コタロー

怖くて叫んでいたら目の前が真っ白になって、体に力が入らなくて倒れちゃったら、お姉さんに支えられて巨人さんのベッドに戻された。ふかふかなベッドの上で毛布を掛けられて、額に手を当てられる。お姉さんの手は冷たかいけど、気持ちいい冷たさだった。


「…お姉さんお化けじゃないの?」

「ええ、ご覧の通り生きてます」

「良かった…お化けじゃなかった」


お化けじゃない事に安心する。でもさっきは確かに誰も居なかった筈なのになぁ。



「気持ち悪くなったら医者を呼ぶので直ぐ言って下さい」

「うん…お姉さん」

「何ですか?」

「僕なんで怪我してるの?」

「…」


僕が不思議に思っている事を訪ねると、吃驚した顔で僕の顔を見返してきた。


「覚えてないんですか?」

「うん…ここ病院なの?」

「違いますけど…覚えてないのは一昨日のことだけですか?自分の名前は?」

「僕?ひのした光太郎、皆からコタローって呼ばれてるよ」

「コタロー君ですか」

「お姉さんは?」

「私は紅菊です」

「べにぎくさん?変わってるけど素敵な名前だね!」

「ここに来る前で覚えている事は?」

「え?えーっと…お母さんの墓参りに行ってた、けど霊園に入ってから覚えてないの」



そうだ…お母さんが死んで1年経った命日だったから、墓参りに行ってた筈。蝉の鳴き声が凄く煩くて、額の汗を拭いながら霊園に入って…それから?どうなったんだろう?


「母親の墓参り?…(そういえばコルヴォ様、人に贈るには縁起悪いと思ってた菊の花束を、もしかして故人に送っていた?)」

「うん、去年死んじゃったから…」

「1人でですか?」

「うん、お父さん僕が小さい時に死んじゃったから、僕お母さんと2人で暮らしてたの」

「母子家庭だったんですか………ん?お母さんと2人で暮らしてたんですよね?その後どうやって暮らしてたんですか?」

「僕1人で暮らしてた」

「はぁ!?どうやって!?」

「お父さんが軍人でね、軍人を家族に持った人は、その人が軍で戦死した場合は軍から補助金が出るから、お母さんと一緒にそれで生活してたんだ、食べ物がすっごく高くなっちゃったけど贅沢をしなきゃ何とか生活出来る金額だったし…お母さんが死んだ後は、家の事全部僕がやってたんだ」

「それでも1人で生きていくのは無理があると思いますが…」

「うん、1年前の僕だったら無理だったと思う」

「どういう意味ですか?」

「僕ね、日ノ本軍軍人養成学校第3中訓練所2年いらねーI組の子なの」

「何ですかいらねーって」

「中訓練所からの組み分けは成績順だから、I組みは10クラスの中で最下位の勉強も運動もダメな子の寄せ集めだから、他のクラスの子達にそう言われてるの」

「え?Iで10組?9組では?」

「A組の上にS組ってのがあって、その子達はみんな教科別に成績が一番とか軍師の才能があったり、天才やエリートの寄せ集めなんだ!」

「つまりあなたの成績は下から数えた方が見つかりやすいんですね」

「うん!そうだよ」

「元気よく返事する事ですか」

「だって本当の事だし」

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