№Ⅲ 首輪に縛られし王女



「服を脱げ」



 ユーリシカに捕まってから数時間、私は城の地下にある檻に閉じ込められた。

 ようやく誰かが来たと思ったら開口一番これだ。


「断る! 私を誰と心得る? グリム王家を継ぎ、王国を導くシャーリー=フォン=グリ――」


「知らねぇよバーカ。いいから脱げ。ユーリシカ様の命令だ。従わねぇと、お前の父上と母上がもっと悲惨な目に遭うぜ」


「――――!? 貴様ら……父上と母上になにをした!!?」


「知りたきゃ言う通りにしろ。話はそれからだ」


 乱雑な兵だ……鎧を着て、剣を持って、これほど無礼な男は見たことがない。


「下衆共め……!」


 私は後ろを向き、ドレスを脱ぎ始める。


 局部を見せないよう、両手でカバーしながら肌を晒していく。――形容できない屈辱だ。

 胃液が沸騰し、脳が焼けているのがわかる。悔しさに比例し、顔が赤くなっていくのを感じた。そんな私の感情などお構いなしに、帝国兵はジッと私の体を見つめてくる。その視線はゴミを漁る烏のようにいやらしく、気色が悪い……!


「良いからだしてるなぁ! さっすが王女様だ!」


 風が冷たい。なのに体は怒りのせいか熱い。

 屈したくないという気持ちとは裏腹に、瞳には涙が溜まっている。


「――うるさいっ……! 言う通りにした! はやく父上と母上のところに――」


「よし、じゃあ準備もできたことだし、今から謁見室へ来てもらおうか」


「謁見室!?」


 謁見室は三階、ここは地下一階……。

 謁見室へは階段を三つ越え、さらに長い廊下を歩く。その間、ずっと裸でいろと言うのか?


「あと、これ付けろ」


 帝国兵はガサツに輪っかな物体を投げてくる。


「ッ!?」


 私は投げられた物を見て、目を疑った。なぜならそれは……犬に付けるような、首輪だったからだ。


「ふざけるな! 誰がこんなものっ!!」

「――だったら、テメェの大切な奴らがどうなってもいいんだな?」


 ここでようやく、私は理解したのかもしれない。


「理解しろよ。テメェらは戦争で負けたんだ……敗者は勝者に従う。これが戦いの鉄則だ」


 そうだ、私の王国は敗北したのだ……。

 だったら私にできることは、必死に尻尾を振り、コイツらにできる限りの媚を売る事しかないのか? 


「…………。」


 いや、いつか必ず、コイツらの首を噛みちぎる。だが……


――せめて、父上と母上の安否を知るまでは。


 私は無言で首輪をつける。瞳からは、力なく溜めていた涙が流れた。

 家族と侍女以外に晒したことのない裸体を、見知らぬ帝国兵に晒しながら私は廊下を歩く。


「――――っっっ!!!」


 屈辱から声を漏らそうとして、私は必死に抑える。

 手は臀部の後ろで縛られ、局部を隠すこともできない。


 周囲を取り囲む兵士たちは我が国の騎士団と違い潔癖さの欠片もなく、私の体をまじまじと見ていた。舐めるような、下劣な視線。


 謁見室へたどり着いても、その視線が途切れることは無かった。 

 正面にある父上がいつも座っていた玉座にはあの男、ユーリシカが座っている。


「ああ……やはり君はありのままの姿も美しい。私の目に狂いは無かった。見える部分だけ着飾る女は多くいるが、服の下までこだわる女は珍しい。君は外も中身もしっかりと王女たる人物だった……」


「――下衆が。私の名を忘れたわけではないでしょう……!」


「シャーリー=フォン=グリム。死神の系譜……」


「父上と母上をどこにやった!? グリム王家に逆らえば、死神様がだまってはいない!!」


「ふっ。ふあははははははあっははあっはっはははははっ!!!! 死神ぃ? あんな伝承を信じる馬鹿など貴様ら以外にいるのかね? ――それに、例え死神が出てこようと私の覇道を阻むことはできない」


 なんだ? この男の余裕は。

 以前は衛兵を十人は側に置き、皿が割れる音にいちいち震えていたというのに、今は逆。玉座の近くに兵士はおかず、堂々としている……私の怒号にさえ眉一つ動かさない。


「さてシャーリー。これから君に対し、私がなにをおこなうかわかるか?」


「――首を落とすか、火で炙るか? 勝手にしなさい。そんなことで私が怯えると思っているのなら浅い知恵だと言わざるをえない! 煮るなり焼くなり好きになさい! だがその後は覚悟しろ……! 死神となって、地獄の鎌を持って貴様の首を撥ね落とし、冥府の濁水で煮込んでくれる!!!!」


「違うな、間違っているぞシャーリー……私は君を殺さない」


 ユーリシカは玉座から立ち上がり、なぜか服を脱ぎ始めた。

 私は思考を麻痺させる。目の前の男が、なにをしてるか見当もつかなかった。


「貴様、なにを――」


「我が手駒よ。その女の体を抑え、尻をこちらに向けさせろ」


『へへっ。りょーかい』


『任せといてください』


 私の体の二倍の厚みはある男四人が私の髪を掴み、顔を地面に押し付ける。


「痛っ!」


 右脚と左脚を、一人ずつ持って左右に広げる。

 誰にも見せたことのない部分を広げながら、私は背後を見ることもできず……ただ奴らの行動を理解できないまま、恐怖に身を震わせた。


「なんだ……? なにをしようとしている! やめろ、離して……!」


 わからない。

 わからないわからないわからない……!

 なにか気持ちの悪いことをされようとしている。それだけはわかる。男たちの視線が絡みついてくるのを感じる。


 ぴと。と、気持ちの悪い感触の物体が尻を舐める。


「ひっ――――」


「君に、男というものを教えてやろう……」


 私は何をされているかわからないまま、はじめて――女という生き物を、理解した。



 ――――――――――

【あとがき】

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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