第31話:初代国王と王妃の出会い
夜桜が美しいある満月の晩。
姉の
大姉「もうおねーちゃんと寝る?それとも、お話をする?それとも、おねーちゃんがキミの事を色々と…ふふふっ」
豊「…。」
大姉「もうっ、頭の中、蝶のお姉さんの事でいっぱいなんでしょう?」
豊は、首を縦に振る。
大姉「しょうがないなぁ~、もう。おねーちゃんが忘れさせてあげよっか?」
と、急にオトナな雰囲気を出してくる姉。
弟は、思わず首を縦に振る。
大姉が、「じゃあ、おねーちゃんがキミをじ~っくりと、たべ…」と話したところで、弟が姉の話に割り込む。
豊「母上と父上の昔話を聞きたい…」
大姉「…。そうね…。そうよね…。たまにはそういう話もいいわよね」
春の冷たい夜風が通りかかった。
大姉「もうだいぶ肌寒くなってきたから、寝台に行きましょう」
と言い、小さな弟を抱きかかえて寝室に入る。
大姉「じゃあ、今日は、『お父様とお母様の出会い』について、お話ししてあげるわね。いわゆる、
豊は、首を縦に振る。
姉は弟をやさしく包み込み、寝かしつける
=====
二十年ほど前の事であったか…、
民民は、若い頃から武芸に秀でており、大変
周辺の集落でいざこざや内乱があれば、仲間を連れてそれを収めに行くのであった。その結果、それをキッカケにその集落と友好的な交流を結んだり、人々から信頼を得たり、時にはその集落そのものを託されたりして、民民の勢力と影響力は徐々に大きくなっていった。そして、辺り一帯は民民による統制で平和が続くようになった。それぞれの集落の人々はその平和に喜び、土地の開拓や、農地の開墾に
帝都・
そんな民民は、狩りが好きであった。時間が余ると、良い狩場を求めて、よく遠方まで仲間数名を率いて馬を飛ばしていた。これは、食料調達の為でもあり、またその野生の鳥獣から得られる羽、皮、角、牙などを行商役に渡し、近隣諸国で売ってもらい、代わりに通貨や食料、珍しい品々を持ち帰っていたのであった。
ある日、民民は西南方面へ馬を走らせる。見慣れた狩場では飽き足らず、さらに奥へと仲間と一緒に進んでいった。そして、美しい竹林が広がる場所で馬を休ませ、自分たちも休憩を取った。
すると、そこへ矢が数本飛んできた。
飛んできた方向を見ると、年若き娘が白馬に乗り、弓を左肩に掛け戻し、今度は背中にあった薙刀を右手で持ち、民民たちが休憩してる場に単騎ですごい勢いで乗り込んで来た。
焦った狩りの仲間達は、それぞれ槍や剣を手に持ち、その娘にその刃を向けるが、男の力を
民民「やるな。何者だ?」
娘「それはこちらのセリフよ。あなた達、何者なの?」
その娘は今にも民民にも襲い掛かる体勢だった為、民民は馬に乗り、槍を握りしめた。
民民「オンナを相手にする程、オレはダメなオトコじゃない。まずは冷静に話し合いを…」
話しの途中にも関わらず、娘は薙刀を民民に向かって容赦なく振るう。
民民は槍でその薙刀を払いのけようとするが、その娘の見た目からは想像ができない程の重たい一撃に、馬ごとよろける。
娘「あなたっ!『冷静に話し合いを…』っていうけれど、どっちかと言うと“剣を交えて語り合う”タイプよね?なら、話が早いわっ。せいやっ、とぅ」
と、再び薙刀を振る。
民民も槍で応戦する。
槍と薙刀がぶつかる音が竹林一帯に幾度となく響き渡る。
気づいたら、太陽が沈みかけており、馬は疲弊していた。そして、いつの間にか相手の体力をお互いに気遣うようになっていた。
互いにその心中を察したようで、民民は槍を突く代わりに、
民民「なかなかやるな。しかし、馬がもう疲弊してしまっている。今日はここまでにしよう。オレは
娘「あなたもなかなかね。私は
民民「もう暗くなる。家まで送ろう」
政華「…。バ、バカね。ついさっきまで矛を交えていたのよ!」
民民「オレの事を信頼できないのか?」
政華「…。もう、いいわ。知らないっ!」
と言い、白馬の娘はどこかへ走り去ってしまった。
民民「…。」
政華「…。やるじゃない…」
次の日、民民はひとりで、きのう政華と刃を交えた場所まで、
政華「あれは、私が手加減をしたから、あなたは今こうして無事なのですからねっ!」
民民「ハハハっ。そうだな、そうだなっ。ハハハっ」
と言い合った日もあれば、
政華「あなた、あの時、手加減していたでしょう?そして、疲れてきた私を気遣って、止めたのよね?」
民民「いやいや、本気だったさ。お前が強すぎるんだよ。それに馬が疲れていたからなー。ハハハっ」
とも言い合う日もあった。
別の日には、
政華「あなた、私と手合わせをしている時、途中からもう私の事、好きになっていたでしょう?」
民民「バ、バカな事をいうな。オレは・・・」
と、大の男は顔を真っ赤にした。
政華「それにしても、あのお菓子・・・。とっても
民民「おう。頼む。…。実はアレはオレが作ったんだ…」
政華「あははっ、あなたって不器用ね」
民民「オトコが作れるだけ、すごくないか?」
政華「はいはい。そうですね~。あはははっ」
そういった日が何日か続いた。
そしてある日、政華は、政華の父宛てに置手紙を残し、弓と薙刀、そして腰刀を持ち白馬に乗り、家を出た。そう、民民の妻になると決めたのであった。
政華の父はその手紙を読んで驚き、連れ戻す為、政華の姉にあとを追わせた。
しかし、政華の意志は固く、また民民との仲が大変良かった為、姉は妹を無理に連れ帰らず、姉自身も民民の土地にしばらく留まり、静観する事にした。そして、何かあれば、妹を連れて帰るつもりでいた。
集落の人々達からは、「あの民民さまに奥方が出来た」と祝いの声が上がり、また近隣の集落の人々達からも盛大に祝ってもらった。
その何とも言えない一体感を味わった民民は、
民民「政華よ。一緒に国を作ろう!そうだな、
と、政華に、そして人々に宣言したのであった。
政華も、そして周辺集落の人々も民民に賛同し、国と成ったのであった。
民民は、初代京国国王に。政華は、初代京国王妃として、この二人を中心に、皆が互いに協力しあう国家という集合体が形成されていった。
=====
大姉「今日はここまで。おしまい、おしまい」
豊「ありがとう、姉上。ところで、母上と父上は、いったいどちらが強かったの?」
大姉「お父様も、お母様も、どちらもお強かったわよ。
豊「そうなんだぁ~」
大姉「そしてぇ~、おねーちゃんが思うに、あの初日の手合わせの時に、刃を交えながら、既に二人とも恋に落ちていたんじゃないかしら~?って思うの。」
豊「そういうものなの!?だって一騎打ちをしている時だよ!?命をかけている時だよ」
大姉「ふふ。そういうモノよ。この乱世の・・・、戦国の世では…。それはそうと、私がお父様の槍を受け継ぎ、香織がお母様の弓と薙刀を受け継いだの。そして、腰刀は・・・」
豊「ちょっと待って!弓と薙刀!?もしかして、それって例のパンダ・クマ案件で香織ねーちゃんが持っていた、あの弓と薙刀?」
大姉「えぇ、そうよ」
豊「そうだったのか~。気合入っていたもんな~、香織ねーちゃん。あれ?でも、姉上が槍を受け継いだっていうけど、姉上は温厚だから、さすがに武芸は・・・」
大姉「あらあら…?ひょっとして、おねーちゃんの事、弱いと思っているの?ふふふっ。いつでもあなたの相手になってあげるわよ。おねーちゃん、実は強いんだから~。ふふん」
豊「えぇ~、信じられない~」
そんなやり取りをしていたが、急に
豊「母上に会いたい…。父上はどこに行ったの?」
と、泣き始めた。
まだまだ小さく幼いこの少年にとって、母が居なく、父も居ないという環境はさすがに
親に十分に甘える事が出来なかったその小さな弟を、姉は優しく、そして温かく抱きしめてあげるのであった。
満月はそんな二人の
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