第38話:妖術 vs 妖術
「おねーちゃん…、あぶない…。かおり、ねーちゃん。あぶない…」
気を失って倒れた
姉の
大姉「大丈夫よ。
一方、その香織は、京北関の外で繰り広げられている光景に自分の目を疑った。今までに見たり聞いたりした事もない異様な状況が目の前で繰り広げられていた。
香織「皇軍が、同士討ち!?内乱か?…。いや、違う。互いに無差別に斬り合っている。敵も味方もない。
香織は自軍騎馬1,000の進軍を一旦止めて、状況の把握に努めたかったが、目の前で助けるべき相手がやられているので、進むしかなかった。しかし、その味方同士が戦っている為、どちらが味方で、どちらが敵なのか区別がつかない。
そして、あの戦場に自軍が加われば、自分たちも同じようになると感じ、皇軍に近寄らずに、迂回し、黄巾賊の部隊に向け、騎馬1,000を走らせる。
香織「茉莉花っ、私の左側をお願い。黄巾本隊を攻めるわよ」
茉莉花「はい、お姉さま」
茉莉花は香織の副将で、左利きであった為、よく香織は自身の左の相手を茉莉花に頼んでいた。文字通り、香織の“左腕”であった。
やがて、黄巾賊の本隊が遠方に見えてきた。
すると、急に
香織「…。よくないものが来るわね…」
騎兵たちは、あたかも
香織「よいか、皆の者。アレが何かは分からぬが、敵だ!己の力を信じて剣を振るえ!よいな!自身を信じよ!」
騎馬隊「はっ!」
そして黄金の騎兵と接触する。香織は
その様子を見ていた香織は、
香織「妖術?幻術のたぐいか?黄金の騎兵に手応えはない。しかし、我々は斬られたと思い、倒れ込む…。意識操作か?つまり実態のない幻なのか…?」
と仮定してみる事にした。
香織「よいか。この黄金の騎兵は幻である!無視して進め!斬りつけてくるように見えるが、お前らは一切斬られておらぬぞ。思い過ごしだ。もう一度言う、この黄金の騎兵は実態が無い、幻ぞ!無視をするのだ!進めっ!」
そうして、香織と茉莉花の部隊は、黄金の騎兵を無視して黄巾本隊に近づいた。
香織「私は、
張角「うむ。そうじゃ。すべてはワシの術。次の術に、お主は耐えられるのかな?ぐふふふふ。おい、お前たち、しばし相手をしてやれ!」
すると、『黄色い頭巾』をした歩兵部隊が槍を持って香織たち騎馬隊に襲い掛かる。
香織「これは本物の人間だな…。お主ら、我ら京国騎馬隊に槍は通じぬぞ!」
と言い、香織も茉莉花も、そして騎馬隊も、その『黄色い頭巾』の槍歩兵を次々と蹴散らす。
馬に乗っている香織より2倍大きく見える。そんな大男であった。
香織は迷わず馬を進め、その大男の構える鉄の棒ごと、男を横真っ二つに薙刀で斬った。
騎兵たちから「おぉー!」という歓声があがり、黄巾賊は「ひえぇぇー!」という悲鳴が上がった。
張角「
と言ってから、何かの術を長々と唱え始める。
その頃、豊は再びうなされていた…
豊「ちょうのおねーちゃん…。かおりねーちゃん…が、あぶない…。たすけて…あげて…」
大切そうに抱いていたその愛おしいヒトの子を、
蝶姫「京香、この
と、姉の大姉に託す。
大姉は首を縦に振る。
大姉「なにか、起こっているのね。尋常じゃない、何かが…」
蝶は首を縦に振る。
張角が何か術を唱えて始めてから少し時間が経過した頃、香織と茉莉花の足元が揺れる。そう、地面が上下に揺れ動くのだった。
香織「なんだ!?地下の龍でも騒いでいるのか!?」
馬も兵たちも動揺する。しかし、黄巾賊はもう慣れているようで動じず、騎兵に斬りかかる。
しばらくすると、地面から薄汚い手が生え出て来て、気づいた頃には傷だらけの兵士が次々と地面から這い上がって来たのだ。
香織「うぅ、ひどい、死臭だ…。過去の勇敢な兵達を
現実ではあり得ない状況に、味方の騎兵は恐怖し、心が弱いものは失神し倒れる。馬も兵もその死臭に耐えられず、泡を吹いて倒れるものもいる。
香織「う~む、一旦引くべきか。だが、引くにもこの砂塵で方向が分からぬ。周りが見えぬ。いったん部隊を一か所にまとめて防衛体制を取り、状況を把握すべきか…」
と考えていると、その砂塵がピタリと止んだ。正しく言うならば、砂塵は一瞬で消え去ったのだった。
すると騎兵たちも、黄巾賊たちも口々に言い始める、「おい、上を見ろ」、「あれは、女神さまではないのか?」と。
見上げると、そこは土埃や砂塵まみれの戦場では想像が出来ないような清らかな光が、その者を照らし、天を舞っているようにも見えた。
蝶姫「貴様か?
香織も他の者も一瞬、死を覚悟するような表現し難い感覚に
神騎兵や古の兵士の登場、そしてそれらが瞬時に消える…。これら想像も想定も出来ない摩訶不思議な状況に、頭も身体も情報を処理できずに、そこにいた者全てが固まってしまう。
そして、辺りは静寂に包まれる。
蝶姫「この先に妾が住まう地がある。これ以上その大切な土地を荒らすというのならば、お主らすべての命が、先ほどのように
そう言って、天から地に足をつける。
蝶姫「香織どの、あとはお任せしてもよいかしら?」
という声で、ハッと我に返る香織。
香織は、首を縦にふり、一度気合を入れ直す。
そして、再び威勢の良い声を張り上げて、
香織「今まさに好機ぞ!賊どもを
と言い、味方を
京国騎馬隊も正気を取り戻し、目の前の『黄色い頭巾』を倒していく。
一方で、戦意を失った黄巾賊は、張角の次の一手に頼ろうとする。
香織は茉莉花と共に馬を敵将・張角に向けて真っ直ぐに進む。
張角は慌てて、何か術を唱える。
香織の薙刀が張角の首を斬り、茉莉花の
香織「…。逃げられたか…」
それを見ていた黄巾賊たちは「
方々に去る黄巾賊をあえて追わず、香織たちは皇軍の元に
すると、術者が居なくなったせいなのか、皇軍の混乱は収まっており、負傷者の手当などを行っていた。
益徳「おうっ!やるじゃねぇか、嬢ちゃん。オレと一献交わさねぇか?って、さっき門のところの練兵所にいた鬼教官じゃねえか?」
香織「私は
と言い、お礼の一礼をする。
益徳「おぉ。確かにオレは益徳だ…。よくわかったなぁ、嬢ちゃん」
雲長「そんだけ酒の匂いがしていて、顔が真っ赤であれば、それが張飛であると誰でも分かるであろうに…。義弟の事はさておいて、この混乱状態をうまく切り抜けるとは、なかなかやるの~」
玄徳「私は劉備。この
劉備も香織もその場にいたもの達は、互いに感謝の一礼をした。
香織「京国はすぐそこ。怪我人の受け入れや、食事の用意は出来ているので、今日は我が国に駐留されてはいかがだろうか?」
玄徳「それはありがたい。そうさせてもらおうか…。念の為、上官である
ちょうどそこへ盧植がやってきた。
盧植「あの混乱を鎮めて頂き、まずは感謝申し上げる。私は盧植。今、この軍を指揮する者。本来ならば、私の上官が指揮をするところを…、訳あって今ここから離れた場所にいる。我々は皇軍ゆえ、その上官の元に行かねばならぬ。ここで各々手当てをし、亡くなったものを家族のもとに連れ帰る支度などをしてから、この地を去る。ご厚意には感謝する」
香織「ならば、せめて我が京国から少しばかりではございますが、
盧植「おぉ。それは大変助かる。見てのとおり、このありさまゆえ…。香織どの、感謝いたす」
香織と盧植は一礼し、香織と茉莉花、そして騎兵達は一度京北関へ帰った。
その頃、豊は意識を戻しており、
豊「??あれ?あれれ?ボク、急に寝ていた???あれれれ~?」
などと、蝶姫や大姉に話していた。
京北関に戻った香織は、
香織「茉莉花、お前は騎兵負傷者の手当を、そして後で被害報告をせよ!
と、それぞれに指示を出した。
茉莉花「はい、お姉さま」
公覆「お嬢っ。かしこまりで」
香織「…(あの皇軍50,000が、10,000の規模にまで減るとは…。あの妖術・幻術、恐ろしいな…。しかしさすが蝶姫どの…。やはり“その存在”たる
香織は公覆に「この京北関で異変はなかったか?」を確認し、何も起こっていないと知ると安堵の表情を見せた。だが、大事な事を忘れていた…
香織「あっ、弟くん!大丈夫かしら?」
香織は馬に乗り、関側面の斜道を駆け上がり、執務室へ入る。
香織「弟くん、無事か?」
豊「香織ねーちゃん?無事だった?」
香織「!?」
豊「なんか、香織ねーちゃんが…。かおり、ねーちゃんが…」
と、急に泣き出した。
香織は弟の頭をなでてあげる。
香織「ねーちゃんは強いぞー。誰にも負けない!ほら、こうしてキズひとつなく無事に帰ってきた。だから、もう安心して」
豊「う、うん。ぐすん」
香織「じゃあ、今から、おねーちゃんと稽古を…」
大姉「まだダメです」
香織「あちゃー、そうであった。おねーちゃんとした事がうっかり」
そう言ってから、先ほど香織が戦場で見た事を大姉に報告する。
蝶姫の“した事”をどう話すか迷ったが、そこは蝶姫が自ら話した。
蝶姫「この
大姉「南華老仙…。仙人と言われる…あの南華老仙?」
蝶姫は首を縦にふる。
そこに突然大きな音が鳴る。
「ぐぅ~~っ」
豊の腹が鳴った。
豊「ごめんなさい。姉上達のお話しの邪魔をして」
大姉「いいのよ。気づいたら日も暮れそうですし。どうする?ここの兵士の皆さんにご飯を分けていただく?それとも、まだクマ吉ちゃん達がご飯を売っていたら、それを買う?街の酒家や飯処もいいわね。でもその身体だと…。やっぱり、またおねーちゃんがご飯作ってあげるね」
豊「うん。姉上のご飯がいい。姉上のご飯、だ~いすき」
香織「姉上、私は今日の戦果報告をまとめる為にも、今夜はここで泊まります。また明日ご報告いたします。では失礼」
と言い、弟の頭をなでてから退室した。
大姉「じゃあ、おウチに帰りましょう~」
ブロンとノアールを呼び、蝶姫は豊を再び抱き寄せて馬にヒラリと乗り、大姉も乗って、おウチに帰るのであった。
蝶姫は暗くなり始めた空を見上げる。まだ月は出ていなかった。
そして、愛しきヒトの子の『姉上のご飯、だ~いすき』の言葉が耳に残った蝶姫であった。
兵士たちの酒は、自身を清める酒となり、また失った仲間に捧げる酒となった。
身にも、心にも染み渡る。そんな酒であった。
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