第20話:もふもふとの共存

関門からいよいよ京ノ都ケイのみやこを目指して馬車が進み出すと、すぐに人々の熱気を感じた。


関をより堅固けんごにしようと作業する人々が右手にたくさんいる。道の反対側である左手では兵士が弓の訓練をしていた。



すると突然、

蝶姫チョウキ「ねぇ、ねぇ。あのシロクロのもふもふは、なぁに?」

無邪気むじゃきな少女のように可憐かれんにはしゃぐ。


一同は驚く。



ホウ「あれはね、パンダだよ」

蝶姫「パンダ?まぁ、なんて愛らしい」

豊「蝶のおねーちゃんも、かわいいよ」


蝶姫の耳には豊の声は届いていない様子だった…。


豊「パンダはね、仲良しさんなんだよ。木々の伐採や、採石作業、それら資材の運搬を手伝ってくれるんだ」

蝶姫「あのもふもふが?なぜ?」

豊「少し前にちょっとした事があり、それが切っ掛けとなり仲良くなったんだ、パンダと」


そう言って、豊は“もふもふ”との共存に至るまでの話を始める。




=====

少し前の話。

幼い少年がさらに幼かった頃の話。


当時、京北関ケイホクカンから京ノ都までの街道は少し荒れていた。


関から京ノ都を見た際の街道の右手を農地として利用し、左手には未開拓の森林が竹林と共に辺り一帯に広がっていた。森林はその奥が見えないほどであった。そして、くまがよく出る為、人々は怖がり、その森周辺には近づかなかった。人々はわなを仕掛けては、熊を退治していたのだ。それでも熊は、街道の反対側の農作物に手を出しては、居合わせた人々を襲った。不幸な事に命を落とした者も少なくはなかった。そして、捕獲の罠の数が増えていった。


豊と香織カオリは、よく京北関で武芸の稽古をし、それが終わると、一緒に帰るのだが、その時にこの街道を通るのだ。香織の馬に一緒に豊も乗らせてもらい、するのであるのである。


そんなある日、


豊「うわぁ~、今日も農作物が荒らされているね~。何とかならないのかな?」

香織「姉上達は内々のめ事に関連した問題や、隣国との外交交渉で手一杯ていっぱいな感じ。おねーちゃんが何か出来たらよいけど、北の強国の兵力増加が目まぐるしいから、おねーちゃんは自国の軍事強化でもういっぱいいっぱいだわ…」


豊「…。だよね~。みんな頑張っているのだけど、色々な事が急に起こったっていう感じだし。そんな状況なのに、国に住むみんなが混乱していないのが奇跡だよ。他の国だったら、暴動が起こっているだろうに…。理解深いみんなに感謝しないとな~」


香織「弟くんって、本当変わっているよね。君のその気遣いは必ず強い武器になるから、おねーちゃん応援しているぞ~」


豊「あはっ、大好きな香織ねーちゃんにそう言われると、元気出てくるぞ~」

香織「よし、じゃぁ、おウチに帰ったら、また一勝負ひとしょうぶしよう!」

豊「…香織ねーちゃんにそう言われると、今日の疲れが一気に出てきたぞ~」

香織「じゃあ、おねーちゃんがやさしく…してあげよっか?今夜」


豊「えっ、な、なにを?」

香織「それはぁ、おねーちゃんに任せておいてっ!」


豊は絶対に武芸の稽古か、歴史上の大将軍の話や、名将の一騎打ちなど、武術に関する事に違いないと思った。



そんな時、森の方から、「ミャ~っ、ミャ~っ」と猫のような声が聞こえてきた。しかしその声にはちからがなく、泣いていた。


豊「助けに行かなきゃ」

香織「弟くんっ、そっちは危ない。しかももう日が暮れるから、すぐに暗くなる」

豊「助けを求める声なんだ。あの泣き声は・・・」


香織の馬からチョンっと降り、弱々しい泣き声の方へと、スタタタタっと走っていく。


香織も馬を降り、近くの木に馬の手綱たづなを縛り付け、豊のあとを追った。



すると、子供のパンダが、人が仕掛けた熊対策の罠にかかっており、子パンダの足から血が流れていたのだ。


苦しそうに泣いている子パンダに、

豊「もう、大丈夫」

と、声をかける。


しかし、子パンダは、初めて見る人間にビックリし、豊の腕を爪でく。何度も、何度も。


豊「だ、大丈夫だからね。ボクがキミを助けるから」


やさしく子パンダに抱きつくと、子パンダは豊を信頼してくれたようで、おとなしくなる。


豊は素手で罠を外そうとする。その手はすぐに血まみれとなる。


豊「(あれ?どうやるんだろう?)」


罠の仕組みを知らない豊の手は、見るも無残な状態になる。


罠を解けないまま、出血と痛みで、豊も子パンダも、共に徐々に意識が遠のいていく。



すると、

香織「まったくもう、私の弟くんは無茶をする」

と耳元で声が聞こえ、香織は手早く剣で罠を真っ二つにする。


香織「孫子そんしの兵法にあるでしょ?『彼を知り己を知れば百戦殆ひゃくせんあやうからず』と。まずは、その罠の仕組みを知らないと」


豊「香織ねーちゃん…。正しいような、正しくないような…。だって、剣でいとも容易たやすく斬るんだもん…ちからづくじゃないのぉ~?」



香織は豊と子パンダの傷口をそれぞれ手当した。


手当が済み、「ほっ」とした時に、豊と子パンダのお腹が「ぐぅ~、ぐぅ~」っと大合唱をした。


豊は子パンダと大笑いをした。


香織は、笹の葉で包んだお菓子を腰巾着こしぎんちゃくから取り出して、3人で食べた。



いつもより美味しかった。とても美味しかった。


笹の葉の香りが3人を包み込む。お菓子のように。甘く。爽やかに。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る