コタローの部屋

「ここが今日からコタロー君が生活するお部屋です」

「え?生活?」

「(何故かは知りませんが)コルヴォ様はコタロー君を、ここに住まわせる為に連れてきたみたいですからね。なので今日からここがコタロー君の部屋です」

「え!?僕帰れないの!」

「恐らく…」

「そんなのヤダ!!洗濯物干しっぱなしなのに!」

「主婦ですか…それにここにいた方が良いのかもしれませんよ?」

「何で?」

「家にあなたの帰りを待つ人はいるのですか?」

「!」

「家に両親はいない、訓練所に行っても誰も構ってくれないし」

「………」

「それに引き換えここで暮らせば家事は私がしますし、毎日美味しいご飯が食べられて、なにより私と毎日一緒にいられます」

「!…毎日一緒?」

「そうです」


本当は子供の相手何て御免被りたい所ですが、コルヴォ様に言い渡された事である以上腹を括りましょう、幸い見た目は(身長だけですが)子供に見えなくも無いし、逸早く日ノ本男児に育成すれば良い話です。


…まさか私に子供を育てる日が訪れるとは、夢にも思いませんでした。


「これからずっと一緒です、よろしくコタロー君」

「うん!よろしく!」


コタロー君は嬉しそうに頷いた。


その約束が優しくて残酷な誓いだと気付かずに




×××




「失礼します、紅茶のおかわりをお持ち致しました」

「…」


ポットを持ちコルヴォ様の部屋に入ればコルヴォ様は窓を開け、その風を受けながら煙草を吸っていた。


「コルヴォ様、仕事机に置いておきます」

「…」


私の言葉に気付かない程、何を思い耽けっているのでしょうか?…ん?


私は仕事机の上に大きな花束が置いてある事に気付く…その花束を見ると、それはすっかり萎れているが3日前に買った菊の花束である事に気付いた。


「………紅菊」

「!、何でしょうか?」

「もう菊の花束を買う必要も、銀行に行く必要も無くなった…来月から行かなくて良い」

「何故ですか?」

「…なくなったからだ」

「…そうですか、それでコタロー君を連れてきた理由を話すつもりはないんですか」

「…」

「そうですか、失礼しました」


私はそれ以上何も聞かず、食事を机に置いて部屋を出ようとする。


「それではコルヴォ様、お先にお休みしますので…」

「ああ」


私はコルヴォ様に一礼をして、部屋を後にした。











紅菊が部屋を出たのを確認し、鍵のついた一番上の引き出しを開ける。


奥の方に隠してある一枚の封筒を取り出し、中から写真を取り出す…写真の中には愛おしき1人の女性と、腕に抱かれた赤ん坊。


『コルヴォ』


写真を眺めていると私の半身であり、弟であるクロウが話かけてきた。


「なんだ?」

『ゲンキになってヨカったね』

「ああ」

『キクちゃんともナカヨさそうだったネ』

「ああ」

『…ねぇコルヴォ』

「ん?」

『…ごめんナさい』


クロウは消え入りそうな声で私に謝ってきた。


「何故謝る?」

『だダコねテ…ツレてきちャった』

「…」

『そレに…けがさセチャッた「それは違う」


今にも泣きそうな声色を私は遮る。


「あれは私の不注意のせいだ、それに私も…同じ気持ちだった」

『…』

「連れて来てしまった以上もう後戻りは出来ない、あの子が表社会に帰る時が来るまで、私はあの子を全力で守るつもりだ」

『…ねぇコルヴォ』

「なんだ?」

『きょうダいたちは、むかエニきてクレルかな?』

「…」


私は吸いきった煙草を吸い殻に押し付け窓を閉める、明日は雨なのだろうか分厚い雲が夜空を覆い隠していた。


「…」

『コルヴォ、もうネよう…だいじょウブ、きっとむかエニキてくれルよ』

「…そうだなクロウ、もう寝るとしよう」


私は紅菊が持ってきた紅茶をカップに注ぎ、角砂糖を3つ入れティースプーンで軽く掻き混ぜ口に含む、昔よく砂糖を多めに入れ兄に怒られたものだと、懐かしみながら紅茶を飲み干した。

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