第13話:口移しは甘い媚薬

『良薬は口に苦し』

よく効く薬は、苦くて飲みにくい。


まゆがちょうど入室して来たので、蝶姫チョウキはまゆにその薬を持って来させる。まゆは薬を蝶姫に手渡し、蝶姫はそれをホウに見せる。


豊「マズイって言ったって、たかが知れているよね~。たかが…。って、ぐへっ、すんごいニオイ。すんごくクサイ~。う~。これ、絶対にマズイよ。マズイよ絶対に」


蝶姫「なら、わたくしがお手伝いをいたしましょう」

まゆ「お嬢さまっ、まさか…!?なにもそこまでされなくても…」

豊「華佗かだ先生もおっしゃっていたけど、蝶のおねーちゃん、なにかできるの?」

蝶姫「口移しです」

豊「へぇ~、口移しねぇ~。…えっ!?口移し!?ちょ、ちょっと待って、子供のボクには、ちょっとまだ早いかも…」


蝶姫「何をおっしゃっているの?もう既にあなたとは何度も…」

豊「えっ、いまにゃんと!?」

蝶姫「ふふ」

まゆ「…。」

豊「こ、これくらいのお薬、男の子なら、飲めるもんねーだ!量も少ないし…」


豊は、どろどろになった薬を一度見る。しかしその色合いやニオイに尻込みする。とは言っても、蝶姫に口移しをしてもらうわけにもいかず、勇気を出して、人差し指でチョンと少しだけさわり、口に運ぶ。ぺろり。


豊「おえ~っ。ごほっ、ごほっ。ムリだ。これ、ムリだぁ~」


今まで感じた事がない程に気分が悪くなり嘔吐えずく。


蝶姫「ですから、お手伝いをしますのに、わたくしが」


豊が落ち着くのを待つ蝶姫。しかし、薬は苦く、不味くて、とても臭い。一向に収まる気配がない。



蝶姫「だから、ちゃんとおねーさんの言う事を聞きなさい」


見兼ねた蝶姫は薬を指で取り、自身の口に含み、それを唾液だえきと混ぜた。豊のあごを優しく持ち上げてから、豊とキスをする。蝶姫は唾液に混ぜた薬を豊の口にゆっくりと流し込む。舌先を使いながら。


蝶姫の顔は妖艶ようえんであふれんばかりの色香いろかかもし出していた。


豊「あっ、んっ、んっ!!………、んはっ!?」


驚く表情を隠せない豊。そして、おくちはだらしなく半開きのままになり、ヨダレが垂れてしまう。気遣う蝶姫は、それを指でぬぐい、自身の口へと運び、ぺろりと舐める。


蝶姫「(あぁ~、なんたる甘美かんび)」


すると、えつひたる蝶姫から、甘く淫靡いんび香気こうきはなたれ、部屋を包み込む。


蝶姫「…。(あっ。…。いけない。気を付けないと。この子は、まだ弱っている…)」



しばらくして、我に返った豊が蝶姫に向かって話し出す。


豊「…。…。なに!?すごく甘い。めちゃ甘い。砂糖?ハチミツ?いや違う。次元が全然違う!蝶のおねーちゃん、今のはなぁに?何を混ぜたの?」

蝶姫「ふふふ、知りたい?」

豊「うん、知りたい!」

蝶姫「わたくしの唾液を薬に混ぜて、飲ませてあげたのです」

豊「えっ!?」

蝶姫「甘かったでしょう?」

豊「うん。とっても甘かった。もう一回、いやもっと、もっと、ほ…。あっ…あれ!?(勝手にしゃべっちゃう?本能丸出し?理性が利いていない?)」


蝶姫「もっと欲しくなってしまったの?悪い子ね…。でもダメ」

豊「そ、そうだよね。ごめん。ついつい調子に乗っちゃった(なんだろう、さっきのは?)」

蝶姫「いいえ、違うの」

豊「えっ、どういう事?」

蝶姫「…“媚薬びやく”でもあるから…」

豊「媚薬!?」


蝶姫「そう。“甘美なる良薬”であり、“身を滅ぼす毒”にもなり得るもの…。それが私の…」

豊「(ごくり…すごくえちえちでオトナなお姉さんだ…キケンな香りがする…)」


まゆは少しため息をつきながら、その空になった小皿を下げた。


少し冷静になってから、

豊「蝶のおねーちゃん、ありがとう。無事に飲めた、アレを…」

とお礼をする。


蝶姫「次は今夜ね」

豊「!?(こ、こんや。ごくり)」

蝶姫「みおみおが、『朝晩、食事前に飲むのにゃ』みたいな事を言っていたでしょう?」

豊は、首を縦に振る。


豊「(蝶のおねーちゃんのネコ語モード?みおみお語モード?とても可愛いいにゃ)」

豊は、再び首を縦に振って、うんうんとうなずく。



しばらくして、身体の奥底から熱いエネルギーを感じた。そして、


豊「あれ?なんだか、ドキドキしてきた。やばい、蝶のおねーちゃん、ちょっとボク、すごくドキドキしてきちゃったかも…。ハァ…、ハァ…」

蝶姫「さっきのは媚薬。あなたの身体、今はとても弱っている。だから、無理をしてでも今は眠ってくださいね…」


豊のほおにキスをしてから、頭をなでてあげる。


すると、魔法がかかったように、すやすやと豊は再び蝶姫の胸元で眠りにつくのであった。



それを見ていたまゆは、焼きもちを焼いたのか、機嫌悪そうに部屋をあとにした。



肉料理屋では、朝ご飯の支度をしているようで、肉を焼くいい匂いが上の階までのぼってくる。


“焼く”音が、「ジュー、ジュー」と聞こえてくる。「ジュー、ジュー」と、“焼かれる音”が。







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