と言う声もある一方で、「私の評価が低く、
“オトナ達”はいつもいいたい事を言う、集団に紛れて…。そして、“声がデカい者”が言えば、まわりの者もつられて口々に「そうだ、そうだ」と
蝶姫「…。(あぁ、愛しきヒトの子が、ああやって頑張っている。今すぐに
香織「やるね~、弟くん。(あとで、おねーちゃんからご褒美をあげないとっ」」
小姉は豊を見て、何度も首を縦に振ってうなずいた。豊への評価が格段に上がったようだった。しかし、「こういう大切なものは、早めに姉上に言うべきものですよ!」とも言って豊を叱るのであった。
豊「はーーーい」
と、返答した。
大姉「それで、いよいよ4つ目は、なあに?」
豊「はい、4つ目は、『
大姉「それは、どんなものなの?」
豊「街のみんなの意見・考えを聞くものです。街の人の生活上の悩みや、問題、改善して欲しい事などを自由に書いてもらうのです。他の国々と異なり、我が国の識字率は高く、一定の年齢以上で目や手に不自由がなければ、ほぼ100%ともいえるくらいにみんな読み書きができます。今は、人々が各役所に
大姉「あらら?どうしたの?」
豊「この『陳述箱(ご意見箱)』は急がず、先ほど話があった、紙、木簡、竹簡のうち、“安価で気軽に買える普通の質”の方が、町中に出回ってからの実施でもいいと思い直しました。でも、立て札は早い段階で設置をし、陳述箱への回答だけではなく、そこには、政庁からのお知らせも記載したらいいいのかな~?って、いま思いつきました。」
大姉「あらっ、面白いわね。政庁からのお知らせは、どのようなものを書くの?」
豊「例えば、先ほどボクが述べたような、『紙・竹簡・木簡の国内製造販売を開始します。より安価で買えるようになります。なお、働き手を募集中』とか、『街の中央道路を工事します。ご不便をおかけしますが、よろしくお願いします』とか、『街の道路では、馬を歩かせないといけない。早歩きを含めて、速度を出した通行を禁止し、場合によっては罰則が科される』、『陳述箱(ご意見箱)を近々設置します。普段の生活における問題を改善する為のものです。匿名でも良いので、自由に書いて投函してください。回答はこの立て札に記載します。なお、内容によっては本人に直接伝えます』と言った事を書き記します。あとは…」
大姉「あとは…?…。(がんばっているわね。今日は。おねーちゃんが、愛情たっぷりの手料理で、
うるさい“オトナども”は、黙って聞いていた。圧倒されていた。それでも、一部の者は、理解を示しており、首を何度も縦にふり、うなずいていた。
豊「あとは、“正しい情報”をそこに書くのです」
大姉「正しい情報とは?」
豊「街の人達は、関心がある話題について、人づてに聞いていきます。そして、時には、事実とは異なる情報が出回ったりして、人々が混乱する場合もあります。間違った知識を得てしまう場合もあります。そういったものに対して、政務から“正しい情報・正しい知識”を伝えるのです」
大姉&小姉は、首を縦に振り、話をじっくりと聞いている。
豊「むかし、ある国が、敵対する国の住民に対して、“悪い噂”を流し、住民を混乱させ、そして住民に蜂起させたのです。それによって国は疲弊し、その後の国同士の戦争で容易に勝敗は決しました。さらにはその惑わされた住民にとっては、侵略して来た国が“救いの神”だと思い、民からの信頼をすんなりと得た…。なんていう話もありますし…。“噂話”は怖いものなのです。それを統制する目的をその立て札が果たします」
小姉「その立て札に、もし悪意を持つものが勝手に悪い情報を書いてしまうのでは?(…と、今回もあえて聞いてみましょう…)」
豊「それを踏まえて、陳述箱と立て札は、王宮の門付近に設置します。門番が常にいますし、人通りが多いので…」
すると、“待っていました!”と言わんばかりに悪意を持った文官が、
「そんな場所に設置をしたら、我が国の民どもは投函しづらくなるのでは?誰も投函しないぞ。なあ、皆もそう思わぬか?」
と言うと、数名続いて、「そうだ、そうだ」と言い始める。
豊は、首を横に振った。悲しい表情をして…。
豊「それは…事実かも…」
その文官は、「ほら、見ろ!」と心無い言葉を豊に言う。
豊「だとしたら、それは、ボク達が、この国に住んでいる人たちから“信頼”されていない証拠だ…。ボク達の“努力”が足りていないという意味になる」
と言い、さらに悲しい顔になった。
そして、涙を流しながら言う、
豊「は、母上が居た時は、
と、大泣きをした。
まだ5歳の小さなヒトの子は泣き崩れた…。亡くなった母を想い出して…。
蝶姫は、すぐに豊の元に行き、抱きしめてあげたかった…。しかし、先日読んだヒトに関する資料の影響で、動けなかった…。広間にいる文官・武官のほとんどが、蝶姫の事を知らない。もちろん、蝶姫と豊との仲もまだ知らない。そんな状況で、新参者である蝶姫が豊に抱きつくという行為を、皆の前でする事が出来なかったのだ…。その余計な資料さえ見ていなければ、飛びついていたであろうに…。そして、蝶姫も悲しくなった…。
代わりに、大姉がすぐに豊の元に駆け寄り、やさしく抱きしめたのだ。実の姉だから、出来る事であった…。たとえ人前であっても…。たとえ女王であっても…。
小姉も、香織も、杏寧妃も、その情景を想い出して、涙を流した。
“オトナ達”の一部の者も、亡き王妃・
蝶姫は、ふと未央が先日言っていた『お嬢っ、自分に正直に、素直になるのじゃ』という言葉を思い出し、吹っ切れた。そして、遅れて豊と大姉の元に行き、豊を
蝶姫「もう、大丈夫」
愛おしい小さなヒトの子は、さらに大きく泣いた。
“オトナ達”のすすり泣く声が、政務殿の広間に響き渡る。
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