第28話:華の都・京ノ都

馬車はいよいよ北門を通り、京ノ都ケイのみやこの街へと入る。



すると、蝶姫チョウキは少女のように目を輝かせて馬車から身を乗り出す。


蝶姫「わぁ。ステキっ」



道の両脇には桜の花が満開で蝶姫たちを出迎えるのであった。春のあたたかい風は、桜の花びらをその“可憐な少女”の手のひらに届ける。


蝶姫「きゃはっ」


再び少女のように無邪気にはしゃぐ蝶姫。



蝶姫「このお花は、なぁに?何の木?」


豊「これは桜。桜の木。ピンクの花でキレイだよね」


蝶姫「えぇ。まるで・・・。そう、まるで・・・、楽園だわ…」



豊「この桜はねぇ~、東の海の向こうにある島国から送ってもらったんだよ」


蝶姫「遠くから送ってもらったの?」


豊「うん。ヒミタンというキレイなおねーさんが、定期的に色々と贈り物をしてくれるんだ。こちらからはハチミツとか生薬しょうやくを送っているんだ」


蝶姫「ヒミタン?」


豊「そう。ヒミタン。占いが得意で、困った時に、亀の甲羅や、動物の骨を使って、物事の良し悪しを判断するんだって。なんか凄いよね?ボクらが星を見るのと似てるかもだけど・・・。って、ボクはまだ星を見る事はできないんだけどね…てへっ」


蝶姫「…」


小姉ショウシ「こらっ、豊っ!卑弥呼ひみこ様に失礼でしょう!ヒミタンだなんて…」


豊「いいじゃん。仲良しさんになったんだもん」



通りの左右には店が並び、帝都・らくに負けないくらいに活気づいている。



蝶姫「あなたは、この街に住んでいるのよね?」


豊「うん。気に入ってくれた?」


蝶姫は、再び窓の外の桜の景色を見て言う。


蝶姫「とても気に入ったわ。ステキだわ」



豊「おウチはもう正面」


蝶姫「…あれ?」


豊は、首を縦に振る。



馬車は正面に見える立派な門を通り過ぎる。


門番達「大姉ダイシ様、お帰りなさいませ!皆さま、お帰りなさいませ!」



そして、

豊「蝶のおねーちゃん。ようこそ、京国ケイコクへ!」

と、抱いてくれている蝶姫の顔を下から見上げる。


豊「ここは王宮。京国の王宮だよ」


蝶姫「…」



一行いっこうは、後宮こうきゅうへと向かう。



大姉「ちょうの寝床はどこにしましょう?同じ後宮内がいいわよね?」


豊「姉上っ、蓮月殿レンゲツデンにしようよ!」


小姉(律香)「もう豊ったら!そこは、あなたが王位を継いだ際に、執務を兼ねて生活する大事な宮殿なのよ!それを…」


豊「律香お姉ちゃん!・・・!なんだよっ。それに、お部屋の正面にお庭があり、その先には湖が広がっている。絶景だもん。きっと気に入ってもらえると思う」


大姉「あなたがそれで良いのであれば、そうしましょう」


小姉「姉上ったら…。もう、弟に甘いんですから…」



香織カオリ「で、弟くん。今夜は“どの”おねーちゃんと寝るんだぃ?」


その幼き小さな弟は顔を真っ赤にした。


大姉「あらあら、残念。おねーちゃんとじゃないのね。香織っ、あなたも残念ねっ。新たなるライバル登場って感じよ。ふふふっ」


蝶姫「…」



こうして、蓮月殿に入る蝶姫と豊。



月が二人を明るく照らす。


蝶姫は振り返ってその月を見る。すると、どこからともなく雲が出て来て、月は顔を隠してしまった。


それを見ていた愛おしいヒトの子がこう言った。


そう…


羞花閉月しゅうかへいげつ閉月美人へいげつびじん!」


・・・と。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る