初めての営業



プレゼンを終えてから数日後、上司の田中からリュウに新たな指令が下った。「今度は君に取引先との商談を任せたい。少し難しい案件だから、上手く交渉をまとめられるといいな」と言われ、リュウは任務に燃えていた。



「取引先との商談…つまり、敵対する勢力との交渉術が求められるわけか。よし、ここはかつて魔王軍との交渉で培った技術を使うときだな!」



リュウはかつての戦場で培った交渉術に自信を持ち、さっそく「営業」という任務に臨むことにした。



* * *



指定された取引先のビルに到着すると、リュウはすぐに意識を切り替え、堂々とした足取りで応接室に向かった。取引先の担当者は、若い営業マンらしき人物が一人。彼は少し緊張しながらも、リュウに名刺を差し出した。


「初めまして、△△商事の山田と申します。本日はよろしくお願いします。」


「おう、山田殿。こちらこそ、よろしく頼む。」


リュウは堂々と名刺を受け取り、自らの名前をしっかり伝えた。そして、早速彼なりの交渉術を使って本題に入った。


「さて、山田殿。我々が手を結べば、双方にとって多大な利益をもたらすこと間違いなしだ。もちろん、そちらが我が社に完全な忠誠を誓ってくれるのであればな。」


山田は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、「はい、弊社としてもできる限り貴社の条件に合わせたいと考えています」と応じた。リュウはその言葉に満足げにうなずき、さらに言葉を続けた。


「良い返答だ。だが、契約を結ぶにあたっては、互いの誠意を見せるのが筋というもの。そちらの覚悟を見せてもらうためにも、まずは一つ、誓いの儀式を行おうではないか。」


「誓いの…儀式?」


山田は戸惑いを隠せない様子で、リュウの顔を見つめた。リュウの頭の中では、かつて盟約を結ぶ際に行った「儀式」の記憶がよみがえっていた。リュウは真剣な表情で手を差し出し、山田の目をじっと見つめる。


「ここで互いの手を握り、心からの誓いを立てるのだ。これにより、我々は敵ではなく、互いを守り合う盟友としての契りを交わすことができる。」


困惑しつつも、山田はその情熱に圧倒され、言われるがままにリュウの手を握った。そして、リュウは満足げに微笑み、深くうなずいた。


「よし!これで契約は成った!今後は心を一つにして、我が社の繁栄に尽力してくれることを期待する!」


その瞬間、山田の頭の中で「営業とは一体何なのか」という疑問が渦巻き、応接室にはなんとも言えない沈黙が流れた。リュウにとっては完璧な「契約儀式」だったが、山田にとってはただの「よく分からない握手会」でしかなかったのだ。


こうしてリュウの営業デビューは、予想外のすれ違いとともに幕を閉じた─。


上司に報告した際、田中は「なんだかよく分からないけど、取引先が妙に満足していた」と苦笑し、リュウの熱意を褒め称えた。リュウは任務を完了したと思っていたが、現代の営業とは少し違うことに気付くのは、まだまだ先のことだった。

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