第9話 ライバル登場!?

 放課後の教室には、夕焼けの淡い光が差し込んでいた。窓際の席で時音と話していると、他の生徒たちが次々に帰り支度を始める。今日も、少しだけ時音と話をする時間が持てるかもしれないと思うと、心の中が暖かくなる。


 「悠真くん、今日はどうするの?」


 時音が少し控えめに尋ねてくる。その言葉に、俺は自然と微笑みながら答えた。


 「ちょっと寄り道でもするか?それともどこか行きたいところでもあるか?」


 俺の言葉に、時音の顔がぱっと明るくなり、嬉しそうに頷く。その表情がなんとも可愛らしく、思わず見とれてしまった。


 「そうだね、少し歩くのもいいかも」


 そんなやりとりをしていると、教室のドアが突然開かれた。現れたのはクラスメイトの美咲だった。彼女は背が低く、いつも明るい雰囲気を持っている活発なタイプで、クラスではよくみんなのまとめ役をしている。


 「悠真くん、ちょっといいかな?」


 美咲が教室の真ん中から手を振って、俺に合図を送る。彼女の声が響くと、クラスメイトの数人がこっちに視線を向けた。なんだか、ちょっと注目を浴びているようで照れくさい。


 「あ、うん、どうした?」


 俺が応じると、美咲は教室に入り、時音にも軽く会釈をした。時音も少し緊張しつつ、微笑みを返している。こうして他のクラスメイトとも少しずつ関係ができるのは、時音にとっても良いことだと思った。


 「時音ちゃん、初めまして。いつも悠真くんと一緒にいるよね?」


 美咲が人懐っこく微笑みかけると、時音は照れくさそうに頷いた。


 「はい、初めまして。時音です。悠真くんと……えっと、友達です」


 彼女が少し戸惑いながら言葉を選んでいるのが可愛らしく、思わず笑いをこらえたくなった。時音が「友達」と言うと、美咲がにやりと意味深な笑顔を浮かべる。


 「友達ねぇ、ふーん、そっか」


 彼女の言葉に俺も苦笑いしながら、「そうだよ」と頷く。俺の表情を見て、美咲がさらににやりとした表情を浮かべてくる。


 美咲が教室を去ったあと、俺と時音だけが残った。夕陽が窓から差し込み、時音の銀色の髪が淡い光に輝いて見える。思わずその姿に見とれてしまった。


 「……どうかしたの?」


 時音が不思議そうに俺の顔を見つめてくる。彼女の澄んだ瞳に自分が映っているのを感じて、少し緊張してしまう。


 「いや、ただ……君のこと、ちゃんと知りたいなって思ってさ」


 俺がそう言うと、時音の顔が少し赤く染まる。その表情が、彼女の心の中をほんの少しだけ見せてくれているようで、ドキッとした。


 「私も……悠真くんのこと、もっと知りたい」


 彼女が小さな声でそうつぶやく。その言葉が、まるで遠い未来からのささやきのように聞こえて、胸が締めつけられる。


 気がつけば、俺たちは窓際で向き合って立っていた。教室にはもう誰もいない。時音が少しだけ体を近づけてきたのがわかり、俺は動けなくなってしまった。


 「ねえ、悠真くん……」


 彼女が小さな声で俺を呼ぶ。その声には少しの不安と期待が混じっているようで、思わず手を伸ばして彼女の肩に触れてしまう。彼女の体が少し震えたのが伝わり、俺は心臓が激しく跳ねるのを感じた。


 「時音……」


 俺が彼女の名前を呼ぶと、時音は顔を上げ、まっすぐに俺を見つめてきた。その瞳が、まるで全てを受け入れるかのような優しさで満ちていて、俺は言葉を失った。


 気づけば、俺たちの顔はごく近くにあった。彼女の唇がかすかに震えているのがわかり、俺も同じように緊張しているのを感じる。


 そのとき、突然教室のドアが開いた音がして、俺たちは同時に顔を上げた。現れたのは、クラスメイトの裕太だ。彼は、少し驚いた顔をしてこちらを見ている。


 「あ、悪い。なんか邪魔しちゃったか?」


 裕太が申し訳なさそうに笑い、頭をかいている。その様子に、俺はなんとか笑顔を作り、首を横に振った。


 「いや、別に……大丈夫だ」


 俺が答えると、裕太はちらりと時音の方を見て、またニヤリと笑う。


 「そっか、そっか。じゃあ、また今度な」


 彼はそう言ってドアを閉めて去っていったが、その一瞬で教室の空気はすっかり元に戻ってしまった。時音も少し気まずそうに微笑んでいる。


 「……ごめんね、私が近づきすぎたのかな」


 時音が小さな声でつぶやく。その言葉に、俺は思わず首を振った。


 「いや、全然。むしろ俺が……」


 思わずそう言ってしまったが、恥ずかしさで言葉を詰まらせてしまう。彼女が優しく微笑んで、俺の腕にそっと触れてきた。その仕草が、心に優しく響く。


 「ありがとう、悠真くん」


 時音の小さな声が、夕焼けに染まった教室に溶け込むように響いた。

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