鷹の伯父・鷲の叔父

私達がこの世に生を受けた時、始めはたった1つの卵子でした




それが3つに別れ同じ時を胎内で育ち、同じ日に生まれ落ち


そして長男・次男・三男へと分かれたのです


私と三男との違いは産まれた順番が違う、それだけでした


しかし次男だけが異形として産まれ私達から引き離されてしまったのです




×××




光太郎がマフィアに入る1年前、日ノ本から遠く離れた戦地


「なに?その話は本当ですか?…ええ、わかりましたすぐ手配致します」


明日から始まる新しい任務に向けての準備中、病院から通信が入り私は作業を中断させて通信機を手に取る、そこで聞かされた内容に我が耳を疑ったが、相手方は冗談を言っている様子も無く、私はその件を了承し通信機を切った。


「…」

「なんじゃ兄者?一体何の連絡じゃ?」


了承したは良いがどうするべきか悩んでいると、弟の鷲三が声をかけてきた。


「…“彼女”があの流行病に感染し病死したそうです」

「何じゃと!?」

「子供の方も感染しましたが何とか一命を取り留め生存…しかし母子家庭だったため母親が死んだ今、誰もあの子を育てる者がいないそうです」

「ああ、あの嫁っ子が兄貴以外は嫌だと兄者の再婚の申し出を拒否って振られたんじゃったっけ!ワッシャッシャッシャッシャ!!」

「五月蝿いですよ鷲三…全く今まで私達を双子双子と三つ子である事を認めなかった癖に、こんな時だけ親族と認めるなんて本当腹の立つ連中ですよ、怒り通り越して笑いがこみ上げますね…カーッカッカッカッカ!」


怒りを通り越して込み上げてくるものを高笑いで発散させながら、私はもう1人の弟の伴侶となった女性との間に産まれた息子を思い出す、目元は母親に似ていたが顔立ちなどは私達と良く似ており、正真正銘弟の忘れ形見だった…確かに彼女の美しさに惹かれなかったと言えば嘘になるが、それ以上に今は亡き弟の血を受け継いだその子と親子になりたくて、何度か再婚を申し出たが首を縦に振る事は無かった。


伴侶が戦死した時の日ノ本軍からの補助金はもう出てないし、貯蓄があったとしてもそろそろ底を尽きるだろうから、今回の任務を終えたら一気に畳み掛けようと思っていたが…まぁ私が家族に迎え入れたかったのは忘れ形見であって、彼女ではないのだから寧ろ好都合だったかもしれない。


「兄貴の戸籍削除して、ワシらとの繋がりを一切否定していた癖に都合の良い連中じゃのぉ、しょうがないワシの所の養子に「私が引き取りますよ」

「兄者が!?」

「しょうがないでしょ、あなたが馬鹿みたいに種付けしたせいで5人も子供を養っている状態、引き取る余裕があると思ってるんですか?」

「手厳しいのぉ、しかしなんでまた?」

「今まで紹介してきた見合い相手でろくな女が全然いませんでしたからねぇ…結婚も出来ず次で何回目の見合いだと思ってるんですか?」

「3回目…兄者の今回の見合い相手は納得するかの?」

「納得も何も亭主の言う事を聞けない馬鹿女を伴侶にするつもりはありませんよ」


上層部の方から結婚してない男は甲斐性が無いと、やたらと見合いを進められるが一人目の女性は部屋に置き忘れた私の通帳の貯蓄を見て、一目散に銀行に駆け付けるという犯罪行為に走ったり(暗証番号は誕生日以外にしていたから未遂に終わった)二人目の女性はどこかのお嬢様で、家事は一切出来ず私と結婚した後どうする気かと尋ねたら、私が働いて稼いだ金で家政婦雇って家事は大体やって貰って、残りは私にやってもらうなど家を守るのは嫁の勤めであり、その上仕事で疲れた夫に家事をやらせるのは何事だと、上層部に抗議しその女との見合い話を撤回して貰ったりと、両方散々な結果で破局した(両方相手側に非があり私に対するお咎めは無かった)。


「しかし明日から大事な任務…どうしても抜けられませんね」

「…あの子の事ならワシのかみさんに言って、少しの間世話する様に言っておくわい、なに1年くらいだし今更子供が1人増えた所で大丈夫じゃろう」

「それならお願いします」


本当は今すぐにでも甥を迎えに行きたかったが、今回の任務を大成させれば今度こそアレを手に入れられるかもしれないと思うと、どうしても任務を抜けられないと悩んでいたが、鷲三からの申し出に甘える事にした、第三者に任せるのは少し不安だったがこの場合しょうがない。


「鷹一軍曹!こっちの準備手伝ってくれ!」

「わかりました隊長、では連絡お願い致します」

「了解………ワシじゃ、そっちに帰るまでちょっと頼まれてくれんかの?実は兄貴の倅が訳あって両親が亡くなってしまっての、じゃから引き取って欲しいんじゃ………なに嫌じゃと?少しの間面倒見るだけじゃ辛抱せぇ、えーっと確か兄貴の倅の名は…何じゃったかの?」


隊長に声をかけられ甥の事を全て鷲三に任せてしまった、しかし弟の性格と悪癖を良く知る私にとっては痛恨のミスであり、結果その不安は見事的中するものとなったのだった。

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