第10話 加速してく想い

 放課後の教室には、夕陽の柔らかな光が差し込んでいた。教室が静まり返り、窓から差し込むオレンジ色の光が机の上を照らしている。その光に包まれながら、俺は時音と向き合っていた。


 時音は席に座りながら、窓の外を眺めている。頬に柔らかく影が落ちて、彼女の銀色の髪が夕陽に照らされてキラキラと輝いていた。その姿がどこか儚くて、見とれてしまう。


 「悠真くん、こうやって放課後に二人でいると……なんだか不思議な感じだね」


 時音がぽつりとつぶやいた。その声には、少しの寂しさと温かさが混じっているように聞こえる。未来から来た彼女と、こうして一緒に過ごす時間がどれだけ特別なのか、彼女の声から伝わってくる。


 「そうだな。なんていうか、君と一緒にいると、日常がちょっとだけ特別なものになる気がするよ」


 俺が笑顔で言うと、時音は照れたように顔を少し赤らめて、でも嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が、胸の奥にじんわりと温かさを広げてくれる。


 「ありがとう、悠真くん……そう言ってもらえると、すごく嬉しい」


 彼女がそう言ってから、少し沈黙が流れた。教室には俺たちだけで、外から聞こえる風の音と、遠くで響く生徒たちの声がかすかに聞こえるだけだった。心地よい静寂の中で、俺たちはただお互いを見つめ合っていた。


 ふと、時音が立ち上がり、ゆっくりと俺の方へ歩み寄ってきた。彼女の瞳がまっすぐに俺を見つめていて、その表情には何かを伝えたい想いが込められているように見えた。


 「悠真くん……」


 彼女が俺の名前を小さな声で呼ぶ。その声が心に響いて、思わず視線をそらせなくなる。時音がゆっくりと手を伸ばし、俺の手にそっと触れた。その触れた瞬間、彼女の手が少し冷たく感じられ、けれどその冷たさが心地よくもあった。


 「ごめんね、突然……こうして触れたかったの」


 彼女の言葉に、胸がどきりと跳ねた。言葉が出てこないまま、俺はただ彼女の手の感触を感じていた。時音の手が少しずつ温かくなっていくのが伝わってきて、その温かさが俺の心にも染み込んでいく。


 「時音……」


 俺が彼女の名前を呼ぶと、時音は少し照れたように微笑んだ。そして、俺の手をしっかりと握り返してきた。その握力が、彼女の気持ちを伝えてくれるようで、俺もそっと彼女の手を握り返した。


 ふいに、時音が俺の顔をじっと見つめてきた。その瞳に吸い込まれそうで、視線を逸らすことができない。彼女の唇がわずかに震えていて、言葉にならない感情がそこに宿っているようだった。


 「悠真くん、私……君のことが、とても大切だと思っている」


 彼女が小さな声でそう告白してくれた。胸が大きく跳ね、俺は息を飲んで彼女の言葉を受け止めた。その言葉が心にじんわりと染み渡り、何も言えなくなる。


 「時音……俺も、君がそばにいるとすごく安心するんだ。未来とか、君が抱えていることとか、まだ全部はわからないけど……君が大切だって、今ならはっきりと言える」


 俺がそう言うと、時音は嬉しそうに微笑んで、でもその瞳には涙が浮かんでいるようだった。彼女が俺を信じてくれる、その気持ちが伝わってくる。


 「ありがとう、悠真くん。君といると、未来の不安も忘れられる」


 彼女がそう言いながら、そっと顔を近づけてきた。俺は自然と目を閉じて、その瞬間に時音の唇が触れるのを感じた。


 柔らかくて温かいその感触が、胸の奥にじんわりと広がっていく。静かな教室の中で、俺たちはただその瞬間を共有し、言葉もいらない気持ちを確かめ合っていた。


 ふと唇が離れると、時音が少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、俺を見上げてきた。その姿がとても可愛らしくて、思わず笑みがこぼれた。


 「ごめんね、なんだか……急に」


 時音が小さくつぶやく。その声が心地よい余韻となって、胸の中に残ったままだ。


 「いや、俺も……すごく嬉しかったよ」


 俺がそう言うと、時音はさらに顔を赤らめて、でも嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が、まるで未来の希望を象徴しているかのように輝いて見える。

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