第5話:気遣う少年、無口な蝶
蝶姫「おいしい」
小さな飴はすぐに口の中で溶けて消え、甘い感覚が口の中に残った。砂糖とは違うその甘さが気になった蝶姫は、豊に尋ねる。
蝶姫「この甘さは、なぁに?」
豊「それはね、ハチミツだよ」
蝶姫「ハチミツ?」
豊「そう。最近、ボクの国でうまく作れるようになったんだよ。そうだ、ボクの国においでよ!色々と見せてあげたいものがあるんだ、春だし。あっ…でもまだ会ったばかりだもんね。何を言っているんだ、ボクは…」
と、綺麗なお姉さんに一丁前に話しかけている自分が急に恥ずかしくなり、少し下を向く。
蝶姫「行ってみたい・・・かも」
豊は顔を上げて、蝶姫に向かって
豊「ほんと?是非来てよ!あっ、でも姉上達にちゃんと説明しておかないと…」
蝶姫「お姉さん達がいるの?」
豊「うん。一番上の
蝶姫「たくさんいるのね。みんな美人なの?」
豊「うん。美人だと思う。この帝都を含めて、ボクが見てきた“綺麗なお姉さん”シリーズの中でダントツだよ!でも、それを超えて美人なのが、蝶のおねーちゃん!」
ここまで言い切ってしまった事で再び恥ずかしくなり、顔を赤くした。
しかし蝶姫は冷静に、
蝶姫「そう…」
と無関心に答える。
居たたまれない雰囲気になってしまったので、豊が勇気をもって別の話題を切り出してみる。
豊「そ、そういえば、さっき、露店で何かを見ていたよね?熱心に何を見ていたの?」
蝶姫「これ」
と言い、1つの腕輪を指差した。
豊「うわっ。キレイ!紫色の
蝶姫「詳しいのね」
豊「二番目のお姉ちゃんが教育の一環で色々と教えてくれるんだけど、でもこれ…」
蝶姫「これ。欲しい」
豊「そうだね、ステキなデザインだから、これをもらおう。って、お店の人は?」
蝶姫「そこ」
と露店の奥の地面を指差した。
豊「ちょ、ちょっと、おじさん?大丈夫?」
地面に倒れている店主らしき男に声をかける。
『黄色い頭巾』の一件が収まったと知ると、
その露店の隣の女店主が
隣の女店主「まーったく、
と言い、倒れている男の顔に水をぶっかけた。
男は飛び上がり起きたが、再び蝶姫を見ては、気を失った。
豊「あれ?どうしたんだろ?また、倒れて」
蝶姫「…(そうか…気をつけねば…むしろ…なぜ…)」
豊「おーい。大丈夫ですかー?」
と、店主に声をかけ、反応を見てから、ゆっくりと身体を起こす。
露店店主「おぉ、す、すまねぇな。ぼっちゃん」
豊「大丈夫?急に倒れて?お身体でも悪いの?」
露店店主「いやぁ~、
隣の女店主「ほ~ら見ろ。
露店店主「うるせー。お隣さんは黙ってろ!」
隣の女店主「はいはい。…。そうだ、ぼっちゃん、あんた、気をつけなーよ」
豊「!?(なんだろう)」
豊「そうそう、店主さん。この珍しい紫色の腕輪は、なんの
露店店主「ほほぉ~う。さすが、ぼっちゃん、お目が高い。これは当店自慢の
豊「で、なんの宝石なの?」
露店店主「これは
豊「翡翠?翡翠って、緑色じゃなかったっけ?」
露店店主「よくご存じで。普通の翡翠は緑。でもこれは特別な場所で採られた紫翡翠だ」
豊「へぇ~、すごいね。いくらするの?これ」
露店店主は一度
露店店主「いつもは金100でお売りしているんですがねぇ、先ほど手当をしてくれましたしぃ、少しお値引きをして、金70にしますよ」
豊「金70か~」
と言い、蝶姫の顔色をうかがう。蝶姫は欲しそうな顔をしている。
豊「あと、この
露店店主「お、おぉ。さ、さすが、ぼっちゃん。よくお気づきで。この金剛石は遥か遠い土地でしか手に入らない、金剛石の中でも硬度が高く、とっても硬いんだ」
豊「金剛石は、剣が刃こぼれするくらいに硬いんだけど、それ以上に硬いって事?」
露店店主「さすがでございます、ぼっちゃん。ぼっちゃんがお持ちのその立派な剣ですら、刃がパリンって割れちゃうのです」
豊「パリンって?」
露店店主「そうです、パリンって」
豊「パリン?」
露店店主「パリン」
豊「…」
露店店主「…」
豊「ボクの剣で、試してみてもいい?」
露店店主「も、もちろんでございますが、ぼっちゃんのお持ちの剣はお高いのでは?無駄に刃を悪くしてしまっては、いけません」
豊「ボクは構わないんだけど…。もしかして、ボクの剣でチョンと当てるだけで、ヒビが入るような“金剛石”じゃぁないよね?」
露店店主「だ、だ、だ、大丈夫だと思いますです、はい。ですが、ぼっちゃんの剣を大事にされては?お屋敷に帰られてから、父上さまや母上さまから叱られるんじゃぁ、ありませんか?」
豊「ボクには…。…。まぁいい、試しに刃先を当てて…」
と、言ってみたものの、腕輪のデザインも
そして、再び蝶姫の顔を見ると、とても欲しそうにしていた。
豊「(蝶のおねーちゃん、買うのかなぁー?なかなかの高額だよ。…。いやいや、蝶のおねーちゃんが欲しいと思っているんだ。ボクが買ってあげるのが、男の
ふと、その腕輪の近くに目を移すと、これまた見事な髪飾りが1つ
豊「おじさん、この三日月をモチーフにした白い髪飾りとセットで、金100でどう?」
露店店主「あわわわ。ぼっちゃん、お待ちを。その髪飾りは、遥か西南の地にいる珍獣の牙を加工したもの。そこに、東の海の貝が生み出す幻の玉を3つもあしらった逸品。この世に1つしかありません。そちらも金100の値がつくのですよ。それに、こうやって太陽に透かしてみると、三日月の中にもう1つ三日月が現れるのですよ。二重の三日月。このような品は
豊は蝶姫の方を見た。蝶姫は、とてもとても興味がある顔をしていた。
すると突然、
豊「うぁ~、ここのお店とてもステキな
と、大きな声を出した。
周りの人々がその声に気づき、さらに綺麗なお姉さんにも気づき、皆がその露店に目をやる。
豊「で、どうなの?おじさん、2つで金100で。別にいいんだよ、その金剛石が本物かどうか、今、みんなが見ているこの場で試してみても」
蝶姫は、首を縦に振る。
露店店主「(っち、やるなこのガキ。金剛石が偽物だとバレたり、高値で売っていると周りに知られてしまうぞ、このままでは…)」
隣の女店主「やるねぇ~、ぼっちゃん。さっきも、あの『黄色い頭巾』達をやっつけたもんなー。もうこの横道の英雄だよ」
すると周りの人々も、「そうだ、さっきの『黄色い頭巾』達を追い払っていたよな」と口々にし、露店の注目度がさらに増した。
豊「ねっ?“悪い話”ではないよね?きちんとした額なんじゃないかな?色々と差し引きをした上で、損はしないんじゃないかな?」
露店店主「(ん!?まてよ、この小僧、もしかして材料の本来の値段を知った上で、制作技術を評価し、そして売り主の儲け分を正当に判断した上で、2つで金100と言っているのか?…。しかも、金剛石は偽物だし…。だとしたら、争ってはいけない相手だ…。参ったな…)も、もちろんです、ぼっちゃん。ぼっちゃんのおっしゃるように…2つで金100でいかがでしょうか?これ以上はまけられません。」
豊はもう一度蝶姫の顔を覗き込むと、今にも喉から手が出るような顔をしていた。
それを見て、少し慌てて、
豊「では、その2つを下さい」
と言い、豊は
露店店主「ややっ!少し多いですよ」
豊「どれもステキなデザインだし、また良い品を作って欲しいから、そのお
小姉から教わったばかりの事をあたかも普段から使っているが
そして、また大きな声で
豊「ここのお店の装飾品はすごくいいよねー。ねぇ?お姉ちゃん!職人さんの技が光る!そんな品々がたくさんあるよね~。また買いに来ようねー」
と言ってから、店主に小声で
豊「せっかく良い品々も扱っているのだから、
と
蝶姫は、首を縦に振る。
露店店主は腰から砕けたように、地に腰を下ろす。
隣の女店主「あんたも本当は出来るんだから、
と、露店店主に釘を刺した。
すると周りにいた人達がその店を覗きに集まって来た。
露店店主はなんとか起き上がる。
露店店主「…。(いや~、全くもってそのとおりだ…。あのぼっちゃんにきちんとお礼とお詫びをせねば)」
露店店主「ぼっちゃん、まいどあり~!おねーさん、また来てくださいねー!」
と二人に声をかけた上で、
露店店主「さぁ、よってらっしゃい、みてらっしゃい。帝都で一番の装飾品屋だよ~」
と、今まで声を張り上げた事がなかったのだが、自然といい声が出て、横道に響くのだった。それを聞いた隣の女店主は喜び、負けじと声を張り上げた。
周りの店も競い合うように、威勢の良い声を上げ始め、その横道はより活気づいた。
鳥たちも歌声を上げ、あたたかな春の風たちは、やさしく通り過ぎる。
すると、装飾屋と、その隣の店の間にある桃の木で、2
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