第33話:仙女降臨・蝶のように舞い降りた姫

姉・大姉ダイシ京香ケイカ)は三日三晩、文字通り“肌身離さず”、弟・ホウの看病をした。


未央ミオ(みおみお)の来訪以降、弟の容体は悪化していないが、目で分かる改善もしてはいない。


そして、二人は4日目の朝を京香殿ケイカデンで迎えた。



その日の朝は、生憎あいにくな空模様で、太陽は顔を出さなかった。朝なのに、空は薄暗い。春なのに、空気は肌寒かった。姉は弟の身体を冷やさないように、体勢を少し整えて、抱き続ける。



街の人々も、「今日はこの天気か~。いやー、残念っ。花見を十分に楽しめんな~」と各々残念がる。



その空は、さらに暗くなり、まるで夜の様に真っ暗になった。その異様な光景に、街の人々は空を見上げては、恐怖を覚える。そして、大姉も天の異変に気付き、寝室の窓から外を見上げる。


すると、ひとすじの光が天から地を射した。ちょうど、蓮月殿レンゲツデンの前庭辺りを神々こうごうしく照らしていた。やがて、天から何やら舞い降りてくる“者”がいた。まるで、神秘なる蝶が舞を踊るかのように、その姫が降りて来たのであった。


街の人々はそれを見て、「女神様が宮殿に舞い降りたぞ」、「いやあれは天女様に違いない」などとそれぞれ口々に言う。


そして、一人の老人が「あれはまさしく『仙女降臨』じゃな」と言い切ると、街の人々は光の方をおがむのであった。



大姉は、それが蝶姫チョウキだと気付き、弟を大事に抱きかかえて、蓮月殿へ向かう。



蝶の姫は、地にゆっくりと、あでやかに満ちたその素足を着いた。



蝶姫「おまたせ。ただいま」


とてもご機嫌な様子であった。


大姉「蝶、おかえりなさい。今のは…?」

と、尋ねてみる。


蝶姫「ふふっ。演出よっ。演出。“実家”で、ヒトについて少し学ばせてもらったわ。こういう神がかった演出が好きだと文献ぶんけんにあったから…。やってみたの」


大姉は、蝶姫のその話し方から、蝶姫は我々“ヒト”に興味を持ち、色々と知ろうとしているのだなと、感じ取った。


蝶姫「あのかたのご容体は?」


大姉「この状態なの。未央さまがいらしてからは、悪くはなってはいないの。でも、起きないの…」


心配そうに話す弟の姉に、

蝶姫「大丈夫。ここからは私に任せて」

と、気遣う。


蝶姫は、よく“ヒト”がする一礼を大姉にして、その愛おしい小さなヒトの子を抱き受ける。



蝶姫「あなた、帰ってきましたよ」



本当は思いっきりギューっと抱きしめたかった蝶姫であったが、今はやさしく抱き寄せるだけで我慢をした。…かなり我慢した…。



蝶姫「京香、あなたも少し休んだ方がいいわ」


大姉「えぇ。そうね」


蝶姫「ちょうど“実家”で、京香の為に作って持って来たの、良薬を」


大姉は一瞬、連日悩まされた“あの薬”を思い出した。


蝶姫「ふふふ。大丈夫。アレみたいに酷いものではないわ」


大姉は、首を縦に振る。



蓮月殿の寝室に3人入る。蝶姫は、寝台で大切なヒトの子をやさしく抱いて包んであげた。大姉は、寝台の横の椅子に座り、女中じょちゅう愛奈アイナを呼び、お湯と水、そして朝食の準備をお願いした。



空はいつの間にか晴天になっており、街の人々は「今日も花見が出来るぞ~」と喜ぶ。


たまたま京国ケイコクを訪れていたあの“三人の神様たち”は、「桃も良いが、桜も良い!雲長っ、益徳っ、ここで我ら義兄弟の契りを改めて誓おうぞ!」と声を高々とはっし、朝から酒盛りをした。その威勢の良い声に続いて、街の人々も平和な京国の春を祝おうと、朝から酒や茶などの嗜好品しこうひんを楽しんだ。



豊はまだ気づいていなかった、大好きな蝶のおねーちゃんが帰ってきた事を。



蓮月殿の桜も、元気に咲いている。


しかし、鳥たちはその花をツンツンとクチバシで突っつきイタズラをする。





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