第21話:子パンダ・コパンの願い

ホウは子パンダとすっかり仲良くなり、じゃれ合う。

それを温かく見守る姉・香織カオリ


香織「弟くん。もうすっかり暗くなった。月明りだけが頼りね。もう帰ろう」

豊「…。うん。子パンダ君…。キミともっと遊びたかったな~。キミの言葉をボクはまだ話せない。だから、学舎で学んでくるから、いつか一緒にお話し合いが出来るようになるといいね~」

香織「(弟くん…かわいい…でも)学舎ではパンダの言葉を教えられない。誰も分からないの」

豊「えぇ~、そうなの!?なんか泣き声もそうだったけど、何か伝わるものはあるんだけどな~。」

香織「(…)」


すると、森の奥から大きな物陰が2つ。いや3つ、近づいて来る。


香織「弟くん、おねーちゃんの後ろにいなさい。何か来る」


暗くてよく見えない。だが、気が付けば目の前に、大きな野獣が3体、立ちはだかる。


野獣は、今にも「ガオーっ」と襲ってきそうな態勢で近づいて来る。


野獣?「メェっ。メェっ(訳:ガオーっ。ガオーっ)」


豊「ひ、羊さん!?でかい」

香織「よく見て」


木々の間から月の明かりが射す。


豊「でかい、パンダさんだ」

香織「どうやら、その子の親たちのようね」


豊「…。ボクが行って、説明してみるよ」

香織「無理よ。キミはさっき、その子パンダに腕を引っ掻かれているのよ。子パンダの為にも、私たちが引いた方がいいわね。でも、向こうが襲ってきたら、斬るからね…。それだけは、分かって欲しいの、弟くん」


豊「だ、ダメ。ダメだと思う。目の前で親が殺されるって…。この子と仲良くなりたいんだもん。何か方法があるはず…」


すると、子パンダが「ミャっ。ミャーっ。ミャーっ」と鳴き、親パンダたちに近づく。


その鳴き声で、大人パンダからの威圧感が消えたのを香織は感じ取った。


香織「ふぅ。一戦交わる事はなさそうね」


子パンダと、親パンダたちは、なにやら話し込む。


そして、

親パンダ「メェっ、メェっ(訳:ありがとう)」

と言って、子供を背中に乗せて、森の奥へ帰って行った。


子パンダは、まだ甘い匂いが残る笹の葉を持って帰った。とても大切そうに。



豊「よかった~。おウチに帰れるんだね。子パンダ…。また会いたいな…。コパン…。そうだ、コパン君と呼ぼう」

香織「ふふ。今日は新しいお友達が出てよかったわね。でも、次に森に入る時は、必ず、おねーちゃんと一緒じゃないとダメだからね」

豊「はーい」


その素直な返事は、絶対に守らない時の返事だと、香織は看破かんぱした。



そして…


案の定、さっそく次の日に一人で森に入る豊。腕には引っ掻き傷、両手はボロボロに傷ついており、どちらも包帯に血が染み出すありさま。状態は良くはない。それでも子パンダに会いたい気持ちでここまで来てしまったのだ。


豊「お~い。子パンダのコパンく~ん。いるかな~?ミャ~、ミャっ、ミャ~っ」

と、子パンダの泣き声を真似しながら、森の奥へと進む。



突然、自然しぜんと足が止まった。


太陽の光さえさえぎるような真っ暗な森を目の前にした途端、「これ以上は入ってはいけない」と直感した。来た道を帰ろうと、振り向いたら、目の前に大きな巨体が1体立っている。


豊「!!(暗くてよく見えないや。だが、パンダではない…。…となると、熊か!?)」


その熊はすでに人を何人も襲っており、人の味を知ってしまったのだ。そして、豊の包帯から染み出る血の匂いを嗅いで、ついて来た。美味しそうな人間を前に、ヨダレを垂らす熊。


豊「(しまった。ボクのこの手では、剣を振れない。握る事もできない。走るか?死んだふりか?このまま目をじっと見て、後ろにさがるか?むしろ、このまま動かないでいるか?「姉上~、助けて~」って叫ぶか?…。どれが良策なのか、分からない)」


すると、“するどい視線”を遠方から感じた。そして、別の大きな固体が走ってこちらへやってくるのを、豊の右目がとらえる。


豊「(やばば。仲間か?二匹の熊を相手にするのは、厳しい…。詰んだ…。終わった)」


次の瞬間、目の前にいた大きな熊は吹っ飛んだ。


そして、「メェっ、メェっ」と聞こえる。


豊「!!あなたは、昨日の子パンダの親?お母さんの方だね?」


母パンダの背中に引っ付いていた子パンダが

「ミャ~、ミャっ。ミャっ」

と顔を出し、挨拶と昨日のお礼をしてきた。


豊は二人に助けてもらったお礼をする。そして、子パンダとの再会に二人は喜び、じゃれ合う。


すると、母パンダが、「メェっ、メェっ」と鳴き、「ついてきて」と言わんばかりのジェスチャーをする。


そのメッセージを感じ取った豊はうなずき、母パンダの背に乗せてもらい、再び二人仲良く遊び始める。



遊び疲れた豊と子パンダはそのまま母パンダの背中で眠る。



目が覚めた時、目の前の光景にビックリした。


豊「なんと!?ここは楽園?パンダさんの楽園?」


多くのパンダが平和そうに、のんびりと暮らす少しひらけた空間があった。


豊が起きた事に気づいた、母パンダは、まわりのパンダに声をかけ、パンダが集まる。


豊「(なにが起こるんだろう。ちょっとドキドキしてきたかも…)」


母パンダ「メェっ、メェっ(訳:昨日はありがとう。この子は大切な我が子の恩人おんじん)」


豊の耳には、感謝の言葉を述べているように聞こえた。


母パンダ「メェっ、メェっ、メェ~(訳:私はここのおさ。そしてこの子は次の長になる)」


豊はなぜか首を縦に振った。


母パンダ「メェ~、メェ。メェ~っ(訳:この子が望むの。あなたと一緒に遊びたい。暮らしてみたいと)」


豊は自然と首を縦に振って返事をする。


母パンダ「メェ~。メェっ、メェ~メ(訳:あなたと、そして、街の人たちともうまく交流をしていきたい。何か手立てはない?)」


豊「う~ん。ならば、姉上に相談してみる。ボクもコパン君と・・・。あっ、この子ともっと仲良くなりたいし、ボクに任せて。って、ボクがバンダ語を話せたらよかったんだけど…」


母パンダは、首を縦に振って理解をしたようだった。


母パンダ「メェっ、メェ~(訳:私たちは隣人の熊達に襲われているの。街の人も熊に襲われていると聞くわ。一緒に熊族を追い払うか、うまく和平案で説得が出来たら、この森は平和となり、きっと私たちとの関係もさらによくなると思うの)」


豊「あぁ~、確かにねぇ~。それはなんとか改善か解決したい話だよね…。(あれ?なんでボク勝手にそう思っているんだろう)」


母パンダ「メェ~。メェっ、メェ~(訳:ふたりのお昼寝が長かったから、もう暗くなる。街道まで送っていくわ。この件は、私も前々から望んでいたの。でも、この子に背中を押されたわ。ぜひ、ヒトと交流をしたい。さらに願わくば、熊族退治か、相互不可侵そうごふかしん条約を)」


豊は首を縦に振った。


そして、豊は集まってくれたパンダのみなさんに一礼をして、また母パンダの背中に乗せてもらい、コパンと一緒にじゃれ合いながら、街道へと戻っていったのだ。



母パンダの背中はもふもふしていて気持ちいい。


子パンダのコパンと一緒に、「もふもふしてて気持ちがいいよね~」、「ねぇ~」と言い合うような会話をしたように豊は思った。



もふもふ。もふもふ。


そしてまた、すやすや、すやすや…っと。










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