第37話:京北関、開門!
北門を背にし、京北関を前にすると、左手に農地が広がる。蝶姫が見つけた“数字”の立て札がいくつかある。
その農地にはパンダとクマ、そしてヒトがいて、
豊「ここの農地では、米、小麦、芋、そして色々な野菜を植えて、育てているんだよ。あと、あっちでは薬草を育てていて、色々な薬になるんだって。この土地は、左右に険しい山々があり、正面の京北関もかなりデカいから、イナゴなどの害虫が他の地域からほとんど飛んで来ないんだ。そして後ろの北門の先にある、ボクらの“おウチ”側にも大きな山々があり、そこから吹く清らかな風がここを通るから、作物が良く育つんだよ」
蝶姫は首を縦に振ってうなずく。
豊「京北関の手前では、不審者の摘発だけじゃなく、荷物の中に悪い虫がいないかどうかや、流行り病などの病人がいないかどうかも検査しているんだ。そういった徹底した対応を警備兵も門番も実直にこなしているから、この国は平和なんだよ」
蝶姫は首を縦に振って納得する。
大姉「(この子ったら、
豊「道の右手の森林や竹林も整備していて、ある程度の木や竹を残した上で、伐採し、街の建築用の木材にしたり、竹を加工して
蝶姫は興味深く、首を縦に振った。
豊「あの森林には人が入らないから、土地がとてもキレイなんだ。そして、あそこに見えるように、キレイな水があっちの山から森を通って田畑に流れているんだ。それを姉上達が農地の用水路として利用出来るように、治水整備をしていったんだ。あそこの橋の所で、街の人達が小川から水を汲んでいるように、ここの水はとても冷たくって、美味しくって、大人気なんだよ。やわらかい感じのお水で、飲むと身体にすーっと染み渡る感じなんだ~」
蝶姫は首を縦に振る。
豊「姉上、せっかくだから、香織ねーちゃんがいる京北関まで、このままお散歩してもいい?」
大姉「いいわよ。私もついていくわよ」
そう言って、ブロンとノアールは、正面に見える巨大な関に向かって走り出した。
関の近くに来ると、左手に関の増築作業現場があり、大勢のパンダやクマが石や木を運んでいた。一方、右手では、兵士が盾と剣を使って接近戦の練習をしていた。その近くには、パンダ達がおり、竹槍を持つ者や、カンフーのような体術をみせる者がいて、互いに技を磨き合っていた。そして、その横ではクマ達が鉄の鎧をまとい、重たそうな鉄の盾を持ち、同じく鉄の槍で突く訓練をしていた。そこには、
香織「そこ!槍は
クマ「モウっ、モウッ!(訳:はい、戦神さま!)」
香織「何を言っているか、かわらないぞ!追加であと100回、突きの練習をせよ!」
クマ「モウっ、モウっ、ゥ(訳:もう、もうダメです…)」
香織「よろしい。がんばれ」
その鬼教官を見た豊は、急に背筋が寒くなった。
そして、姉に「今日はもう帰ろう」と言おうとした時に、“鋭い視線”を感じた。
香織「弟くん!?弟くんではないか~?お~い。弟く~んっ」
と走り寄ってきた。
香織「で、弟くん。体調はどうなの?もう、おねーちゃんと一緒に稽古が出来るのかな?」
豊「おねーちゃん、ボクはまだ…」
大姉「香織っ。この子はね、あと1か月くらいは休養が必要なのっ。武芸はそのあと。今日、やっと少しだけ歩けるようになったの。でも、支えてあげないと歩けなかったの。そんな状況なの」
香織「そっかー、残念。弟くんとおねーちゃんで、あ~んな事や、こ~んな事をまた一緒に汗を流して、そして互いに…って思ていたのに。まだ先か~」
豊は安易に想像が出来た…。薙刀での地獄のような猛特訓や、遠くまで矢を射るあの練習の日々を…。そして、きっとそれを越える新たなる試練があるのだと…。
豊「う、うん。というわけで、残念、香織おねーちゃん」
そんなやり取りをしていると、京北関の外が騒がしくなった。そして、日中は常時少し開いているその門を急ぎの馬が通る。
その馬を
香織「使者殿か?何用か?」
と言って、止める。
すると、急に豊が蝶姫に、
豊「なんか…来る…。ボ、ボク、ちょっとダメかも…。頭が…」
と言い、気を失った。
蝶姫は豊の状態を見て、緊急性はないと判断し、ホッとしたが、すぐにどこかで休める場所がないか、大姉に尋ねた。そして、京北関の上にある、香織の執務室で休むのが一番だと分かり、蝶姫と大姉は豊を連れてそちらへ向かう。
京北関の増築現場側には、馬でも関の上まであがれるように、坂道が作られており、そこをブロンとノアールは駆け上がった。
一方、先ほどの皇軍の兵士が、矢傷の手当てを受けながら言うには…
ここから北西方面に位置する遠方の平野で、黄巾賊5,000と、皇軍50,000が激突した。はじめは皇軍が優勢であったのだが、数で有利な味方がなぜか急に次々と倒れ始めた。その後、突然味方同士で斬り合うなどの大混乱となった。それを見た
という事であった。そして、盧植は曹国方面への退路を失い、代わりにこの京国を目指して皇軍が撤退していたのであった。要は、「皇帝の名のもとに、黄巾賊を討伐せよ。皇軍を助けよ」というのが、この皇軍の使者の目的であった。
香織は、快諾し、すぐに出兵の準備と、皇軍の受け入れ態勢を指示する。
香織「
茉莉花「はっ。ここに」
公覆「お嬢っ、お呼びで?」
香織「茉莉花はいつもの騎馬100を率いて遊軍として自由に行動せよ。公覆には弓兵3,000の指揮を命ずる!そして、この京北関の上から敵に矢を射て、敵を京北関に近づけるな!」
茉莉花「はっ!」
公覆「御意!」
香織「私は馬1,000を率いて戦場へ参る。他の者は、次の指示があるまで、関の防衛準備、迎撃態勢、そして医療を中心とした皇軍受け入れ態勢を整えよ!パンダ族とクマ族は、自衛を優先し、余力があれば防衛、お呼びヒト族を助けよ!」
兵士たち「はっ!」
パンダたち「メェっ!(訳:はっ!)」
クマたち「ウォ~!(訳:うぉ~!)」
各々の勇ましい声が京北関に響き渡った。
香織「騎馬1,000。私について参れ」
兵士たち「はっ!」
香織「京北関、開門せよ!」
香織のその声で、大きな門は、いつもより大きく開いていく。
ヒトに代わり、クマ達が率先して重たい歯車を回し、門が開いていく。
その門の向こうでは既に砂ぼこりが立ち込めており、戦場は意外と近くまで迫っていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます