苦手なもの

朝食をとった後コタロー君の部屋に食器を取りに行く。部屋に入ればすでに食べ終えたのかコタロー君はじっと窓の外を眺めていた。


「コタロー君」

「!、お姉さん」


私に気付いたのかコタロー君は、こちらに振り向きテーブルの上から食器を持ってくる。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした、味はいかがでしたか?」

「ん?…うん美味しかったよ」

「?、余り美味しくなかったのですか?」

「ううん!すっごく美味しかったよ!」

「?」


明らかに微妙な反応をしていたコタロー君…もしかして苦手な物でも入っていたのでしょうか?


「好き嫌いがあったら言って下さい、わからない様に切り刻んで混ぜますので」

「…どうしても入れるの?」

「当たり前です、それで何が苦手何ですか?(やっぱり好き嫌いがあっただけか)」

「えーと…牛乳」

「え?牛乳ですか?」

「うん…何か変な味だから飲みにくいんだよね」

「訓練所では給食の時どうしてたんですか?」

「え?訓練所じゃ脱脂粉乳が配られてお椀に入れて飲んでたんだよ?脱脂粉乳も苦手だったけど栄養が高いから1日1杯必ず飲む様にって、残したら怒られるから我慢して一気飲みしてたよ」

「脱脂粉乳ですか…わかりました、次から牛乳にココアでも入れてきます」

「ここあ?あっあのたまに脱脂粉乳の変わりに出てくる茶色いやつ?」

「そうです」


牛乳に入れたらどんな味になるんだろー?と首を傾げるコタロー君…改めて華族と庶民の生活レベルの違いがよくわかる。


「(やはり私も元華族の娘だったのだと思い知りますねぇ)…それでは食器を下げてきますので、その間にそこに用意した着替えに着替えてなさい」

「うん!」







食器を洗い終え再びコタロー君の部屋に戻る、着替え終えたコタロー君はまた窓の外を眺めていた。


「外に何があるんですか?」

「ん?凄く綺麗な景色があるよ、しかも20階から何て始めてだよ」

「確かに…このホテルが建てられたのも、景色が良いからって理由でしたからね」

「へー…誰が建てたの?コルヴォさま?」

「いえ、先代が買い取る前の持ち主のホテルのオーナーです」

「何で潰れちゃったの?」

「そりゃ曰く付きだからです」

「…え?曰く付き?」

「ええ、先代に耳にタコが出来る程、繰り返し聞かされた話何ですが…」


ここはホテルが建てられる10年前までは霊園でした。


その土地の地主は人が死んだ後は、景色の良いこの場所で安らかに眠って欲しくて霊園を造ったそうです。


しかしその地主のバカ息子がこの景色に惚れ込み、父が死んで土地の権利を有して直ぐにホテルを建てる事にしたんです、最初はその近くに住む住民達も反対運動を起こし、止め様としたのですがそのバカ息子は権力でねじ伏せ、墓を取り壊しホテルを建てたそうです。


そしてそのホテルは貴族達に大評判のホテルとなり日を重ねる事に客足が増えていきました。5年が経ち最初は10階程度だったのですが常に満室となったホテルに、バカ息子は「こりゃ増築工事を始めにゃならん、よしドーンと20階にして最上階にわしの部屋も造ろう!」と一気に50階まで建てました、建て直した後は貯蓄が底を尽きそうになりましたが、すぐに取り戻せたそうです。


しかし増築工事をしてから数ヶ月後、ホテルは大火事となりました。


出火の原因はわかりません、しかし後の調べで分かったのですが、その日は毎年霊園に眠る魂達を鎮める為の、火祭りをする日だったのです。


ホテルが建てられた後も少し離れた場所で行われていた行事…しかし毎年その場から炊き上がる煙に腹を立てていたバカ息子は、増築を期にその行事を禁止する事にしました。


そしてその日の晩にホテルは全焼…火の周りが尋常ではない位、早く出火からたった一時間で全体に燃え広がった様です。


しかし不思議な事に燃えたのはホテルだけ…周辺に生い茂っていた森には、全く被害が及ばなかったのです。


周囲には天罰が下ったのだと噂が広まりました、バカ息子は住人達が逆恨みに放火したのだと周囲に訴えましたが、証拠が無い為にその訴えは無視されてしまいました…しかしバカ息子は懲りておらず再びホテルを立て直し、その利益で住人達全員を有罪にして、処刑する為の資金を集め様と多額の借金をしてまで再びホテルを建てたのです。


すぐにまた繁盛して借金も返せると高をくくっていましたが、勿論そんな曰く付きのホテルに泊まりたがる客がいる筈も無くホテルは大赤字、借金は返済日を過ぎどんどん膨らんでいき遂にそのバカ息子は、ホテルのロビーで首を吊って自殺したのです。


その土地は直ぐに買収されました、しかしいくら景色良好で立て直された新築ホテルがあれど、そんな忌まわしい事件があっては誰も買い取る事は無く、その土地の価格は10分の1まで下がりましたが誰も近寄ろうともしません、周辺に住んでいた住人もその土地から離れていったそうです。


誰も買いたがらない曰く付きホテルを、5年前に物好きな先代が買い取ったのです。


「…何でそんな怖い所先代さんは買い取ったの?」

「先代は変わり者でしてねぇ…極度のオカルト好きで幽霊が見れそうという理由で、このホテルをアジトにしたそうです」

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