第25話:子グマ・クマ吉、現る

カサカサ。カサカサっと、笹が揺れる。


その笹薮ささやぶから突然小さくかわいらしい顔がひょっこり現れる。そして、「ニャっ、ニャー」と鳴く。


それは小さな小さな小熊であった。そう、コパンのお友達である。まだ名は無い。



コパン「ミャ!ミャぁ~っ(訳:来てくれたの~。あそぼ~)」

小熊「ニャっ、ニャー(訳:みなさん、こんにちは。遊びにきたよー)」


その様子をみた大姉ダイシは、

大姉「まぁ、なんてかわゆい」

と感動する。


香織カオリ「姉上、ご用心を。きっと母熊も近くにおり、襲ってくるかもしれません」

大姉「そ、そうよね…」

香織「ここは、早めにその小熊に例の話を持ち掛けては?」

大姉「そうね」


そして二人は、パンダの長に、先ほどの話をパンダの長から、その小熊に伝えられないか尋ねてみる。


すると、パンダの長は、首を縦に振る。



気づいたら、ホウもコパンと一緒にその小熊と仲良く遊んでいた。


大姉&香織「(か…、かわゆい…)」



パンダの長「メェっ。メェ~っ、メェ~。メェ?(訳:熊の子よ。いつも我が子と遊んでくれてありがとう。今日は頼み事がある。聞いてくれないかしら?)」


小熊「ニャ?ニャ~(訳:え?なあに、それは)」


パンダの長は、“例の話”を小熊に説明する。



すると、小熊は急に、「じゃあ、こっちに来てよ」とジェスチャーをして、パンダの集落の門の外に来るように促す。


パンダの長は、一度大姉を見る。

大姉は首を縦に振り、そしてパンダの長も首を縦に振り返した。


大姉「香織、行ってみましょう」


香織「はい。警戒を…」


豊「あれぇ~、小熊くん、どこに行くの~?もう帰るの~」

と、豊もついていく。


小熊に案内されるように、集落の門の外に向かって、パンダの長、大姉、香織、豊、そしてコパンが歩く。



すると突然、

門番「メェっ!メェ!(訳;熊だ!熊族が来たぞ!)」

と、警報を鳴らす。


温厚なパンダ達は慌てふためく。



大姉「すすみましょう」

香織「はっ」


5人は小熊に続いて集落の門をくぐり、集落の外に出た。



そこには、大きな体の熊が立ってこちらを「ギョロリ」と見ていた。


大姉「母親ね」

香織「姉上、何か事が起こりそうになった場合には、アレを斬りますからね」

大姉「…。ええ」


小熊は、母熊に近づき、先ほどの事を話しているようだった。すると、母熊は警戒心を解いたのか、両手を地面に下ろした。


母熊「モウっ、モウっ。モゥ(訳:わかった。私が夫に話すわ。夫は熊の集落で長に続く二番目の実力者。熊の集落内で良いのであれば、話の場を設ける事はできるでしょう。ただ、死を覚悟して来ることね。私たち熊は、あなた達パンダやヒトをエサにしか見ていないものが多い。でも…)」


母熊は小熊を見つめて、話を続ける。


母熊「モウっ、モウっ。モウゥ。ウゥ~、モゥっ(でも、この子があなた方の子たちと…そう、種族を越えて、仲良く遊ぶ…。そんな世界を私はずっとこの先でも見てみたいとおもうの…。だから、私が夫を説得させてみるわ。話し合いの日取りは・・・、そうね、仮の予定として、1週間後の今の時刻、熊の集落にて…という事で調整していきたいと思うの。それまでにこの子にまた今日のようにこちらへお邪魔させていただき、その日程で確定したのか、別の日程がいいのかを伝えさせるわね。よいかしら?)」


豊「(うぁわ~、いわゆる“仕事が出来る人”のやり方だ~。連絡が取り合いにくいこの状況下で、先に仮でもいいから日程を決めておく。そして、その日程であろうと、別の日になろうと、必ず事前にお知らせをしてくれる…。出来るクマさんだ~。そういえば、牛さんみたいな鳴き方をするんだなぁ~、熊は)」


大姉も同じように感じたようで、豊と大姉はおおきく首を縦にふった。


パンダの長も首を縦にふり、

パンダの長「メェっ、メェっ。メェ(訳:わかりました。お手数をおかけしますが、よろしくおねがいいたします。和平への道は今、あなたの手にあります。どうか、うまくいきましょうに…)」

と平和を願い、母熊にお辞儀じぎをした。


続けて、大姉は母熊に一礼し、香織も一礼をする。


母熊は、軽くお辞儀じぎして礼を返した。



その日はもうこれで解散となった。


コパンは、「ミャーっ、ミャーっ」と小熊に向かって鳴き、豊はその小熊に「バイバ~イ。今度はゆっくりと遊ぼうね~、クマ吉~(あれ?勝手に名付けちゃった、てへ)」と手を振る。



大姉たちもパンダの長に挨拶をし、それぞれのおウチへと帰る事としたのだった。



その帰り道で、

大姉「あぁ~、おねーちゃん、今日はがんばったぞぉ~。寝る前に肩もみをして欲しいなぁ~。ねぇ?」

と豊に無邪気に話しかける。


香織「なら、弟くんは、その後に私の部屋に来てもらい、今夜は私と寝ます。いつもパンダと会った後は、私と寝ていますから…」

と言って、姉に対抗する。


大姉「豊は、おねーちゃんの事が大好きすぎるのよね?だから、“おねーちゃん”と一緒に寝たいのよね?」


香織「いいえ、豊は大好きな私と寝ます。今夜も名高き武将の武勇伝を話してあげるからね」


ふたりによる弟の取り合いはエスカレートしていき、弟の左腕をひっぱる大姉。右腕をひっぱる香織。その力はどんどん強くなり、豊は身体が真っ二つになりそうだった。


豊「痛いよ~。もう。姉上、香織ねーちゃん。ボクまだお怪我が治っていないんだからね~、もう」


猛反省する二人。


大姉&香織「ごめんなさぁ~い」



豊「姉上の事も、香織ねーちゃんの事も、ボクは大好きだからね~」


すると、子供のように喜ぶふたりの姉達。


大姉「じゃあ、じゃあ。今夜は特別に3人で寝ましょう。ふふふ。名案っ」


香織「そうね。姉上と寝るのも久しぶりだし。よき策かと」


大姉「きっまりぃ~。じゃあ、早く帰って、おねーちゃんと一緒に二人でお風呂に入りましょうねぇ~」


香織「いいえ、弟くんは、ねーちゃんと入るのです。ね?」


大姉「こ、これは命令なのよっ」


香織「そのような子供じみた命令なんか、聞きませんっ」


大姉「あ~っ、命令違反をするんだ~、香織っ」


香織「その命令は国家の為、世の中の人の為になる命令ですか?」


大姉「…。な、なるもん。わたくしがそれで元気になって、国の為、人の為になるもん」


香織「なら、私だって…」


・・・と、再び弟の取り合いが始まった。



十六夜いざよいの月が、その3人のやり取りを見守る。



こうして、パンダ・クマ案件は、手立てを知る者、出来る者、任せられる者達に恵まれ、それぞれに助けられ、小さな少年の重たい任務はすすんでいくのであった。








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