第42話:蝶姫、参内!

ホウは、コパンやクマ吉たちと走り回れるくらいにまで体調が回復した。


姉の大姉ダイシ京香ケイカ)と、小姉ショウシ律香りっか)は、そろそろ弟を学舎に復学させようと考え始めていた。そして、まだ幼い子供ではあるが、むしろ高等学舎の方に入学させようかとも検討していたのであった。一方、同じく姉の香織カオリは、弟との武芸鍛錬計画を、豊富で“やさしい”品揃えで表に記し、今か今かとその機会を狙っていた。まさしく、虎視眈々こしたんたんと…。


そういったひと段落ついた頃合いに、蝶姫チョウキは、前々から大姉と話していた事に、いよいよ着手しようとしたのであった。



そう、京国宮廷への参内である。



大姉の“食客しょっきゃく”として、まずは京国の政治情勢を把握してもらい、そして大姉や小姉の政務を補佐していくというものであった。


蝶姫は、「この国が好き。この街が好き。ここに住まう者達が好き。何よりも、あのかた興味津々きょうみしんしんである。だから、あの方が治める事になる、この国を知りたい。そして、あの方の手助けを少しでもしたい」と願っていたのであった。



そして、いよいよ参内するのであった。



“オトナが集まる場”。そう政務殿せいむでん、つまり政治について話し合いがされる広間がある宮殿へ、蝶姫は大姉、小姉に続いて入廷した。


既に、“オトナ達”は左右に整列し立っており、大姉達が入廷する際には、平伏へいふくをもって女王がたに挨拶をするのであった。



大姉は女王の間に座り、小姉はその横に立ち、そして蝶姫はその小姉の横に座った。



“オトナ達”一同が顔を上げ、再び立ち上がる。すると、ザワザワと騒がしくなる。



小姉「姉上の御前である、静まれ」


静まり返る広間。


小姉「今日は、姉上の食客である、蝶姫どのを紹介する。蝶姫どのには、姉上や私の補佐をしていただく」

と言い、蝶姫を立たせ、皆の前で挨拶するように促す。


蝶姫「私は蝶姫。よろしく」

とだけ言い、一礼をする。


すると“オトナ達”は、蝶姫からあふれんばかりの色香いろかと、その美しい容姿と所作に、老若男女ろうにゃくなんにょ問わず、みなが心を奪われる。


蝶姫「…。(もう少し“気”を抑えた方が良いわね…)」



そこに、政務殿の外から、スタタタタっと走って来る男の子がいた。そう、豊である。今日が、蝶姫の初参内であると聞き、走って来たのであった。


いつもの様に、“オトナ達”の間をスタタタタっと走り抜け…、しかし一度転び、自力で起き上がっては、その先の階段もテクテクと上り、少し高い場所で振り返って、その“オトナ達”、つまり文官・武官たち50名ほどに向かって、お辞儀をする。すると、文官・武官たちは豊に平伏し、香織たち王族は一礼をして礼を返した。この時は小姉は怒らなかった。



大姉「あらあら。転んじゃって大丈夫かしら?豊」


豊「うん、大丈夫だよ、姉上っ」

と、姉に返答をしてから、再び“オトナ達”に振り返って、話を始めた。


豊「この蝶のおねーちゃんは、姉上の大切なお友達。そして、この国の為に、貴重な時間を費やしてくれて、その才を振るってくれるんだ。でも、まだこの国の事を知らないから、蝶のおねーちゃんの事を助けてあげて欲しいんだ。お願いするね」

と言い、皆に一礼をする。


王子、つまり次期国王となる豊が皆にお願いをし、礼をするのだ。その場にいた“オトナ達”は慌てて、平伏し、「はは~っ」と返事をする。


蝶姫は先ほど座っていた場所に戻る。豊も、蝶姫のところへ行き、蝶姫のひざの上に座る。


すると、“オトナ達”は一様に「おおぉ!」と驚く。


「普段ならば、大姉さまの所に行くのに、今日は…!?」

「あの二人の距離感…。あの蝶姫という者は、王子から既に信頼を得ている!?」

「しかも先ほど、王子自ら我々に『よろしく頼む』とお願いをされた…」

「蝶姫どのとは、只ならぬ者であろう」

「そう言えば、先日、黄巾との戦場で見た女神さま?天女さま?仙女さま?に似ている…」


などなどと、“オトナ達”が騒ぎ立てる。


それを見かねて、

豊「よろしくね~」

と、蝶姫の膝元から軽やかに“オトナ達”に言うものであるから、“オトナ達”はを確信し、改めて「ははーっ!」と返事をしたのであった。



大姉は、「ふふ。やるじゃない。男の子はそうじゃないと。“大切な人”はそうやって全力でまもるものですよ」と心の中で豊に向かって言う。


小姉は、豊の登場とその言動が、この場において想定外に良い方向へ進んだので、ホッとする一面と、豊への評価が少し上がった。


蝶姫は、またここでも“愛おしいヒトの子”と一緒に過ごせると思い。それだけで幸せだった。



こうして、朝議が始められていくのであった。








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