第4話:孫たちの反応

孫A「ちょーーーっと待って、お婆さま!その蝶姫チョウキって、誰っ!?」

蝶姫「わたくしよ・・・。わ・た・く・し」

孫全員が一斉に驚く。蝶姫は、孫たちが見せた事のないようなひどく驚いた顔をしたので、クスっと笑う。


孫B「え~、でも、まったくの別人だなぁ~。オレの知っているお婆さまとは違う感じだ」

孫C「ちがうちがう、そうじゃない。きっとそういった一面もあるんだよ。ボクらの知らない一面が」

蝶姫は首を縦に振った。


孫A「お婆さまは、“首を振る”事と、『大丈夫』、『いい匂い』、『キレイ』くらいしかお話しにならなかったの?」

蝶姫は、わざとまた首を縦に振ってみせた。


孫B「オレが思うに、お婆さまだったら、あの黄色い賊なんか、一瞬で片付けちゃっていただろうに。本当に今の『物語』の蝶姫は、お婆さまなの?」

孫C「いいや、ボクが考えるに、お婆さまなら、その賊達を説き伏せて、慈悲ある道へと導いていたんじゃないかな?うんうん」

孫A「いいえ、ワタシのお婆さまなら、そんな虫けらな男どもですら神々しいお婆さまを目の前にしたら平伏する事しかできず、崇め奉られる存在になっていたはずよ。実際におじい様って、お婆さまに対してそんな感じだったじゃない?」

孫B「いいや違うぞ。おじい様は、昔っから悪者を斬って斬って斬りまくり、こらしめていった。その雄姿にお婆さまは魅かれていったんだぞ」

孫C「みんな、わかってないなー。おじい様は、物事の分別がつくお方だったから、その人柄や知性に、お婆さまは惹かれていったんだよ」

孫A「違うわよ、おじい様はダメダメだったから、お婆さまは仕方なく手を差し伸べたのよ。女神さまのご慈悲なのよ」

蝶姫「(ふふふっ。みんなには、それぞれの“お婆さま”が存在しているのね。実に興味深いわ)」

こうして、またいつものように“孫会議”が始まったのだ。


蝶姫は、冷めてしまったお茶を飲み干した。食した桜の花びらから、春の香りが舌を通り、そして鼻を抜けて感じ取れた。

蝶姫「桜の時期は短いけれど、とてもステキよね」

桜の木を見上げる。


れたてのお茶を持ってきた侍女じじょが、その空になった器にお茶を注ぎ、蝶姫に尋ねる。

侍女「よろしかったのですか?そのようなお話しまでされて…」

蝶姫「えぇ。構わないわ。あのヒトの血をひいている者達ですもの。わたくしの事など、微々たる事」

侍女「“お嬢さま”が良いのでしたら、私は構いませぬが…。それにしても、今日もみんな元気にやっていますね」

蝶姫「えぇ。幸せな時間だわ」

侍女「左様さようでございますね。さて、失礼ながら、また席を外してしまいますが、ご用命がございましたら、お声がけくださいませ」

侍女は去る。


孫会議では、まだまだ熱い持論が展開されていた。

蝶姫は、まだ熱いお茶を味わう。


少ししてから、孫達がまごまごしながら、蝶姫に話しかけてくる。

孫A「お婆さま?お婆さまは、いったいどのようなお婆さまなの?…。その…、ワ、ワタシは、凛として神々しいお人柄だと思っているの。でも…」

孫B「でも、オレは、おじい様も強かったけれど、それ以上の猛者もさだと思ってるんだ。猛者猛者もさもさ

孫C「ボクは…。さっき話したとおりなんだけど…(ごくり)。実はお婆さまは、ボクらの知らない色々な一面を持っているんじゃぁないのかなー?って思ってきたんだ」

孫A「こんな風に、意見がそれぞれ違うの。どのお婆さまが正解なの?」

孫B「オレの猛者説が正しいはず」

孫C「ボクは人を見抜くのに長けていると思っていたんだけど、まだまだだなぁーと思った。正直、分からないんだ、お婆さまの本質が…。まるで“闇”に包まれているみたいで…。うかがい知れない。何が正解なのか?お婆さまは何者なのか?(ごくり)」

孫Cは震えながらそう話すので、蝶姫は近くに呼び、抱き寄せる。


蝶姫「大丈夫」


すると、孫Cの震えは止まり、

孫C「!?あれ?なんだろう?…。『物語』でおじい様が体験されたみたいに、なんかすごい安心感が…」

と、目を輝かせ、キラキラな笑顔でみんなの方に振り向く。


その様子を見ていた他の孫たちが、わーっと蝶姫に駆け寄り、皆が

「“ぎゅー”ってして~」

と蝶姫にせがむ。


蝶姫は順番に、孫ひとりひとりを抱き寄せては、頭をなでなでし、よしよしと、丁寧にしてあげた。


皆が上機嫌となり、

孫A「えへへぇ~。やっぱり、ワタシが一番“ぎゅー”ってしてもらえたわぁ。頭をなでてくださる回数も多かったもん」

孫B「いいや違うぞ。オレの時が一番“ぎゅー”っていう愛情が強かったぞ」

孫C「ボクはこの安心感をお婆さまからいただいたから、それで十分」

孫A「…」

孫B「だな」

孫C「でしょ?」

などと話す。


孫達がその幸せ感に、ぽわんぽわんと浸っているところに、


蝶姫は少し考えてから、口を開く。


蝶姫「ねぇ、オンナはたくさんの秘密で出来ているの。そして、どんな風にも変われるのよ。演じる事もできちゃう。それに、あなた達がもしかしたら、『知らない方が良かった…』、なんて思う事もあるかもしれないわね…」

いつもとは違う感じで孫達に話す。オトナの女性を魅せるというのか、オトナの秘密を見せようとしているのか、はたまた元来の妖艶さから醸し出す摩訶不思議な力によるものなのか、辺りの雰囲気は一変する。


つい先程まで、ぽわんぽわんと幸せ感満載であった孫達の背中を、ひやっとした風が通り抜ける。ついでに桜の花を散らしていく。


蝶姫「まぁいいわ。まだ『物語』は始まったばかりなのよ。まだまだ続きはあるわ。聞きたい?」

と、いつものようにやさしいお婆さまの様子に戻る。


孫A「(知りたい。オンナの秘密。お婆さまの秘密。知りたい。でも怖いかも…)」

孫B「(知りたいぞ!だがなんだこの違和感は!?恐いぞ…)」

孫C「(…。うぁ、これって、『大丈夫』って言っていたのに、『大丈夫』じゃないパターンだよ…。絶対にそうだ…。で、でも。知りたい…)」


孫たちは一度お互いの顔を見て、様子を探る。


そして、孫たちは首を縦に振った。


それに答えるように、蝶姫も首を縦に振った。ゆっくりと。やさしく。



春の風達は…この時は通り過ぎなかったようだ。

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