第34話:目覚め、回復傾向?

ある朝、蓮月殿レンゲツデンの桜は、春のあたたかい風にお願いをして、その花びらを蝶姫チョウキホウに届ける。


蝶姫は再び「きゃはっ」と少女のように喜ぶ。


その声を聞いて、豊はゆっくりと目を開ける。



豊「!?ちょう…。蝶のおねーちゃん!?」


蝶姫「ただいま、あなた」


豊「おかえり。…。あれ?結構ボク眠っていたのかな?」


蝶姫「えぇ、ぐっすりと眠っていらしたわ。ふふ」



その蝶姫のあたたかい声と雰囲気を、肌でも感じ取る豊。



豊「よかった…。無事に帰って来てくれたんだ…」

と、少し涙目になる幼い少年。


その頭をなでてあげる蝶姫。



豊「あれ?姉上も寝てる!?」


大姉ダイシは、椅子に腰をかけたまま、寝台に上半身を預けて、眠っていた。


蝶姫「そうよ、京香ケイカもあなたのそばから離れなかったわ。ずーっと心配してたの。今は休ませてあげましょうね」


豊「うん。…。蝶のおねーちゃんにお願いがあるんだけど…」


蝶姫「なぁに?」


豊「誰か呼んでもらっていいかな?姉上の背中に布団をかけてあげたいんだ」


蝶姫「まぁ、お優しい…」



蝶姫が、左の手のひらを広げると、紫色のあでやかな蝶が現れた。


蝶姫「まゆ、すぐ来て」

と蝶に向かって話すと、その蝶は一瞬で消えた。



すると突然、ビューっと突風が吹いて、まゆが蓮月殿に入って来た。



豊「!?!?」


まゆ「お嬢さま、お呼びでしょうか?」


蝶姫「まゆ、京香に布団をかけてあげて。あそこに予備の布団があるの。あそこから…」


まゆ「はい」


まゆは、布団を大姉(京香)にそっとかけてあげる。そして、蝶姫が「もう下がってよい」と言うと、再びどこからともなく吹く風と共にその場を去った。



豊は、目の前で起こった出来事にビックリしたが、「あぁ、これはボクの体調が整っていないから、そのように見えるんだ…。幻覚みたいなものなのかな…」と思った。



少ししてから、

豊「蝶のおねーちゃん、ありがとうね」

と、姉に布団をかけてもらった事に感謝した。


蝶姫「ふふ」



そしてふと、豊は自分自身が大分回復している事に気づく。


豊「あれ?あれれ?なんか…、結構、いい感じ!?」


蝶は、首を縦に振る。


豊「帰ってきた時は、全身痛くって、ほとんど動かせなくって、右腕が少し動く程度だったけれど…。あれ?あれれ?なんか、ボク、歩けるかも…」

と言い、蝶姫の胸元から離れで、自分で歩いてみようとする。


蝶姫「だぁめ。おねーさんから逃げちゃダメ」

と、豊を引き留めては、耳元でささやく。


豊は一瞬で顔を赤くする。


蝶姫「まだあなたの体調は良くはないの。だから、ちゃんとおねーさんの言う事を聞きなさい」

と、再び甘く、そしてオトナなお姉さんを演じてみせる。


こういう展開に慣れていない小さきオトコは、全く動けなくなり、そして、ぬいぐるみか、あるいはあやつり人形になったかのように、その妖艶なお姉さんに懐柔かいじゅうされる。むしろ心身ともに籠絡ろうらくされたと言うべきか…。簡単にお姉さんの手に落ちた。


そして、蝶姫のそのあたたかい胸元で、ふたたびゆっくりと眠りにつく豊であった。



事実、長い間歩いていない少年の筋力はほとんど落ちており、もし無理に歩こうとしたのであれば、すぐに体勢を崩して転び、骨を折るなどの大怪我をする危険があった。


それを見越しての蝶姫の言動だったのか…。それとも、ただ単に豊をもっと独り占めしたかったのか…。誰も分からなかった。本人でさえも…、その時はまだ。



その日も“三人の神様”は、京ノ都ケイのみやこで宴を開いていた。







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