第13話 フラットダンジョン2
スケダの腹時計によれば、フラットダンジョンに入って既に二十時間が経過している。前世に興味を持った三人のせいで、スケダの話は無駄に長引いたのだ。ちゃんと睡眠も取っているため寝不足感はない。
長く長かった自己紹介を終え、四人で炬燵(何故かユウヒメが持っていた)を囲い座る。
「オレの話はもう何もねえ」
「旅行の話を聞き足りないのだけれど?」
「お姉ちゃんもっとスケダくんのちっちゃい頃のお話聞きたいなぁ」
「べ、べつの世界の創作についてもっと聞きたいですようっ」
まだまだ聞き足りない様子の三人に、スケダは炬燵に顎を乗せ首を振った。さすがに少々話し疲れた。心のダイスケは「オイオイ、美女美少女と同じ炬燵とかエロ過ぎるだろ。足でこう……なんかしようぜ!」と元気いっぱいだった。なんだ、足で何かって。
「オレのことはまた今度にしてくれ」
怠そうなスケダを見て、皆がほんわかと微笑む。姉だけはちょっと可愛すぎる弟くんの仕草に興奮していたが。
とにもかくにも、フラットダンジョンに入る前より雰囲気はよくなっていた。ずいぶんと打ち解けてきている。
パーティメンバーの絆ゲージ上昇を強く感じる。これだけでもダンジョンに入ったかいがあったというもの。
どう考えてもダンジョン内でする話ではなかったが、ダンジョンは奇想にして天外。ダンジョンに常識も非常識もないのだ。
「セティレ、次は……あんたの話を聞かせてもらってもいいか?」
選んだ理由は特にない。しいて言うなら最初の仲間だから、だろうか。
巨乳の魔法使いはこくりと頷き、紫色の瞳を爛々と輝かせ話し始めた。
「お話、させてもらいますようっ」
そうして始まるセティレ劇場。
目を閉じ、語り始めた女の夢はどこまでも物語的で狂おしいほどに一途だった。
「――私は、お姫様になりたいのですよう」
"お姫様になりたい"。
そんな一言から始まった話はノンストップで三時間かかった。ざっくり端的に言うと上記の一言になるが、要するに「昔読んだ物語にこんなものがあったのですよう。悪者に囚われたお姫様を王子様が必死に必死、それはもう懸命に命も魂も人生も、全存在を懸けて救い出しに行くのですよう。王子様は王子様なのでお姫様への想いだけで死んでも蘇るし、どんな障害も打ち破って踏み倒して真正面から突き抜けてくるのですよう……!!私はそんなお姫様になりたいし、そんな王子様を探しているのですよう!」となる。
セティレの王子様像は。
・死んでも蘇る
・お姫様大好き
・苦難を乗り越え勝利する
・強大な敵の前で覚醒する(お姫様への想いで)
・魔法も剣も徒手空拳も治癒も全部一人で熟せる
らしい。超人かな? 特に「死んでも蘇る」辺りが超人過ぎてやばい。スケダは戦慄した。そして受け入れた。ダイスケも「うんうん、そういうこともあるよね。わかるよ」と穏やかな声で頷いていた。
セティレの多種多様な物語構想が四時間を超えた辺りで、ダンジョン滞在二十四時間に到達する。
「――セティレ、ルルルア、姉ちゃん」
立ち上がり、周囲の変化へ警戒態勢を取る。周りを見れば既に全員が己の得物を持って気を張り巡らせていた。
セティレは長杖、ルルルアは杖剣、姉は短剣、そしてスケダは剣と盾だ。
「くふふ、思ったより早かったわねえ」
「うぅ、お話途中だったのですようっ」
「また聞くから今は戦闘用意だぜ」
「スケダくん、お姉ちゃんが警戒しておくから荷物しまっちゃっていいよ!」
「了解」
ささっとテントを畳み収納魔法へ入れる。その間にも景色は入れ替わり、近未来的通路が一つの四角い部屋へと拡張収縮されていった。
全体的に青色がかり、天井には謎の模様が描かれLEDライトのような光が灯る。壁から床まで不思議な材質の石製となり、不規則な継ぎ目から人の手を感じる。SFはSFでも、先ほどとは趣が異なるSF空間へ早変わりしていた。
「ルルルア。この部屋の情報はあるか?」
「ないわよお。わたくしも驚いているわあ」
「その割には楽しそうだな」
「くふっ、それはあなたもでしょお?」
「はは! そりゃそうだ!」
前衛に戻り、並び立ったルルルアと軽口を叩く。隊列は最初と同じ、前にスケダとルルルア。真ん中にユウヒメ、後ろにセティレだ。
「あははっ、スケダくんが楽しそうでお姉ちゃんも嬉しいよ!」
「み、皆さんどうして楽しそうなんですよう?」
「そりゃオレら探索者だからな。ダンジョン攻略は楽しんでこそだろ!」
「くふふ、わかってるじゃない。そう、わたくしたちは探索者。ダンジョンを楽しんでこそ真の探索者よお」
「お姉ちゃんはそういうの興味ないけど、スケダくんと一緒だとずっと楽しいよっ」
「……確かに、ちょこっとだけ一人の時より楽しいですよう」
和む話はそこまで。
前方の床が沈み込み、ウィンウィン音を鳴らしながら魔物――否、機械がせり上がってくる。
『絆ゲージの規定値累積を確認。これより真の仲間、試しの儀を開始する』
「本当に絆ゲージとかあったのかよ!?」
「スケダあ?」
「スケダくん?」
「す、スケダさん?」
「い、いやなんでもねえ。悪い。ちょっと驚いただけなんだよ……」
どうしてオレが謝ってるんだと微妙に納得いかない。が、今はそんなことを気にしている暇じゃない。
「来るぞ!」
叫び、現れた機械魔物に備える。
一つ目、両の手には銃口。胴体には穴。謎の半透明青エネルギー玉が揺らめいている。足は三つだが微妙に浮いている。細かな刃が見えるので近づき過ぎは厳禁だ。全身に青白い光のラインを走らせている。サイズは人間大。スケダより少々大きいか。
「私はバリア張れないですよう!」
「わたくしが防ぐわあ」
「頼んだぜ!」
向けられた手の銃口から青いビームが飛んでくる。前に出たルルルアが杖剣を振って弾いた。超常的な技巧で撃ち込まれるビームを弾き続けている。五秒ほどで撃ち止めか、即座にスケダとユウヒメが走った。
「姉ちゃん左右から行くぜ!」
「ふふ! 愛の共同作業だねっ!!」
挟撃。一つ目がくるりと左右を確認し、銃口を持ち上げる。
「隙だらけですようっ」
掲げた杖より生じた球が三つ又の光条となって機械へ伸びる。同時に機械の胴体から太いレーザーが発射され、セティレの魔術を呑み込み、バリアを張ったルルルアへぶつかる。
「ぬるいわねえ」
口角を上げるルルルアの背後で新たな魔術が起動する。その間、スケダとユウヒメは近距離ビームを避け続けていた。
「あぶねえ! 今髪擦った! 姉ちゃんそっちは平気かよ!?」
「きゃー! スケダくんに心配されちゃったぁ! でも平気!お姉ちゃんはお姉ちゃんだから!――ほらそこ隙だよ!!」
ビームを掻い潜った姉が一つ目にナイフを突き立てる。短い硬直に対し、能力ダウンの少ないスケダが実体剣に魔力を纏わせ疑似魔法剣として斬りかかった。クリティカル! しかしダメージ自体が薄い。機械の硬直はすぐに解け、足を伸ばし刃を振り回そうとする、がセティレの拘束魔術により数秒動きを止めた。
「お姉ちゃんステップ! あーんどお姉ちゃん眼球串刺しっ!!」
「物騒過ぎる!? けどオレも負けてられねえ。魔力圧縮の魔剣ブラスト!!」
姉の連続眼球集中攻撃と、スケダの疑似魔法剣により着々とダメージが溜まっていく。
動き出そうとする瞬間を狙ってセティレの魔術が炸裂し、ルルルアは静かに機械の様子を見ていた。
「あなたたち、退きなさあい!」
「っ! 了解!」
「ん! おっけーだよ!」
機械の微細な変化を読み取ったルルルアの一声により、前衛二人が左右に跳ぶ。
瞬間、機械魔物はレーザーを乱射し周囲を薙ぎ払った。
「ヒュー、あっぶねえ。当たったらやばかったぜ」
「お姉ちゃんも当たったらちくっとしちゃってたかな」
「ちくっとするだけかよ……。ルルルア、ありがとう」
「くふ、いいわよお。それより集中なさあい。来るわよお」
セティレの拘束魔術は破られ、設置した地雷も容易く踏み潰され機械は走り始めた。否、浮遊高速移動を始めた。
「ちっ、姉ちゃん!」
「了解だよ!」
職業を「盗者」に変え、姉とほぼ同速で駆ける。
機械のレーザーは完全にセティレ狙いだ。ルルルアは極太のレーザーを防ぐので手一杯であり、両手や眼球から発生するビームへの対処が追い付いていない。どうにか避けているセティレも近づかれたら終わりだろう。
「お姉ちゃんを舐めちゃだめだよっ! あ、スケダくんならいくらでも舐めていいからね!!」
「いや舐めねえけど!?」
ツッコミを入れつつ横から機械に飛び込んだ姉を見る。
上手く手のビームを避け、眼球のビームを身を捻って避けて頭部に一閃。突如のバリアに弾かれ目を見開くも、瞬時に空中を蹴って逃げに回る。そこまで見て、スケダは動きを変えた。
「スケダくん! バリア張られてるかも! どうにかできるよねっ!」
「はっ! 任せろっ!!」
職業は「普魔法使い」。生み出した魔法剣に「普魔術師」で指向性魔力爆破を仕込む。ボス猿を相手にした時と同じ要領だ。今回はバリア破壊が目的なため以前ほどの魔力を込めない。
「盗者」で近寄り、ビームを避けつつ姉のヘイト稼ぎを利用して眼球へソードイン。
「砕け散れッ!」
キィィンと一瞬の甲高い抵抗を抜けてバリア破壊に成功した。
追撃はビームを浴びたせいで失敗。防御も失敗。ルルルアが防御スキルで庇ってくれた。
「油断禁物よお?」
「ありがとよ!」
「くふふ」
笑い合い、機械の背後から襲い掛かっているユウヒメに加わる。
「強化魔術重ね掛けですようっ!」
やけに姉の動きが速いと思ったらそういうことだったか。
スケダも加速し、「魔法剣士」で実体剣に最大魔力をチャージする。剣の耐久度は無限大だ。何せ院長製だから!
「ウォオオオオオ!!」
咆哮し、魔術の追い風に押され最大最速で刺突を放つ。
ビームとレーザーはすべて仲間が阻止してくれた。
「スケダくんの見せ場は大事だもんねっ!」
「その攻撃は見飽きたわあ」
「スケダさん! お願いですようっ!」
両腕はユウヒメが、胴体はルルルアが、眼球はセティレが。
タイミングを合わせた完璧な連携に、スケダのコンビネーションゲージも上限突破だ。
「ありがとよ皆!! 行くぜっ! オレたちニューパーティの――――」
風に乗り、引き絞った剣を前へ押し出す!
「――クロスブレイザァだあああああああああああ!!!!」
閃光、そして激震。
魔力が明滅し、攻撃後無防備なスケダを守る形でユウヒメがポジショニングする。ルルルアは既にスキルを用意し、セティレも別の魔術を組んでいる。警戒は止めない。
機械魔物は胴体を貫かれ、青白いエネルギーを床にこぼし弱く点滅していた。
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