第24話:パンダ会議

朝起きるとホウの姉・大姉ダイシの姿は、そこにはなかった。

寝室には、大好きな姉の残り香が漂う。幸せな気分になる弟・豊。


豊「うあぁ~。ふわふわする匂い。おちつく香りだなぁ~。だぁ~いすき、おねーちゃんの匂い」


寝台でごろんごろんとする。そして、姉の枕をギューっと抱いては、それをクンクンする。今度は、枕を抱きながら、ごろんごろんとしては、クンクンを繰り返す。



しばらくしてから、テクテクと歩き出し、庭に出て、あたたかい太陽の下で、“任務”について策を練ろうとする。


豊「…。やはりダメだ。子供のボクでは、学舎で学んだ事以外であるこの“任務”を遂行できない。姉上あねうえか、香織カオリねーちゃんに相談するか…。知識豊富な律香リッカお姉ちゃんに教えを乞うのも手だ…」


そう言って、とてもちっちゃな自分の手のひらを見つめる。


豊「…。先日のあの怪我でまだボロボロだ…。不安になってきた…。不安感しかない…」


その時、思いついたように、ふところにしまっている“お守り”を取り出した。


豊「このお守り。とってもいい香りがしてボク好きなんだよな~。くんくん。あぁ~、とってもいい香りだぁ~」


豊「…!?そうだった!姉上が『あなたがやってみたいように、動いてみて』って言っていたっけ。こんな時は初心に返ろう。ボクがやりたいように動く!考えて策が浮かばないのであれば、足でそのヒントを探しに行こう!」


どうやら、お守りの効果が出たようで、急にやる気満々になってくる幼き少年。

まだ痛むちっちゃな手で、また森に入る支度をする。



既にお昼前となっており、ちょうど帰宅した大姉がその様子を見る。


大姉「あらあら。お出かけ?むしろ、その恰好は冒険に出るのかしら?」


豊「うん。策が思いつかない。だから、もう一度、パンダさんのおさに会ってくる」


大姉「まぁ、じゃあ、おねーちゃんも行かなきゃだわ。熊も出るかもですし、香織にも付いて来てもらいましょう。あっ、でも、おねーちゃんも実は、強いからね~。ふふふん。楽しみ~」


大姉はルンルンしながら、支度を手早く済ませ、香織を呼び3人で森へ入る事にした。



今日も荒らされている田畑を見ながら街道を歩く。


豊「えーっと、パンダさんのおウチは、ここから入り、あっちの方角だったかな」


香織「弟くん、よく覚えているね~。感心かんしん、感心~」


豊「なんとなく、そういう雰囲気がこっちからするんだ。あのパンダさん達の良い“気配”が…。こっちからするんだ…」


香織「(…)」


大姉「さぁ、行ってみましょう!冒険の始まりよっ。ふふふっ」


くら~い森に、あかるい太陽が入ってくる。



豊「あれ?なんか今日は変だ。鹿やウサギとか…全くいない。クマも来る感じがしない。…。森で何かあったのかな~?おかしいぞぉ~。パンダさん達大丈夫かな~?」


香織「(…)」


大姉「(ふふふ。香織がこれだけの覇気というのか、殺気を放ち、まわりのすべての動物を威嚇いかくしているのですもの。安心安全ねっ。今は)」



豊「あっ、こっちだ。パンダさん達は、こっちだ」


テクテクテクっと、少し小走りになる豊。


すると先に気づいたパンダの集落の門番が、「メェ~、メェ~(訳:客人だ、ガオォ~)」と鳴く。


大姉「あらあら、元気ねぇ。大きいのね。パンダ。そして羊さんみたいに鳴くの?ふぅ~ん。ふふっ、なんか、わくわくしてきちゃった、おねーちゃん」



豊はその門番に一礼すると、そのパンダもマネをして礼を返した。


大姉「まぁ、ステキ。じゃあ、わたくしも」


そう言って、大姉と香織も門番に礼をする。パンダも礼を返す。


面白くなってしまった大姉はもう一回、礼をする。するとやはりパンダも、もう一回礼を返す。大姉は興奮して、もう一回礼をすると、パンダも礼を返す。


大姉「きゃははっ」


豊「姉上っ、おふざけはそこまでだよ~。さぁ、中にお邪魔させてもらうよ~。ついてきて~」


大姉「は~い。えへっ」


香織「(…あれ?どっちが年上だ?…って、弟くん、結構頼りがいがあるのね。またよい一面を発見~っ。ふふ)」



豊はパンダの長が居た辺りに向かう。すると、パンダの長が先に気づいて、こちらへ近づき、歓迎するようなジェスチャーをする。


豊「こんにちは。パンダの長さん。今日は姉の大姉と、もう一人の姉・香織と一緒に伺いました。事前にご連絡ができず、突然の訪問をお許しください」


パンダの長「メェ、メェ、メェ~(訳:そんなかたい挨拶はいらないわ。また来てくれたのね。お姉さまたちもご一緒なのね。大歓迎よ。うれしいわ。いつでも気軽にきてね)」


大姉「大姉です。いつも弟がお世話になっております」


パンダの長「メェ、メェ~っ、メメ~(訳:いやいや、うちの子がお世話になっているの。私の方こそお礼をしないとだわ。何よりも、この子の命を助けてくれたのですから…)」



豊「じ、実は、パンダの長さんと相談したくって…。次の一手をどうするのか。その先の二手、三手も…。そして何をもってゴールとするのか…。ボク、考えてみたのだけど、なかなか案が出てこなくって…」


パンダの長「メェっ、メェ~。メェ~。(訳:よくわかるわ。私も考えていたけど、実行できなかったんですもの。でも大丈夫。こうしていまはヒトである皆さんとお話が出来ている。大きな一歩じゃない?ふふ)」


豊「たしかに!そうだった…」


パンダの長は、首を縦に振る。

大姉も、首を縦に振る。



豊「ここで聞くのも失礼になってしまうけれど、どう?印象は?」

と、小さな声で一番上の姉に尋ねる。


大姉「と~ってもステキね。ふふ。私からもお話をしてもいいかしら?」


豊は、首を縦にふる。



大姉「パンダの長さん、今回のパンダさんとの交流と、熊達との会議や対応は、この子に任せているの。だから今日は私はついて来ただけ…。だったのだけど、でも、あなたと、みなさんの様子を見て、あなた達の事をとーっても気に入ったわ。この街を“代表”して、私がパンダさんとの交流を認めるわ。いいえ、ぜひ交流をさせて欲しいわと言うべきね。だから、お互いに歩み寄り、一緒に試行錯誤(しこうさくご)しながら、共存していきましょう」


パンダの長「メェ!メェ~、メェ~、メェ(訳:なんと!?話が早い。私の長年の願いが、その少年とあなたによって、いとも簡単に叶うとは…。今日は吉日ね。さぁ、宴の用意を!と言いたいところではあるけれども、熊族との関係性が決まってからにしましょう)」


大姉「えぇ、そうね。ふふ」


香織「(!?姉上も豊も、このパンダと意思疎通が出来ている!?わ、わたしだけ?分らないのは…?)」



豊「じゃあ、1つ目の課題は次に進められるね。2つ目は、熊問題。パンダさん達は熊に対して、今後どう関わっていきたいの?平和的な関係?それとも…全面戦争…?」


パンダの長「メェ、メェ、メェ~メ(訳:温厚おんこうな私たちにとって、もちろん平和的に解決が出来ればいいわ。でも、熊族は戦闘派。必ず争いになるでしょう。だとしても、熊族の中にも私たちみたいに平穏へいおんに暮らしている者はいるはずよ。うまく説得が出来れば…。)」


豊と大姉は、首を縦に振る。

香織は、首を…振れなかった。


パンダの長「メェ~、メェ、メェ~(訳:野生の感だと、熊族は話し合う事には応じてくれるはずよ。だが、その場できっと襲い掛かってくるものはいるはず。ご飯が食卓に並べられたら、食べるように…、襲ってくる。それを前提にこちらも強者つわものを数名同行させ、話し合いの場の近くには戦う準備をした者達を配置した方がいいわね。あくまで、野生の感だけど…)」


豊「(当たりそう…。その『野生の感』は、違いなく当たる・・・)」


豊と大姉は、首を縦に大きく振る。



豊「そういえば、パンダさんは熊族と連絡を取る手段はあるの?」


パンダの長「メェ。メェ~、メェ~っ(訳:連絡が出来るかも。実は、うちの子が、熊族で同じくらいの歳の子と遊ぶことがあるの。とても仲が良いいの。手段としては、その子を通して、親に伝えてもらい、その親から熊の長か、関係者に話してもらい、また子供を通して返事をもらう。または返答の使者を送ってもらう…。そんな感じの事は出来そうよ。その子の親も同じように穏健おんけん派であれば良いのだけれども…。)」


豊「すごい!それ、ぜひやってみよう。…。ダメだったら、次の手段を考えればいいわけだし。熊族にも温厚な熊が大勢いればいいなぁ~。あー、でも、狂暴な印象しかない…」


パンダの長は、首を縦にふる。

香織も、首を縦にふる。



大姉「だいぶ次の流れが見えてきたわね。ここまで来た甲斐かいがあったわぁ~」


豊とパンダの長は、首を縦にふる。

香織も、首を縦にふる。



大姉「じゃあ、難しい話はここまで。豊はあそこでジーっと待っていてくれているお友達と遊んで来たら?おねーちゃん達は、もうちょっとこのままお話をしているから」


大姉は気を遣いそう言うと、豊はやっとコパンが視界に入ったようで、スタタタタっと走って行った。


途中で振り返り、

豊「ありがとっ。姉上っ。ちょっとボク遊んでくる~」

とお礼をする。


そして、豊とコパンは、再会を喜び、抱き合ってから、仲良く遊び始める。


大姉&香織「(かわいい~。やっぱ、男の子はこうでなくっちゃ)」



大姉は、パンダの長と何やら話し込む。


一方、香織はそのパンダの集落内に敵視する者がいない事を再確認し、「ほっ」と息をつき、集落を散歩し始めた。すると、取っ組み合いの武稽古ぶげいこをしているパンダ達に出会う。「交流を深める為にも…」と思い、そのパンダ達の元に意気揚々いきようようと参加する香織であった。鋭い爪を避ける香織の見事な身のこなしに興味を抱いたパンダ達がどんどん集まってくる。しかし相手はパンダ、素手で相手をするのは難しい。剣は抜けない。そこで、近くの竹を切り、2本の竹槍たけやりを作ると、相手のパンダに渡し、今度はその竹槍で武芸を競い始める。


その熱気にまわりのパンダ達は、「メェっ、メェ~、メェ~(訳:すごいぞ、お嬢ちゃん。どちらもがんばれ!)」と歓声が上がる。


二人を見ていた周りのパンダ達は、自分たちもやってみようと、竹から同じように竹槍を作っては、その二人の真似をして技を競い始めた。はじめは、遊び程度だった様子であったが、いつの間にか本気モードになっていく。そして、眠っていたパンダ達のクマ科としての野生本能の一面(闘争本能とうそうほんのう)がどんどん開花していく。



闘志をメラメラ燃やすパンダ達。


武芸で交流を深める香織。


太陽のような笑顔で談笑する大姉。


遊んで遊んで遊び尽くして、疲れてコパンと抱き合うようにして眠る豊。



パンダの集落は、今日も楽園そのものだった。



その時、一本の笹が揺れた…




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