第31話:初代国王と王妃の出会い

夜桜が美しいある満月の晩。


姉の大姉ダイシは、弟のホウと一緒にその満月の夜空を見上げていた。


蝶姫チョウキは、“実家”に帰っていた為、大姉は久しぶりに弟と一緒に寝れるので、ルンルンとご機嫌だった。



大姉「もうおねーちゃんと寝る?それとも、お話をする?それとも、おねーちゃんがキミの事を色々と…ふふふっ」


豊「…。」


大姉「もうっ、頭の中、蝶のお姉さんの事でいっぱいなんでしょう?」


豊は、首を縦に振る。


大姉「しょうがないなぁ~、もう。おねーちゃんが忘れさせてあげよっか?」

と、急にオトナな雰囲気を出してくる姉。


弟は、思わず首を縦に振る。


大姉が、「じゃあ、おねーちゃんがキミをじ~っくりと、たべ…」と話したところで、弟が姉の話に割り込む。



豊「母上と父上の昔話を聞きたい…」



大姉「…。そうね…。そうよね…。たまにはそういう話もいいわよね」



春の冷たい夜風が通りかかった。



大姉「もうだいぶ肌寒くなってきたから、寝台に行きましょう」

と言い、小さな弟を抱きかかえて寝室に入る。


大姉「じゃあ、今日は、『お父様とお母様の出会い』について、お話ししてあげるわね。いわゆる、めよね。うふっ。な・れ・そ・め~」


豊は、首を縦に振る。


姉は弟をやさしく包み込み、寝かしつける子守唄こもりうたのように、父と母の話を始めた。




=====


二十年ほど前の事であったか…、京国ケイコク建国前の話である。


京ノ都ケイのみやこの場所には、複数の小さな集落が点在していた。姉弟きょうだいの父である民民タミタミは、そのうちの1つの集落のおさであった。身分が低かった為、苗字みょうじは無かった。


民民は、若い頃から武芸に秀でており、大変勇猛果敢ゆうもうかかんであった。やや猪突猛進ちょとつもうしんな一面もあったが、実はその思いっきりの良さを周りの人々は評価していた。


周辺の集落でいざこざや内乱があれば、仲間を連れてそれを収めに行くのであった。その結果、それをキッカケにその集落と友好的な交流を結んだり、人々から信頼を得たり、時にはその集落そのものを託されたりして、民民の勢力と影響力は徐々に大きくなっていった。そして、辺り一帯は民民による統制で平和が続くようになった。それぞれの集落の人々はその平和に喜び、土地の開拓や、農地の開墾にいそしんだ。


帝都・らくから離れた南の土地で、けわしい山々に囲まれたその辺境の地は、周辺の王国の目には留まらず、土地を増やしたい地方豪族達ですら、興味を持たなかったのだ。そんな土地で、民民たちは自分たちがより生活しやすくなるように、皆をよくまとめていっていたのだった。


そんな民民は、狩りが好きであった。時間が余ると、良い狩場を求めて、よく遠方まで仲間数名を率いて馬を飛ばしていた。これは、食料調達の為でもあり、またその野生の鳥獣から得られる羽、皮、角、牙などを行商役に渡し、近隣諸国で売ってもらい、代わりに通貨や食料、珍しい品々を持ち帰っていたのであった。



ある日、民民は西南方面へ馬を走らせる。見慣れた狩場では飽き足らず、さらに奥へと仲間と一緒に進んでいった。そして、美しい竹林が広がる場所で馬を休ませ、自分たちも休憩を取った。


すると、そこへ矢が数本飛んできた。


飛んできた方向を見ると、年若き娘が白馬に乗り、弓を左肩に掛け戻し、今度は背中にあった薙刀を右手で持ち、民民たちが休憩してる場に単騎ですごい勢いで乗り込んで来た。


焦った狩りの仲間達は、それぞれ槍や剣を手に持ち、その娘にその刃を向けるが、男の力をしのぐ腕前で次々と男達の武器を弾き飛ばした。



民民「やるな。何者だ?」


娘「それはこちらのセリフよ。あなた達、何者なの?」


その娘は今にも民民にも襲い掛かる体勢だった為、民民は馬に乗り、槍を握りしめた。



民民「オンナを相手にする程、オレはダメなオトコじゃない。まずは冷静に話し合いを…」


話しの途中にも関わらず、娘は薙刀を民民に向かって容赦なく振るう。


民民は槍でその薙刀を払いのけようとするが、その娘の見た目からは想像ができない程の重たい一撃に、馬ごとよろける。



娘「あなたっ!『冷静に話し合いを…』っていうけれど、どっちかと言うと“剣を交えて語り合う”タイプよね?なら、話が早いわっ。せいやっ、とぅ」

と、再び薙刀を振る。


民民も槍で応戦する。



槍と薙刀がぶつかる音が竹林一帯に幾度となく響き渡る。



気づいたら、太陽が沈みかけており、馬は疲弊していた。そして、いつの間にか相手の体力をお互いに気遣うようになっていた。


互いにその心中を察したようで、民民は槍を突く代わりに、ふところに入れていたお菓子を娘に向かって投げた。娘はそれを受け取り、そして水が入った竹筒を取り出してひと口飲んでから、民民に投げ渡す。


民民「なかなかやるな。しかし、馬がもう疲弊してしまっている。今日はここまでにしよう。オレは民民タミタミ。ここから北東の地から来た」


娘「あなたもなかなかね。私は政華セイカ。この辺り一帯を治めている一族の娘。馬が疲弊しているですって?疲弊しているのは、あなたではなくって?」



民民「もう暗くなる。家まで送ろう」


政華「…。バ、バカね。ついさっきまで矛を交えていたのよ!」


民民「オレの事を信頼できないのか?」


政華「…。もう、いいわ。知らないっ!」

と言い、白馬の娘はどこかへ走り去ってしまった。



民民「…。」


政華「…。やるじゃない…」



次の日、民民はひとりで、きのう政華と刃を交えた場所まで、遠路遥々えんろはるばるやってきた。心の中でまた政華に会いたいと思って来たのであった。すると、少し遅れて政華が白馬に乗って現れる。政華もまた同じ思いであった。ふたりは昨日の武芸について、日が暮れるまで語り合った。


政華「あれは、私が手加減をしたから、あなたは今こうして無事なのですからねっ!」

民民「ハハハっ。そうだな、そうだなっ。ハハハっ」

と言い合った日もあれば、


政華「あなた、あの時、手加減していたでしょう?そして、疲れてきた私を気遣って、止めたのよね?」

民民「いやいや、本気だったさ。お前が強すぎるんだよ。それに馬が疲れていたからなー。ハハハっ」

とも言い合う日もあった。


別の日には、

政華「あなた、私と手合わせをしている時、途中からもう私の事、好きになっていたでしょう?」

民民「バ、バカな事をいうな。オレは・・・」

と、大の男は顔を真っ赤にした。


政華「それにしても、あのお菓子・・・。とっても不味まずかったわ。あははっ。今度、私が作ってあげる!ふふ」

民民「おう。頼む。…。実はアレはオレが作ったんだ…」

政華「あははっ、あなたって不器用ね」

民民「オトコが作れるだけ、すごくないか?」

政華「はいはい。そうですね~。あはははっ」


そういった日が何日か続いた。



そしてある日、政華は、政華の父宛てに置手紙を残し、弓と薙刀、そして腰刀を持ち白馬に乗り、家を出た。そう、民民の妻になると決めたのであった。


政華の父はその手紙を読んで驚き、連れ戻す為、政華の姉にあとを追わせた。


しかし、政華の意志は固く、また民民との仲が大変良かった為、姉は妹を無理に連れ帰らず、姉自身も民民の土地にしばらく留まり、静観する事にした。そして、何かあれば、妹を連れて帰るつもりでいた。


集落の人々達からは、「あの民民さまに奥方が出来た」と祝いの声が上がり、また近隣の集落の人々達からも盛大に祝ってもらった。


その何とも言えない一体感を味わった民民は、

民民「政華よ。一緒に国を作ろう!そうだな、京国ケイコクだ!いつかここが“みやこ”となり“国”の中心となるように!京国だ!そして、この集落群をまとめて京ノ都ケイのみやことしよう!みやこの中のみやこだ!ハハハっ」

と、政華に、そして人々に宣言したのであった。


政華も、そして周辺集落の人々も民民に賛同し、国と成ったのであった。


民民は、初代京国国王に。政華は、初代京国王妃として、この二人を中心に、皆が互いに協力しあう国家という集合体が形成されていった。



=====




大姉「今日はここまで。おしまい、おしまい」


豊「ありがとう、姉上。ところで、母上と父上は、いったいどちらが強かったの?」


大姉「お父様も、お母様も、どちらもお強かったわよ。甲乙こうおつつけがたいわね。お父様は槍の使い手。お母様は弓と薙刀が得意。特に、弓に関しては右に出る者はいなかった。だって、あの時放った矢は、その場にいた狩り仲間の右足のすぐ近くの地面に正確に落ちたんですもの。その気になれば、みんなの心臓をそれぞれ貫く事なんて容易だったと思うわよ」


豊「そうなんだぁ~」


大姉「そしてぇ~、おねーちゃんが思うに、あの初日の手合わせの時に、刃を交えながら、既に二人とも恋に落ちていたんじゃないかしら~?って思うの。」


豊「そういうものなの!?だって一騎打ちをしている時だよ!?命をかけている時だよ」


大姉「ふふ。そういうモノよ。この乱世の・・・、戦国の世では…。それはそうと、私がお父様の槍を受け継ぎ、香織がお母様の弓と薙刀を受け継いだの。そして、腰刀は・・・」


豊「ちょっと待って!弓と薙刀!?もしかして、それって例のパンダ・クマ案件で香織ねーちゃんが持っていた、あの弓と薙刀?」


大姉「えぇ、そうよ」


豊「そうだったのか~。気合入っていたもんな~、香織ねーちゃん。あれ?でも、姉上が槍を受け継いだっていうけど、姉上は温厚だから、さすがに武芸は・・・」


大姉「あらあら…?ひょっとして、おねーちゃんの事、弱いと思っているの?ふふふっ。いつでもあなたの相手になってあげるわよ。おねーちゃん、実は強いんだから~。ふふん」


豊「えぇ~、信じられない~」



そんなやり取りをしていたが、急に

豊「母上に会いたい…。父上はどこに行ったの?」

と、泣き始めた。


まだまだ小さく幼いこの少年にとって、母が居なく、父も居ないという環境はさすがにこくであると言えよう。


親に十分に甘える事が出来なかったその小さな弟を、姉は優しく、そして温かく抱きしめてあげるのであった。



満月はそんな二人の姉弟きょうだいをあたたかく見守るのであった。





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