第26話:クマクマ会議?

下弦かげんの月が浮かぶ青い空を見つめるホウ



豊「いよいよ、今日か…」


ため息をつく。


豊「万全ばんぜんしてのぞむんだ…。大丈夫!」


自分に言い聞かせる。



約束の時刻が近づき、パンダ族と合流し、目的の場所へと向かう。



パンダの長は、竹槍で武装した50名のパンダを率いて来た。もちろん、コパンは母親の背中に乗っている。


その後ろに、大姉ダイシ香織カオリホウが、100人の兵士を率いて続く。


この100人は、弓兵40名、槍盾兵60名で構成されており、熊の集落の外で二手に分けて待機させる。そして、有事の際には、弓で熊を射り、迫る熊には盾で防ぎ、槍で突き刺すというのが作戦である。また一人で熊を相手にせず、必ず複数名で一匹ずつ仕留めるよう香織は兵士に伝えていた。


大姉と豊は、念の為、鉄製で長めの籠手こてを両腕に着けたが、香織は軽装である。そして、各々が得意とする武器を所持して進むのだが、香織は背中に槍を5本差し、弓を左肩にかけ、矢筒やづつは右肩で斜めに肩掛けし、その右手には薙刀なぎなたを持ち、明らかに戦場へおもむくようなよそおいであった。


残念な事に、豊の手と腕は、まだ治っていない為、剣を十分に握れない。その為、万が一の時には、大姉の後ろに下がり、大姉に守ってもらいながら、集落の外の兵士と合流する…という手筈てはずである。


なお、パンダ達は、香織から連日、竹槍の稽古をつけてもらっており、香織は彼らから『戦神』としてあがめられている。だがしかし、香織はまだパンダ達の言葉や仕草から気持ちを読み取れないでいた。よって、意思疎通は武術を通して伝える。所謂いわゆる、身体で教える代表的な体育会系女子であった。



一行いっこうは、熊の集落に到着する。森の奥にある、不気味で暗い深淵なる森である。



クマ吉の父熊が、クマ吉と、母熊を連れ、出迎えてくれた。そして、薄気味悪い集落の中へと案内する。


すると、

豊「姉上っ、ちょっとボクだめかも…。くらくらしてきた…」

と言って、倒れそうになったので、大姉は支え、そして抱きかかえる。


大姉は香織と目配めくばせし、歩を進める。



集落の中央の広場では、既に大勢の熊が集まっており、何やら激しく言い争いをしている。


「ウオ~ッ、ウォッ!ウオッ!(訳:パンダ族と和平?ヒト族に手を出さない?そんなもんできるか!やつらは、オレらのエサだ!食べもんだ!)」


「モウっ、モウっ、モウ~(訳:ちょっと冷静になれ。我々にもメリットがあるんじゃないのか?平穏で新しい世界をパンダ族とヒト族を交えて作る良いキッカケになる。平和が一番!)」


「ウォっ、ウオ~っ、ウォー!(訳:いずれあの町を襲い、オレらの支配下にするっていうオレらの夢はどこに行ったんだ?全面戦争だ~!)」


「ウォッ、ウォツ、ウオ~(訳:そう言えば、こんなバカな話を持ち出したのは、誰だ?ぶん殴ってやる!)」


「モウッ、モウッ、モォ~(訳:まぁまぁ。誰でも良いではないか、それよりも…)」


「ウオッ!(訳:あいつらだ!)」



すると三者での話し合いを始める前に、パンダとヒトの外交使者は殺気立った熊達に囲まれてしまう。


まるで、犬の目の前に大好物のエサを置き、「待て!」をさせている状態。


熊達はご馳走ちそうを目の前にし、ヨダレをダラダラと垂らす。


そんな異様な光景が広がる中、豊は目を覚ましてしまう。



豊「うわぁっ、なんだ。四面楚歌しめんそか!?絶対絶命っ!?弱肉強食!!虎視眈々こしたんたん??」

と、幼い少年は、覚えたての四字熟語を呪文のように唱えた。


・・・しかし何も状況は変わらなかった。



クマ吉の父「モウッ、モウっ、モッ(訳:まあ、待て。今日は話し合いだけだ。あらそうにしても、それは話し合いのあとにやってくれ。ここにいるのは数名だが、外には大勢の武装したパンダとヒトの兵士がいるぞ。今は争うな)」


そう説明をしているのだが、奥から一際ひときわ大きい熊が突進して来て、クマ吉の父を殴り飛ばす。


続いて、クマ吉の母にも手をかけようとしたので、クマ吉が勇気を持って母の前に出る。


クマ吉も殴り飛ばされようとしたその時、豊が左腕の籠手こてでその熊の手を止めようと間に入ったが、代わりに豊が殴り飛ばされる。


すぐに大姉は豊の元に駆け寄る。


一方、香織は一瞬で修羅しゅらと化し、その熊を縦に真っ二つに薙刀なぎなたで斬りいた。そして、明らかに襲うつもりであった目の前の熊達を次々とその薙刀で斬り刻んでいったのだ。



一人のヒトの娘が作り出したその地獄絵図に、熊達は、己の闘争本能が根底から崩れ去るのを感じた…。


争う姿勢だった熊達は地面にうなだれてしまい、穏健派の熊達も腰を抜かす…。


そう、戦闘は一瞬で終わり、熊達は大敗をきっしたのだった。



豊「…。ボクは大丈夫。クマ吉は・・・、大丈夫?」


その声を聞いた香織は、その手を止め、一度目を閉じる。そして、深呼吸し、再び“するどい眼光”を解き放つ。



初めに斬られた熊が、ここの熊のおさだったようで、実質的にクマ吉の父が長となる。だが、呼吸があるものの意識は戻らない。そんな中、残された熊達は、その妻であるクマ吉の母の言動に注視し始める。



クマ吉の母「もう!モウっ、モウっ。もう!(訳:もう!いい加減にしなさい!今日は話し合いだけのはずだったのよ…。もう!)」


目の前の状況を見てため息をつき、何かを決心した。そして、また皆に向かって語るのである。


クマ吉の母「モウッ、モウッ!モ~ゥ!ウオッ!(訳:パンダ族、ヒト族と交流したくないものは、いますぐにここを去れ!争いたい者はここを去れ!今すぐに!)」


去る者は居なかった。


クマ吉の母「モウッ、モウッ、モウッ(訳:今、ここに残っている者は、みな、パンダ族とヒト族と仲良く出来る…、または手を出さずに、ここでひっそりと暮らせる。そういう理解でよいかしら?)」


すると熊達は一斉に、「モウっ!」と賛同したようだった。



そして、クマ吉の母がパンダの長や大姉たちにひざまずいて、騒動のお詫びをした。


クマ吉の母「モウッ、モウッ、モウ(訳:こんな流れとなって申し訳ございません。もしお許しを頂き、そして今からでも間に合うようでしたら、相互不可侵や、友好的交流について、お話合いをさせてください)」


大姉とパンダの長は、お互いに目を合わせて、首を縦にふり、話し合い開始に合意するのであった。




=====



京ノ都ケイのみやこへ向かう馬車の中で、こう長々と、そして得意気に豊は蝶姫チョウキに語ったのだった。



小姉ショウシ「豊っ、お話しが長すぎます!もっと短く完結に!そして要点をハッキリと、蝶姫どのに説明せねば…。飽きてしまいます」


蝶姫「大丈夫。とても興味深かったわ。もふもふは2種族いるのね…。その熊にも会うの…、楽しみだわ」


蝶姫は、豊がこのモフモフ共存の話をする前に一瞬見せた“可憐で無邪気な少女”ではなく、“いつも”のオトナな蝶姫に戻っていた。



街道をだいぶ進んだ。いつの間にか、街道の右手は広い農地に代わっており、左側は整備された森林・竹林が広がっていた。話に出て来た“深淵の森”が、その森の奥にまだ存在しているのを蝶姫は見た。



大姉、小姉、豊、そして蝶姫を乗せた馬車は、京ノ都へと進むのであった。


護衛役の香織は、馬車と並走し、何度も馬車の窓越しに弟に話しかける。



街道にいたパンダ達は馬車を見ると手を振ってくる。それに気づいた蝶姫は手を振り返すのであった。


蝶姫「…。はじめて…。ついつい、手を振ってしまったわ…」



物事は色々と変化していくのであった。様々な変化があちこちで生まれていく。



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