第36話:神々 vs 黄巾

今日も京ノ都ケイのみやこの通りは賑わっており、沢山の人が歩いていた。


蝶姫チョウキホウを乗せたブロンと、大姉ダイシを乗せたノアールは、姉弟きょうだい仲良く並んで歩く。時折、「ヒヒ~ン」、「ぶるるんっ」と鳴いて、何か会話をしているようだった。それに合わせて、ヒトの方の姉弟きょうだいも仲良く会話をしていく。



豊「姉上っ、やっぱり街中では馬は、こうゆっくりと歩くべきだよね」


大姉「そうね」


豊「ボクが怪我をしちゃった原因も、急いでいた荷馬車同士がぶつかったって聞くし。馬の速度を制限するのと、馬が通る場所、そして人が歩く場所を分ける必要があるよね」


大姉は、“パンダ・クマ案件(もふもふ共存)”や、“十二区分法(田畑管理・距離の統一)”の時の様に、弟はたまにものすごく的を得た事を言う。


大姉「そうよね。ねえ、豊。もう少し身体の調子が良くなったら、今のお話をまたみんなの前で、あなたの口から私に言ってちょうだい」


豊「うん。いいよー」


大姉「(みんなの前で、あなたの口からあなたのその考えを私に話すという事自体がとても大事なの…。特にあなたの立場なら、なおさら…)」


蝶姫は、首を縦に振る。



大姉「蝶、あなたもその頃には…」


蝶姫は、首を縦に振る。



いよいよ北門が見えてきた。

その北門から京北関ケイホクカンまでが、京北道ケイホクドウ(別名・もふもふ街道)である。なお、王宮からこの北門までの桜並木の道は、桜道さくらみちと呼ぶ。


北門をくぐると、そこにはパンダ族とクマ族が一緒に工芸品や食べ物、飲み物などを売っていた。やはりその日も街の人も、旅人も、行商人も立ち寄っては、珍しい品々を手に取り、買っていくのであった。



すると、コパンとクマ吉は、豊に気づき、走って3人の元に駆け寄った。


蝶姫は豊を大切そうに抱きかかえたまま、再びヒラリと馬から降りた。大姉も続いて降りる。


いつも通り、コパンとクマ吉は豊に抱きつこうとするので、蝶姫は一度豊の様子を見てから、かがんだ。その二人のお友達は今日は優しく豊に抱きつき、再会の挨拶を交わす。そして、また「今日はね、自慢のハチミツ・ドリンクがあるよ~」、「今日は桜餅を作ってみたんだ」っぽい事を豊たちに話しては、またお店へと誘導する。利口なブロンとノアールは隅っこまで歩き、そこで待機した。



蝶姫&大姉「きゃはっ、いっぱいあるわねぇ~」


ふたりのうら若き乙女は、甘い物を目にしてキラキラとキャピキャピとはしゃぐ。


その二人のきらめきもあって、そこを通る人々は「なんだ?なんだ?」とコパンとクマ吉達の店に近寄る。もちろん、男どもは蝶姫と大姉の二大美女の容姿に釘付けとなるのは…書くまでもない。



豊は、ふと思い出した。「コパン達で、木簡もっかん竹簡ちくかんを作れないか?」と。もうろうとしていた時に姉が竹簡に目を通す姿をうっすらと見て、そして思いついた案があった事を、いま思い出したのであった。


それをコパン達に尋ねてみると、どうやら「やってみるよ~」、「たぶん簡単に作れるよ~」と答えてくれたように感じた。豊は蝶姫の胸元から降りて、地面にしゃがみ込み。三人はまゆを合わせて、何やらアレやコレやと身振り手振りを交えて話し込む。



その様子を見ていた蝶姫が、

蝶姫「パンダ族とクマ族…、そしてヒト族。ああやって、仲良く共存出来るものなのね。ステキだわ」

と、大姉に話しかける。


大姉「えぇ、本当に素敵ね。普通ではあり得ない事を、あの子はやってのけるの。不思議な子」


蝶姫「ほんと。あのかたは、不思議なお方…。興味深いわぁ…。もっと知りたい…」


大姉「ふふふ。蝶、あなたも?」


蝶姫「??」


大姉「いいえ、なんでもないわ。この平和な世の中がいつまでも続くといいわね」


蝶姫は、首を縦に振る。



買物をしすぎた蝶姫と大姉…。大姉は北門の門番に「荷物を持ち帰る為に、宮中の女中5名をこの北門まで受け取りに来るよう」伝える。門番はすぐに別の警備兵に役を代わってもらい、馬で王宮へ向かった。



蝶姫はついついハチミツに釣られて豊から離れている今の現状に「はっ」と気づき、すぐに豊の元に駆け寄る。パンダ・クマ・ヒト会議はもう話がまとまっていたようだったので、その愛しきヒトの子に声をかけてから、手元に抱き寄せ、抱き上げる。



しばらくして…、ふと、豊は嫌な雰囲気を感じた。そして、ブロンは「ヒヒ~ン」と鳴く。


北門に向かって左手ではいつもどおりコパンやクマ吉達の出店がいくつか並んで賑わっている。問題はその反対側である。京北関同様に、この北門でも入国手続きや荷物の再検査がある。その順番待ちをする商隊がいつも門の右側に大勢止まっているのだが、今日はやたらと大柄の男性が多い。しかも殺気立っているように豊は感じた。


蝶姫に耳打ちし、大姉の元に行く。


豊「姉上っ。あそこで休んでいる商隊の様子がおかしいです。大柄の男性ばかり30名ほど。しかも身体中にキズや火傷やけどあとがたくさんある。商人らしくない顔付き。荷台が重いのか、荷台を引く馬は3頭ずつ。きっと荷台にはたくさんの重たい武器が…。もしかしたら人も潜んでいるかも…」


大姉「わかったわ。門番に伝えるわね。でも、人々に悪さをするようならば、先にお姉ちゃんがこらしめちゃうからね」


豊は、首を縦にふる。


大姉は門番にこの事を伝え、警備兵が徐々に集まってくる。


その様子を見ていた、コパンとクマ吉は「ミャーっ、ミャー」、「ニャー、ニャー」と鳴く。



大柄の男達は、例の『黄色い頭巾』を頭に着け始めた。そして、荷台から武器を取り出し、その荷台からもっと大柄な男達が出てきた。平和な街が一変、急に物騒な雰囲気となった。そして、ノアールも「ヒヒ~ン」と鳴く。


豊「あっ!あの『黄色い頭巾』!黄巾賊だ!」


大姉「みな、門の中へ!または私たちの後ろへ下がりなさい!」

と、姉の声が響き渡る。



そして、その容姿からは想像できないほど意外に豪胆ごうたんな姉は、その黄巾賊の男どもの前に立ちはだかった。


大姉「私の国で悪さをしようだなんて…。どんでもない人たちね!今すぐ武器を捨てて降参するのであれば、この場ではその命を保証するわ。ただし、捕縛し、帝都へ送るのだけれども…」


黄巾賊「おいおい、お嬢ちゃん。オレら男50人を一人で相手にするんか?それに、お嬢ちゃん、べっぴんさんだから、高値で売れるな~。まさに、『高値たかねの花』だ!わっはっは」


そこへ、蝶姫と豊も駆け付け、

豊「おじさん、それを言うのであれば、『高嶺たかねの花』だよ。高嶺だよ!」

と、間違いを訂正する。


蝶姫は、クスっと笑う。


黄巾賊「ん?なんだ親子か?いや、母子にしてはが。じゃあ、姉弟ってあたりか…。」


大姉「…」


蝶姫は大変複雑な心境であった。「…」を改めて認識したからである。



黄巾賊「まあいいぜ。今日はさっそくついている。ベッピンさんふたりに、クソガキひとり。身なりも容姿も良いから、高嶺で売れるなぁ~」


豊「…。そこは、『高値』の方ね…」


黄巾賊「ちっ、いちいちうっせーガキだ。とっとと捕まえてやっからよ。そんで、街でひと暴れしようぜ!ここは辺境だが、帝国でも一位二位を争うほどに資源と金があり、帝国一の美女だらけの国だっていう噂だぜ。こうして既に二人も美女がいやがる。幸先さいさきがいいぜ。しかも、ここを管轄する“同業者”もいねぇから、やりたい放題だ!ははっ、文字通り、美女とも“やりたい放題”。抱き放題だ。わははははっ。酒池肉林じゃねぇか?」


豊は頭にきて今すぐにでも斬りかかりたかったが、その“身体”な上、帯剣していなかったので、大変悔しがった。その様子を察した蝶姫は、豊をギューっと抱く。代わりに大姉は帯剣していたので、このタイミングでその剣を抜く。


その50人の男達のうち、数名が大姉に向かって、槍だの大剣だの矛だのを振り回し、斬りかかる。大姉は、一人ずつ華麗に交わしては、その相手を斬り、次の相手も斬る。


そこへやっと警備隊が10名ほど駆け付け、交戦する。


黄巾賊「オレら猛者もさを相手に10人だけかよ。ものたりねーな」


そう言った一際ひときわ大きな男は、その10人を一振りで一気に弾き飛ばした。そして、大姉に襲い掛かろうとした時に、大姉の後ろに巨大な影が5つ現れた。そう、コパンとクマ吉が鳴いて知らせ、それを聞いて駆け付けたクマの警備隊。別名クマクマ警備隊である。


その巨体なクマは鎧を装備し、しかも鉄の槍を持っており、黄巾賊の男どもはひるんだ。


黄巾賊「ええい。弓はどこだ。離れたところから弓で射れば倒せる」



すると、聞き覚えのある“神”の声がする。


益徳えきとく「よお、あんちゃん。その弓って、こいつの事かい?」

と言い、30本ほど束になっていた弓矢をバキンっと素手で折り、投げ捨てる。


賊どもは、「ぎょぎょ」っとする。


黄巾賊「落ち着け。順番にやっつけろ。クマは後回しだ。この酔っ払いから倒せ」


益徳は、持っていた蛇矛じゃほこを頭の上でぶんぶんと軽々と回してから、襲い掛かってきた賊5~6人を一度で倒す。



黄巾賊「迷うな!こっちは50人だ!圧倒的に数が違う!かかれー」


すると今度は別の人影が現れ、彼の青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうが暴れる。


雲長うんちょう「せっかく義兄弟きょうだいで仲良く飲んでいたのに。しらけるわい」


玄徳げんとく「まあ、そう言うではない。黄巾賊討伐は我々の使命。さあ、行くぞ、雲長、翼徳!」


雲長「はっ、兄者!」

益徳「おうよっ!兄者!」


気迫こもった声が北門一帯に響き渡る。


そして一瞬でカタがついた。



あの一際ひときわ大きな男も、益徳の一撃でいとも簡単に地に沈んだのを見た豊は、興奮した。



あとから増援でかけつけた警備兵が、その賊を拘束したりするなど、あとの処理を行い始めた。



益徳「ふぅ。酔いもさめたわい」


豊「“お酒の神様”、こんにちは」


益徳「おうっ。あん時の小僧じゃねぇか。どうしてここに?」


雲長「やはりまた再会できたか、少年よ。そして益徳、相変わらず頭が弱いんじゃの。あのお嬢さんが『京国の…』って、あの時に話してくれたではないか?ここは、この少年たちの住む国じゃ」


玄徳「元気そうだな、少年。よかった」



居合わせた大姉や蝶姫も、助けてくれた“三人の神様”に感謝の礼をする。


玄徳たち三人も、挨拶の礼をした。



大姉「もしよろしかったら、わたくしどもの屋敷で再会をしゅくして一献いっこんいかがでしょう?」


益徳「おぉ、そいつあ~、ありがて~、ぜひ」


雲長「こら、それは兄者が決める事だ」


益徳「ちっ」


玄徳「うれしいお誘い、かたじけない。ただ、我々は次に向かうところがあるゆえ、今日は失礼いたす。それにしても、京国はとても良い場所であるな。こういう国を私は築いていきたい。参考になった」


そう言って、お互いに礼をし、“三人の神様”は京北関へと馬を走らせ、どこかへと向かった。



豊「ねぇ、姉上。あの三人って絶対に神様だよね?」


大姉「ふふ。そうかもしれませんね」


蝶姫も首を縦にふる。



このあと、コパンとクマ吉が心配して豊の元に駆け寄ってきた。そして少しの間、また三人でじゃれ合って遊ぶのであった。


京国は今日も平和となった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る