初めてのプレゼンテーション



研修を終え、リュウが休む間もなく次に命じられたのは「プロジェクト概要のプレゼンテーション」だった。上司の田中から「明日の朝までにまとめて、全員の前で発表してほしい」と言われ、彼は戸惑いながらも引き受けた。



「プレゼンテーションとは…戦場での士気を高めるための演説に違いないな。ならば、得意なものだ!」



リュウは意気揚々と会議室に向かい、プロジェクトの説明書を手にして席についた。パソコンの資料を開いてみるが、ビジネス用語が並ぶその内容に苦戦してしまう。



「…顧客のターゲティング戦略…KPIの達成目標…なんだ、この呪文のような単語は?」



呆然とするリュウを見かねて、同期の田中が隣に来て小声で説明を始めた。「プレゼンってのは、要するに聞いてる人が分かりやすいように、伝えたい内容をシンプルに説明することだよ。難しく考えないでさ。」



「なるほど、伝えたい内容を簡潔に…。じゃあ、魔物討伐の戦略と似たようなものだな!」



そう納得したリュウは、再び気合を入れて資料作成に取り組んだ。彼の頭の中では、部下たちに戦略を伝えるのと同じ感覚で内容を組み立てる。しかし、その「伝えたい内容」はどうにもビジネスには馴染まないものばかりだ。



* * *



翌日、いよいよリュウのプレゼンが始まった。彼は自信満々に前へ出て、社員たちを前に堂々と口を開いた。



「皆さん、今回の任務について簡潔に説明いたします!まず第一に、社の生産性を上げるためには、各員が自らの力を磨き、団結して敵に立ち向かうことが重要だ!」



社員たちは目を丸くし、ざわめき始めた。「敵…?団結…?」と、不安げな顔がちらほらと見える。しかしリュウはそんな視線に気付かず、ますます熱を込めて続けた。



「そして、敵の動向を見極めつつ、我が社の優位性を確保するために、常に最前線で戦う覚悟を持つべきだ!これが我が戦略…いや、プロジェクトの要です!」



一瞬の静寂の後、場内はなんとも言えない雰囲気に包まれた。リュウの堂々とした態度と説得力は抜群だったものの、内容があまりにも「勇者的」すぎるため、社員たちはどう反応すべきか困惑しているようだ。



やがて、上司の田中が苦笑しながら拍手を始め、他の社員も戸惑いながらも拍手に続いた。「まぁ、…エネルギーに満ち溢れたプレゼンだったな、リュウ君。ぜひ、その気持ちを持ち続けてほしい。」



リュウは上司の評価を素直に受け取り、「はい!全力で我が社のために戦います!」と誇らしげに応じた。



このようにして、リュウは初めてのプレゼンテーションを終えた。内容のすれ違いはあったものの、彼の情熱と一生懸命さが伝わり、ある意味で上司や同僚に良い印象を与えることに成功した。だが、彼が「現代企業で求められるプレゼン」との違いに気付くのは、まだまだ先の話だった。

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