第19話:京国へ帰国

帝都・らくを離れ、黄巾賊と出くわすなど、トラブルがあったが、いくつかの国で通行手形つうこうてがたを見せ、外交特権でスムースに通り抜けていく。


その後、馬車はいくつかの山林を越え、そして大きな平野に出た。


そのはるか前方には大きくけわしい山脈が2つ、街道の左右にそびえたつ。その2つの山脈の間には、とても大きなせきが築かれていた。



馬車の御者ぎょしゃ大姉ダイシ様、いよいよ京国が見えてまいりました」


それを聞いたホウは外を見たいと蝶姫チョウキにおねだりをする。


馬車から外を見た豊は、

豊「うわぁ~、京北関ケイホクカンだぁ~。いつ見ても、おっきいなぁ~」

と、目をキラキラさせて言う。


豊「あそこには、香織カオリおねーちゃんが居るんだよ。元気にしているかな~。会えるといいなぁ~」

蝶姫「でも、あなた。いまのお姿をお姉さまがご覧になったら、とても心配されてしまうのでは?」

豊「ふっふっふー。それが策なのであ~る。『ボク、お怪我をしちゃったから、しばらくは武芸のお稽古出来なくなっちゃった。残念。てへっ』と伝えるのが目的なのさっ」


悪知恵を働かせる豊に、

小姉ショウシ「もうっ、あなたはそういう事ばかりは、よく思いつくのね。香織に今の話をしますからねっ」

といつもどおり叱る。


豊「えぇー、律香リッカお姉ちゃん。そりゃないよ~。…。あっ、その代わり、お姉ちゃんがまとめた『兵法書へいほうしょ』を読むからさ~。ねっ?お願いっ」


小姉「…。まぁ、あなたの今後を考えたら、武芸に鍛錬するよりは、知識を吸収し、自身で色々と判断できるようになる事の方を優先すべきだと思うから、今回はあなたの悪知恵に乗ってあげるわ。でも、ちゃんと読むのよ、兵法書を」


豊「へい、へい、ほ~」

と、わざと悪ふざけをして見せた。


小姉の顔は鬼の形相ぎょうそうになったのは言うまでもない。



京北関ケイホクカンが近づくにつれ、その大きさが伝わってくる。


蝶姫「大きいわね」


豊「でしょ~。難攻不落なんこうふらくの要所なのであ~る」

と、覚えたての言葉を添えて、自慢げに話す。


豊「そして今もまだ増築をしているんだよ。さらに大きく、厚く、そして確固たる存在となるように。あれだけ大きければ、敵意を抱く者達が来たとしても、あきらめて帰ってくれるように…。そうボクは願う。戦闘を回避かいひする事も大切だから。」


蝶姫「…。そうね…」



京北関の門にたどり着き、開門する。


すると、香織が開いた門の向こうでお出迎えをしてくれた。


香織「姉上っ、任務お疲れさまでした!」

大姉「香織、元気そうね」

香織「はい。このように毎日武芸に鍛錬を重ねても、力が有り余っております」

大姉「頼もしいわね」


香織「ところで、弟くんは?」

と馬車の中を覗き込む、香織。


香織「ど、どうしたの?その怪我?」

豊「じ、じつは大きな怪我をしてしまって、しばらくは稽古が出来ないんだ。残念だけど…」

香織「そうね~、残念だ。それよりも、そちらのお姫さまはどなた様?」

蝶姫「わたくしは、蝶姫チョウキ

香織「わたしは、香織カオリ。弟くんをそこまで面倒を見てくれるとは…。かたじけない」


蝶姫に一礼する香織。蝶姫も会釈えしゃくをもって礼とした。


香織「それにしても、弟くん。やるではないか!このような綺麗なお姉さんと出会い、一緒に帰国するだなんて」


豊「うん!」


豊の素直な声が京北関の関門に響く。


香織「ははっ。元気でよいではないか、弟くん。明日からでも稽古が出来そうだ」

豊「だ、だめだよ~。全身が痛くって、動けないもん。右腕くらいしか、動かせないし」

香織「なら、今からでも稽古をしようではないか。右腕があれば十分!戦場でそうなった際にきっと役に立つであろう!」


大姉「香織。実は本当にかなりの重症なの。生きているのが不思議なくらい。だからお稽古はもう少しあとにしてあげて」

小姉「代わりにその武芸を活かせるような『兵法書』を読ませるわ、豊には。悪い話じゃないでしょ?」

香織「姉上たちがそのようにおっしゃるのであれば…。弟くん、大事にするんだぞ。じゃあ、寂しかっただろうから、おねぇちゃんがおウチまで護衛しよう!」


その弾む声からして、

どうやら、香織の方が寂しかったようだった…



豊は、ほっとした半面、書物を読むのも苦手なので、今度は書物から逃げる策を考え始めるのであった。


果たしてうまく策を練れるのか??





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