第27話:ふたりの関係…

馬車の中で、ふと先ほどの昔話で気になった事を話し始めたホウ


豊「そう言えば、なんで熊のおさは、打ち合わせを承知しておいて、その二番目の実力者であるクマ吉のお父さんを襲ったんだろうね?」


小姉ショウシ律香リッカ)「色々な思惑がありそうね。でも、一番はきっと…、熊の長は、元々クマ吉の父親の事が気に食わなかったから、あの騒ぎを利用し、友好反対派の支持の元、大義名分たいぎめいぶんを得て、厄介者を消したかった…というものでしょうね…。種族の長にとっては、その二番手がかなりちからを持ちすぎると脅威になりますし、まして自分と違う思想を持ち、その意見を公然と言うのであれば、それは長の座を脅かす存在よ。そういう存在が目障めざわりだったのでしょう。あとは、あのクマ同士の議論で熱くなりすぎて、野生の本能の中核でもある闘争心がたかぶり、狂った勢いで襲ってしまったか…。どちらにしても、反りが合わなかったのでしょうね、長とクマ吉のお父様は。あるいは、打ち合わせに応じる姿勢を見せたのは、ヒト族とパンダ族の代表をおびき寄せる為であって、来たら一斉に始末してしまう…。そんな荒っぽい策があったのかもしれないわよね。そのやり方に反対する熊が居たから、到着した時には熊同士で激しく議論を交わしていた。そして結局、交戦しかけて来た。何であれ、あなたが小熊をかばった事や、香織が無双乱舞むそうらんぶした事で、状況は一転…、いいえ、決まったのよ。そう、すべては決したのよ」


豊「ふぅ~ん、なんか難しいんだね。おとな達は・・・。組織というのは・・・。じゃあ、一番上の人も重要な存在だけど、国や組織が安定して成長できるかどうかは二番手次第!っていう感じなんだね。じゃあ、律香リッカお姉ちゃんは、この国で重要な立ち位置になるんだね。なんかボク、納得してきたよ!だって、今、うちの国は、あの不安定な国政から、一気に安定してきたんだもん。すごいね、律香お姉ちゃんって!」


小姉「わ、わたしをそう褒めたって…。もう…」

と、少し照れる姉。


でもすぐに、

小姉「あっ!!そうやって私をおだてておいて、もしかして、この流れで、『ボク、今日疲れちゃったから、兵法書を読むのは、明日からでもいいよね?』とでも言うつもりだったのでは?」

と疑う。


豊「にゃふっ。にゃんと!?看破かんぱされたにゃ(あれれ?また言葉が変に)」


小姉「もう、何なんですか?その喋り方は?おふざけは良くないですよ!」


蝶姫はクスクスと笑ったが、あえて今回は手助けをしなかった。



豊「そう言えば、香織ねーちゃん。あの時凄かったね、ひとりで悪い熊を全員斬るだなんて・・・。しかも背中のあの5本の槍、それに弓って…。使わなかったじゃん」

と、あの数多くの武器を装備していた姉の姿を思い出しては笑う。


香織「じゃあ、明日から、薙刀なぎなただけで、ああいう風に動けるように、さっそく特訓しよっか?弟くん?」


弟は笑い声が、泣き声に変わりそうだった・・・。


しかし、

豊「そして、100人の兵士さんが駆け付けた時のあの顔…。驚きというのか…、表情が…、面白かった。忘れられないよ~」

と、笑い直した。


小姉「こらっ。真面目に任務を遂行してくれていた兵士を笑ってはいけませんよ。彼らと一緒に行動していたから、熊の集落に無事に辿り着けたわけですし。実直で真面目に頑張っている人を笑ってはいけませんよ」


豊「…たしカニ。…そうカモ(あれ~、もう言葉が時々変になるのは、にゃぜっ?)」


小姉「だから、変な言葉を使って、遊ばないの!この子ったら、もう~」



蝶姫&大姉「仲が良いのね」


小姉&豊「良くは、な…」


と、それぞれ息ピッタリ合わせて言い合う。



蝶姫「ねぇ、あなた。あそこの数字はなぁに?初めは12で、今は1なの」


豊「ふっ、ふっ、ふっ。蝶のおねーちゃん。よくぞ気づいてくれた。そして、よくぞ聞いてくれた。あれは、十二区画法で区分けされた土地で、土地の番号なんだよ!ボクがパンダ・クマ案件のあとに、姉上に提案したんだ~。えっへん」


蝶姫「なぜ十二に分けたの?」


豊「…。そ、それはぁ~。~」


小姉「当時、我が国では距離の単位として、隣国や遠方の国のものを複数使っていた為、距離の単位が混在していたのです。それをこの子は、距離の単位を統一する為に、北門から京北関ケイホクカンまでの距離を12で割り、距離で区画整理し、管理するようになったのです。12にした理由は、この街道まわりの環境の特徴を分析し、分類していくと、12だとキレイに割りやすかった為。これにより、何か田畑や街道で不都合があった際に、『どこ』で問題が起きたのかがより正確に分かるようになり、管理する面でも大きな変化が生まれたのです。この子の功績のひとつね」


蝶姫「だから農地も、森林・竹林も、とても整備されているのね」


豊「えっへん。そーいう事なのであーる。ボクの功績の1つなのであーる。ふふふ」


小姉「だから、そういうのを自分の口から説明できないようでは、まだまだお子ちゃまなのですよっ」


豊「いいじゃん!だって、ボクまだ子供だもん。ちっちゃいもん」


大姉&蝶姫「やっぱり仲がよいのね」


小姉と豊は、首を横に振る、同時に。



豊「蝶のおねーちゃんが、『距離の1が見えた』って言っていたって事は、もうすぐ北門だね!京ノ都に着く!」


馬車の窓から、その北門を見たいと蝶姫にお願いをする豊。


見ると、北門はもう目の前まで迫っていた。そして、その門の左手にいくつか露店が開かれており、人々とモフモフで賑わっていた。



パンダ達は笹餅、竹に詰めた甘い水や、たけのこご飯、笹のかごを売っていた。クマ達は、ハチミツや、鹿しかいのししなどの肉や毛、角や牙を売っていた。そして、街の人も、旅人も、行商人も、通る人はみなそこに立ち寄って、買っている様子だった。



蝶姫「あぁ、このニオイ。甘いニオイ。好き。ハチミツがあるのね…きっと」


豊のお腹が「ぐぅ~」っと鳴った時に、大姉に「寄って行こう」とおねだりをする。


大姉は断る素振りなく、

「そうしましょう」

と言い、みんな馬車から降りた。



そこには、コパンとクマ吉がそれぞれの母親と一緒に店番をしていた。


コパンとクマ吉は、豊を見ると喜び、走って来る。豊を抱く蝶姫はしゃがんで出迎える。


久しぶりの再会に喜び、コパンとクマ吉は、豊に飛びついてくるのだが、豊の怪我はまだ治っていないから、「イタタタタ」と言う。


蝶姫「あなたって、いつもケガでボロボロね。ふふ」


それを聞いてちょっと男として情けなくなり、下を向く豊。


蝶姫「大丈夫。おねーさんがやさしく看病してあげるから。ふふ」


今度はちょっと恥ずかしくなり、顔を上げられなくなる豊。



コパンとクマ吉は、その空気を全く読まずに、「ねぇ、食べてってよ~」と言う感じで鳴き、お店の方を指さす。


その明るい鳴き声に豊たちは首を縦に振り、お店へ向かう。



ハチミツの香りに誘われたミツバチみたいにルンルンと歩く蝶姫。その胸のドキドキを静かに聞く豊。


大姉はコパンの母と何やら話し込む。


小姉はクマ吉の母と身振り手振りで何かやっている。意思の疎通はまだまだの様であった。


コパンとクマ吉は、それぞれ自慢の甘い物やハチミツなどを豊と蝶姫に勧める。


そして、コパンとクマ吉は、そっと手をつなぐのであった。



香織は空を見上げた。



今宵の月はどんな月なのか…。この時はまだ誰も分からなかった。



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